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本当の君を好きになる  作者: 瑠音
第4章『3年生』
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第35話 距離



「──凪沙、最近表情明るくなったよね?」



「え?」



 席替えが行われてから2週間後。今日も、朝から凪沙の隣の席に座って他愛もない話をしていた。

 そんな時、凪沙の表情が前よりも明るいことに気付き私は何気なくそう口にした。



「……そ、そんなに変わらないと思うけど……」


 凪沙は少し頬を赤く染めて、俯く。


「いやいや、これも湊くんと一緒にいるお陰だよね!」


「へっ……!?」


「だって最近湊くんと二人で行動すること多いでしょ?」


「そっ、そんなのっ……たまたまだよっ……」


 凪沙は顔を真っ赤にして、両手で顔を覆い隠す。

 え、待って。何この可愛すぎる反応。羨ましすぎる。



「そろそろ告白しても良いんじゃない?」


 私がニコニコしながらそう言うと、ピタッと動きが止まる。



「告白は……」



「あんなに一緒にいるし、湊くんもすごく凪沙の事気にかけてる感じだしね!!ここは一つ、勇気を振り絞って……ね?」


 気づけば、凪沙の顔色が普通に戻っていた。そして、その瞳はいつもより酷く冷たい。



「──良いの」




「……え?」



「私は、好きでいるだけで……良いんだよ」




 これ以上何も言うなとでも言っているかのような、そんな重い空気に私は言葉を発する事が出来なかった。


 凪沙は、最近とても明るくなった。それは事実だ。でも、それと同時に分からないことが増えた。席替えをしてから、凪沙と距離が離れてしまったような気がしてならない。物理的にも、心理的にもだ。



「──おはよー」


 そこへ聞こえる、優しい声。

 凪沙は、パッと表情を変えると元気に答える。


「おはよー桐谷くん!」


「あれ?幸坂くんはどこに行ったの?」


「幸坂くんなら先生に呼ばれて、職員室に行ってるみたいだよ!」


「そっかー。……あれ?瀬戸さん、何でそんなに暗いの?」


 突然、私に話が向けられ慌てて答える。



「えっ!?く、暗くなんてないよー!!朝が弱いだけだから!あ、じゃあ私席に戻るね!」



 私は席を立つと、逃げるようにその場を去る。


 何だったんだ?あの気持ち悪い空間は。

 湊くんと凪沙は、変わらず仲良く話を続けているようだ。やっぱり、最近凪沙は変わった。でも、ハッキリ何が変わったかは分からない。

 凪沙は一体、何を抱えているのだろう──?



「──おはよ」


 そこへ、私の癒しである樋野くんがやって来る。


「あ、おはよう」


 いつもなら、そこで柔らかい笑顔を見せてくれる樋野くんだが、今日は顔をしかめて首を傾げた。



「……瀬戸さん、元気ないね?」


「へっ!?」


「もしかして、凪沙……ちゃんと喧嘩でもしたの?」


「あ、いや、そんなことないよー!心配かけてごめんね?」



 そう言いながらも、私の心臓は激しく音を立てる。

 何で、そんなことまで分かっちゃうの……?

 樋野くんは、やっぱり不思議だ。




***





 お昼休み。

 今日は、皆とお弁当を食べる気にならなくて、一人屋上に来ていた。何で、こんなモヤモヤしている時に限って、空はこんなにも青く澄み渡っているんだろう?ここで、雨でも降ってくれれば、少しは悲しい気分に浸れるのに……。


 おむすびにかぶりつく。うん。今日も美味しい。


 と、その時屋上の扉がガチャリと開いた。




「──あ、瀬戸さんみっけ」


「え、湊くん……?」


 そこには、お弁当袋を下げた湊くんが立っていた。てっきり、直登が追いかけてきてくれたと思っていた私。その人物の登場に、驚きが隠せなかった。



「空き教室にいると思ってたから、ちょっと手こずったよ。もう少し、分かりやすい場所にいてよね」


「え、何か……ごめんなさい」


「ハハッ!嘘々。ここでご飯食べて良い?」


「あ、もちろん」



 湊くんは、ニコニコしてお弁当を開けると「いただきます。」と言ってご飯を食べ始めた。




「……何で?」



 自然と出た言葉。

 そこには色んな意味が含まれている。


 何でここに来たの?

 直登と凪沙は放っておいて良いの?

 そこまでして探してくれたの?

 何か言いたいことがあるの?



「……そんなの言わなくても分かるでしょ?瀬戸さんが心配だったからだよ」



「……心配なんて……」



「何か悩んでる顔してたから、相談に乗ってあげようかな~?ってね」



「……私って、やっぱり分かりやすいのかな」


 そう言って笑い合う。湊くんが来てくれた事で、少し気分が楽になった気がする。何だかんだ、湊くんは優しくて、困っている時にはすっと手を差し伸べてくれる。そんな頼りになる存在だ。





「──分かりやすいというか、分かってあげたいんだよ」



 湊くんの言葉に、私は首を傾げる。



「俺、誤解されたく無いからちゃんと言うね。……最近、井上さんと一緒にいるっていうことは確かに事実だ」



 ここで突然出てきた凪沙の名前に、私は動揺を隠せなかった。な、何……?何の話をするの……?



「それは、井上さんの味方になってあげたいから。彼女は深い闇を抱えているからね」


「深い……闇」


「俺も、全てを教えて貰った訳じゃないけどね。でも、側にいれば彼女を支える事は出来るんじゃないかって思って。……井上さん、妹みたいな存在だから。放っておけなくてね」



 その"妹"の言葉が引っ掛かる。

 湊くんにとって凪沙は、妹のような存在であって、一人の女の子としては見られていないってこと?


 じゃあ、凪沙はそれを分かって、告白はしないって決めてるの?

 好きでいるだけで十分って思ってるの?


 そこに辿り着いた瞬間、私の中のモヤモヤが増える。そんな状態の時に、私は告白しろだなんて軽口を叩いたの……?最低じゃん……。




「でも、瀬戸さんは違う」



 次の言葉は、私に更なる追い討ちをかけた。







「──瀬戸さんの事、好きだから心配なんだよ」






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