表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本当の君を好きになる  作者: 瑠音
第4章『3年生』
27/59

第27話 あまりに切ない春






「──新入生の皆さん、本日はご入学おめでとうございます。在校生一同、皆さんの入学を心より歓迎いたします。さて──」





 分からない。分からないことだらけだ。

 まず、1つ目。

 壇上に上がって、堂々と歓迎の言葉を読み上げているのは、皆さんご存知、桐谷湊くん。

 凪沙から、生徒会長候補だってことはうっすらと聞いてたけど、まさか本当に会長になってるとは思わなかった。てか、湊くんも何で教えてくれなかったの!?

 壇上に上がっている、湊くんの姿を見て、新入生も在校生も、頬を赤く染めている。

 皆、騙されちゃダメだよ?その人性格超悪いから!! 


 次、2つ目。

 いつの間に、こんなに月日は流れてしまったの?

 今を大事に生きようって言ってたあの日は、もう何ヵ月も前のこと。本当に、年をとるにつれて、時間が経つのがあっという間だ。(なんておば様方の前で言ったら、すごい目で見られそうだけどね。)


 最後、3つ目。

 直登は、今どんな気持ちでいるのだろうか……?

 あの日のこと……今でも昨日の事のように思い出す。





***





「──海外の大学に進学するつもりなんだ」




 その言葉に、私は目をパチクリさせる。

 海外……?海外ってどういうこと……?

 直登と、離れることは仕方のないことだと思ってた。

 でも、それは国内にいるからまだそう思えるのであって、海外なんてあり得ない事だと思ってた。



「俺、可鈴と離れたくなくて、海外に行くこと諦めてた。でも、さっきの話聞いて決心した。とにかく、今はこの時間を大切に生きて、そんな思い出を思い出しながら、海外で頑張ることにするわ」



 勝手に進んでいく話。

 え、待って?こんなことになってしまったのは、もしかして私のせい?私が、変に前向きな話をしてしまったから?

 私も、怖い。寂しいって泣きつけば良かった?

 待って、違う。違うんだよ、直登。



「可鈴、本当にありがとう」



 お願い。そんなに満足そうな顔で笑わないで。

 そんな優しい目で私のこと見ないで。

 何で?嫌だ、嫌だよ、直登。

 お願い、遠くにいかないで?ずっと、側にいてよ……!



「可鈴?どうした?黙り込んで」



 そう言って、私に手を伸ばす直登。

 私は、その手をピシッと振り払った。

 直登の表情が固まる。



「……は?」



 私は、震える手を押さえ込んだ。

 今にも、溢れだしそうな涙。荒くなる呼吸。

 すべてを抑えることに必死だった。



「そんなの聞いてないし」



 自分でも驚くほど、低く冷たい声が出る。

 直登の表情を見ることは出来なかったが、空気が重たくなるのを感じた。



「は?だから今言ったんだろ?聞いてないじゃなくて、今初めて話したんだよ」


「意味分かんない。海外とか何考えてんの?わざわざ、そんな遠くへ行かなくても良いじゃん」


「お前何言ってんの?さっきの発言どこに消えたんだよ?応援してくれるんじゃねぇのかよ?」


「そんなの海外だって知らなかったから言えただけだわ。無理だよ」



 次から次へと言葉が出てくる。

 私が考えた言葉じゃない。知らない内に、どんどん溢れてきて止まらない。

 そろそろ止めなきゃいけないのに、どうしても止まらない。



「海外だろうが、国内だろうが変わりはねぇだろ。お前が、さっきそんな事言ったんだろ」



「変わるよ!!全然違うよ!!バカじゃないの!?」



「はぁ!?バカはお前だろうが!!調子乗んなよ!!」



「うっさい!!直登なんか大っ嫌い!!!!」



 そう言って、私はそこに置いてある、数学のテストをグシャグシャに丸め直登に投げつけた。私の顔も、涙でぐちゃぐちゃになっている。

 そのまま、荷物を持つと、私は直登の部屋を後にした。





***





 壇上では、新入生代表が挨拶をしている。

 あ、いつの間にか湊くんの挨拶終わっちゃったんだ。

 聞いてなかったとか言ったら、すごく怒られそうだな……。


 あの日から、私は直登と一言も口を聞いていない。

 今では、仲の良かった頃、付き合っていた頃が嘘のようだ。

 あんな喧嘩は初めてだった。それもそうだよね。私が、ものすごく勝手だったから。仕方ないよ。

 でも、謝るなんて出来なかった。悪いとは思っていても、「ごめん」の一言がどうしても言えなかった。

 また、いつか話せる時が来る。また笑い合える日が来る。そんな日を、前みたいに神様が用意してくれる……そう思っていたのに……。


 ポタッ。


 手の甲に、涙が一粒溢れ落ちる。


 神様。どうして、私たちの仲を戻してくれないんですか?私たちは、切っても切れない関係なんじゃないんですか?私は……



 ──過去の綺麗な思い出にすがるしかないんですか?






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ