第28話 苦しい時間
「──でも、まさか4人が集結するとは思ってもみなかったよ」
湊くんの言葉に、私と凪沙はうんうんと頷く。
今日から3年生になった私たち。
私、瀬戸可鈴と井上凪沙、幸坂直登は3年生でも同じクラスになり、そこに桐谷湊が加わるという奇跡の展開が起きた。
ということは、学力トップ2と、イケメントップ2がこのクラス集まってしまったという訳ですか!!
「でも、せっかく皆同じクラスになったっていうのに……この大きな溝は何なの?」
湊くんに痛いところを突かれ、私はうっと声を漏らす。
「ま、まあ、桐谷くん、そこには触れないであげて……?」
「井上さん、僕すっごく性格悪いからそれは無理だよ」
開き直って、凪沙にそう伝える湊くん。
私は、ため息をつくしかなかった。
「……私が悪いの。すべては私がね」
「悪いと思ってるなら、謝るべきじゃないの?いつまで、こんな状態でいるつもりな訳?」
「そ、それは……分かってるよ……」
「分かってないよ。全然分かってない。分かってないから、何も進まないんだよ。瀬戸さん」
私も凪沙も、それ以上何も言えなかった。
正論だ。言い返す言葉が見つからない。
「とりあえず、俺は幸坂と仲良くするから、羨ましくなったら、さっさと謝ることだね」
そう言って、私たちの元を離れていってしまった。
「可鈴……」
「分かってる。でも……3ヶ月の溝は……大き過ぎるよ」
***
「──ダメだ……。疲れた」
私のその声に隣を歩いていた凪沙は足を止める。
「大丈夫?」
「私のことは気にしなくて良いから、先に行きなよ」
「えっ、でも……」
「湊くんと歩きたいんでしょー。早く行きなよー」
私が、小声でそう言うと
「へっ!?!?」
と絵に描いたように驚く凪沙。
私たちは、毎年の春の行事である山登りをしている。
新しいクラス、新入生との交流を深める行事なのだが、全く楽しめない。本当に今すぐ帰りたい。
私の隣であたふたしている凪沙。その様子から、湊くんと一緒に行動したい事は図星なのだろう。
初詣に、一緒に行った時から、凪沙の様子がおかしいとは思っていたが、湊くんの事を好きになっちゃうとはねー。その人、性格悪いのにね。
「──瀬戸さん、何してるの?」
そこへ、張本人が声をかけてきた。
「ちょっと疲れてるから休憩するね。湊くんは、凪沙と先に行ってて?」
「え?大丈夫なの?」
湊くんは、そう言って隣に立つ直登の顔を見る。
そう。疲れてしまうのはもう1つ理由がある。
直登と同じ班になってしまったからだ。仲の良いメンバーで固まるなんて話になってしまい、知らない内にこの四人が固まっていた。
「本当、ちょっと休憩したらすぐに追いつくから。気にしないで」
「んー……。分かった、じゃあまた後でね」
「無理しないでね?」
「ありがとう」
そう言って前を向く二人。
と、その時直登とバチっと目が合う。
ドクンッ……!!胸が激しい音を立てる。
しかし、プイッと顔をそらし前を向いて歩き始めた。
何か、すごく久しぶりに目が合った気がする……。
ドクッ……ドクッ……。
心臓の音が大きく聞こえる。
休憩している私の目の前を過ぎていく人の波を眺めながら、私はボーッとしていた。今も、心臓の音は大きく響いている。
あれ?……何か、目の前が変。ぐにゃぐにゃして見える。私は、頭を抱え込んで俯く。
ヤバい……。何か体も熱い。
と、思っていたその時──
「──瀬戸さーん」
その声に、ハッとして声をあげる。
そして、目の前を見て固まった。
「何一人でうずくまってんの?超ウケんだけど」
「今まで調子乗ってた罰っしょ」
「アハハッ!とうとう捨てられたって?」
「最近一緒にいるところ、あんまり見ないしね。ざまぁみろって感じだわ」
目の前で、どんどん進んでいく話。そこには、いかにもガラの悪い女子生徒が4人。
私を囲んで、腕を組んで見下ろすその姿に、少し恐怖を感じる。
「幸坂くんと幼馴染みなんだって?それを理由に、ずっと付きまとって?正直、幸坂くんも迷惑してたんじゃない?」
「今一緒にいないっていうのが証拠だよねー。アハハッ!超かわいそー」
「やっぱ幸坂くんは、アンタみたいな奴相手にしないよね!!」
嘲笑う態度、言葉。くらくらする頭を、押さえ込んで必死で4人を見る。
「はぁ?何睨み付けてんだよ。何か言いたいことあんの?」
「負け犬の最後の足掻きってやつ?超ウケる!」
4人で手を大きく叩いて大笑いをする。私は、何も言わず、ひたすら時間が経つのを待った。
大丈夫。変な事言わなければ、呆れてどこかに行ってくれる筈だから。
今は我慢。我慢だよ、私。
「──おいお前ら、何してんだ」
その時、近くを通りかかった先生が、異変に気づいて近寄ってきた。4人の女子生徒は、一斉にクルッと振り返る。
「私たち、今大事な話し合いしてるんです」
「先生は関係ないので、下がっていてください。大丈夫ですから」
「だよね?瀬戸さん」
こちらを向いた、その女子生徒の威圧する態度。今、先生が来ても無駄だろうと思い、素直に頷く。
「……そうか。あまり長くならないようにな」
そう言って、先生は離れていってしまった。
「──そういえばさ、瀬戸さんと一緒にいる、あの女の子だけど」
その言葉に、私は目を見開く。
何っ……?凪沙に何かしたのっ……?
「最近、アイツも幸坂くんに近づいてるよね」
「てか、桐谷くんも狙ってるんじゃない?」
「えー!!ヤバいじゃん!!」
「結局あの子も、その二人に近づくために、アンタと仲良くなったんじゃない──?」




