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本当の君を好きになる  作者: 瑠音
第3章『冬の私たち』
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第21話 違和感


「──ここだよ」


「へ?」


 ようやく手を離してもらえたかと思うと、私は目の前に建っている建物を見て固まる。

 湊くんは、ニコニコと微笑みを浮かべる。

 私はそんな彼を冷たい目で見る。


「ここだよ。って、ここ湊くんの家じゃん」


「そうだよ?文句ある?」


「いや、無いですけど……」


 あまりにも自信満々にそう言われたので、思わず敬語になって返事をしてしまった。

 視線を後ろに移せば、あの公園。泣いている私を発見された、あの公園。私の弱さをさらけ出した、この家。


 何か、その事を思い出したく無かったから、ここには当分来てなかったんだよね。ていうか、私にも一応彼氏が出来たんだから、男の人の家に行くっていうのは……そうやって考えたら、二人で出掛ける事自体アウトなのではっ……!?



「まあ、とりあえず入ろうよ」


「あ、わ、私、用事を思い出して……!」



「は?」



 私が発した言葉に、湊くんは不機嫌な顔をする。



「何?用事って?幸坂のプレゼント買うことだろ?」


「そ、それはそうだけどっ……ほ、他にも……」


「へー?何?言ってみなよ?」


「え、えっと……それは」


 私が、そう言っていると湊くんは深くため息をつく。少し呆れている様子だ。いや、少しじゃなくて、かなり……。



「別に何もしないから。ただ会って欲しい人がいるだけだよ」



「……へ?」



 会って欲しい人……?

 どういうことだ……?


 そんな事を考えている内に、湊くんは玄関を開けてしまっていた。私が、ギョッとしている間に、「ただいまー。」と、中に入ろうとしていた。


 と、その時……



「お帰りー!!」



 中から可愛らしい声が聞こえる。そして、そのまま湊くんに抱きつく。

 私は、口を開けたまま固まる。


「あ、瀬戸さん。俺が会わせたかったのはコイツ」


 すると、抱きついたまま可愛い顔がこちらを覗いてきた。瞳が合って、私は胸をズキュンと撃ち抜かれてしまった。



「ほら、春哉(ハルヤ)。挨拶」


「こ、こんにちは……!」


「こんにちはっ……!」



 そこには、クリクリの目をした、可愛らしい男の子がいた。湊くんにギュウッと抱きついて離れない。



「え、この子は湊くんの……お子さん?」


「冗談やめてくれる?弟だよ」


「お、弟さんっ!?」


「春哉がずっとお姉ちゃんが欲しいって言ってたから、瀬戸さんが少しの間でもお姉ちゃんになってくれないかなー?って思って」


「そ、そうだったの!?」


「だよな?春哉」


「うんっ!お姉ちゃん遊ぼうっ!」


 春哉くんは、そう言って私の手を握り、グイグイと引っ張る。そのキラキラとした瞳、嬉しそうな笑顔に私は完全にやられてしまった。


 な、なんて可愛いのっ……!!



 そのまま、リビングへと連れていかれる。すると、そこにいる年配の女性と目が合う。


「こら、春哉。そんなに連れ回しちゃダメでしょう?」


「おばあちゃん!だってだって、僕にお姉ちゃんが出来たんだよ!!」


「あ、わ、私、桐谷くんの同級生の瀬戸可鈴と言います!突然お邪魔して、申し訳ないです!」


「……あなたが。話は湊から聞いていますよ」


 そう言って、優しく微笑むおばあさん。その優しい笑顔に私は心が温かくなるような感じがした。

すると、少し遅れて湊くんが帰ってくる。



「ただいま」


「おかえり。湊」


 前回来たときには、弟もおばあさんもいなかったような……?ていうか、お父さんとお母さんはどこにいるんだろう?そんな事を考えると、グイグイと袖を引っ張られた。


「お姉ちゃん!一緒に遊ぼう?」


「あ、うん!何しようか?」


 そんな事を考えるのも馬鹿馬鹿しくなって、私は春哉くんと色んな遊びをした。春哉くんは、まだ小学生にもなっていないと聞かされ驚いた。5歳らしい。それでも、春哉くんは色んな遊びを知っていて、教えてくれた。

 トランプ、オセロ、あやとり、テレビゲーム。

 色んな事をしている内に、あっという間に日は暮れてしまった。

 そして、絵本の読み聞かせをしている途中で、春哉くんはぐっすりと眠ってしまった。



「──あーあ。寝ちゃってるし」


 その事に気づいた湊くんが、春哉くんを見て呟く。


「久々にいっぱい遊んでもらって、嬉しかったんだろうね」


「私も、久々にこういう遊びが出来て楽しかった!」


「そりゃあ瀬戸さんは子供だからね」


「ちょっと!!」


「嘘だって!怒らないでよ」


 そう言って、湊くんは私の隣に座る。そして、優しい顔で春哉くんの頭を撫でる。普段とは違う、彼の一面に私はドキッとしてしまう。


「瀬戸さん、ありがとう」


「え?」


「春哉にはきっと最高のクリスマスプレゼントになったと思う」


「……あの……湊くん……?」


「ん?どうしたの?」


「……お父さんお母さんは……どうしてるの?」


 恐る恐るそう尋ねる。湊くんの表情は曇ってしまった。





「──そんな奴らいないよ」




「……へ?」





「湊」



 と、その時おばあさんが湊くんに声をかける。

 私たちは一緒に顔をあげる。


 おばあさんの表情は、少し悲しげだった。



「もう暗いし、送っていってあげなさい。春哉も、もう十分遊んで貰ったからね」


「……そうだね。ごめん。送るよ」


 そう言うと、湊くんは春哉くんを抱き上げて、おばあさんに預ける。


「瀬戸さん。帰ろう?」


「気を付けて帰ってね」


 おばあさんはそう言って、優しく笑ってくれる。

 その笑顔に、胸が締め付けられる。何だろう……モヤモヤして苦しい。



「──あ、あのっ!」


 気づけば私は声を出していた。




「……ま、またっ……また来ても良いですかっ?」




 私がそう言うと、おばあさんは目を丸くする。そして、また優しい笑顔で微笑んでくれた。



「もちろん。春哉も私も待っているわ」



 その言葉に、私は笑顔を浮かべる。

 そして、湊くんと一緒に家を後にした。



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