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星辰は廻り続ける  作者: ノペトC
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プロローグ

 ある昼下がり、1人の少女が扉の前に立っていた。身長は女性としてもかなり小柄な部類に入り、鈍いやつが見たら子供と見まごうほどである。 さらに着ている服が純白のゴスロリドレスであるため浮き具合が半端ではない。特徴的なのは首元に飾られた大きな深緑色のリボンである。

背中には着ている服と同じ純白のバックパックを背負っていた。ぱっと見ただけでは使われている材質が分からない。だが、つやがあり太陽光を反射して光沢が出来ていることから安っぽいものではないようだ。

「ここで……合ってるんだよね?」

 独り言を呟いた少女が、バックパックから畳んであった羊皮紙を取り出し両手で広げた。そのくしゃくしゃの羊皮紙には少々年季が入ってはいるものの、比較的はっきりと描かれた地図が写し出されていた。


冒険者ギルド。その建物の看板にはそう書かれていた。



「……うん、合ってる」


確信を得た少女は、地図を再びバックパックにしまう。

独りため息をつき、空を見上げる。緑髪がわずかになびく。それは短いながらもつやつやで、しっかりと手入れがされているように見える。

青白い肌に焼け付くような日光が差す。少女は眩しそうに目を細めた。照りつける光で、澄んだ緑色の瞳がきらめく。

少女の後ろを横切るように喧騒が流れていく。どうやらここは商店街の一角のようだ。


「………っ」


少女は唾を飲み込んだ。まるでこれから何かの試験に臨む生徒のようだ。彼女の周りにはそのような緊迫とした空気が流れていた。恐る恐る錆び付いたドアノブを握った。その白い手袋は心なしか震えているように見える。


一時の静寂が、流れた。



だがそれも刹那、彼女は思いっきりその門扉のドアノブを捻り、開けた。




扉を開けた途端、溜まっていた熱気が外へと逃げていき、少女の肌を生温く撫でた。

そして、先程まで扉から湧き水のように溢れ出ていた喧騒が余韻を残して消えた。

ジョッキやコップを持ち、テーブルを介して飲み食いしながら騒いでいた老若男女が一部を除いてこちらに視線を向ける。

その一部とは、主に二種類のタイプにわけられる。

ひとつは、そもそも少女に気づかないか興味がないかで無視している輩。

もうひとつは、場の空気が変わっても一切動じず目の前の事務作業に徹している受付嬢。


(き、気まずい……。もっとそーっと開ければ良かった)


 そんなささやかな後悔と共に少女は恐る恐る受付まで歩みを進める。

視界の隅に、全身を黒の重鎧で身を包んだ人物が映った。腰に携えた、黒い鞘に収まった剣が印象的である。

(なんか冒険者らしくない重装備だな……)

そんなことを少女が何となく思いつつ、再び視線を受付の方角に戻す。


やがて、少女に興味をなくしたのか、各々が元の喧騒を取り戻し始めた。

少女はその様子を見て安心したように一息つくと、受付の前で立ち止まった。

カウンターがかなり高い位置にあるので、少女の首から上がギリギリ見える感じになっている。


「あ、あのー」


 声をかけると、事務作業をしていた受付嬢が事務作業をやめ、テキパキと羊皮紙の書類を整理すると顔を上げる。一瞬、少女の頭上で視線を向け、はっとしたように少女の方まで視線を下げる。

小麦色の長髪を後ろで一本に結んでおり、耳がエルフ特有の特徴的な形をしている。

恐らくエルフに属する種族だろう。座っても分かるほどスレンダーで色が白い。目付きが鋭いが、威圧的なものではなく、どちらかと言えば理知的なものを感じる。


「どうしたのお嬢さん。パパかママに何か頼まれてきたのかな?」


明らかに子どもをあやすような声色で少女に呼びかけながらにこりと微笑む受付嬢。


「あ、いや、そういうわけじゃなくて……」


少女はおどおどしつつも目を泳がせる。


「そういうわけじゃなくて? じゃあ迷子?」


受付嬢は首を傾げた。


「いえ、違います!」


今度は焦らずにはっきりと少女は発声した。



ひと呼吸おいて



「私、冒険者になりに来たんです!」


その直後、近くに座っていたドワーフのオヤジがビールを口から吹き出し咳き込み、傍にいた者がみな一様に唖然として少女を見つめていた。それは受付嬢ですら例外ではない。


無理もない。何せ見た目が純白のゴスロリドレスに身を包んだ小柄な女の子だ。

見た目も丸腰である上に体型的有利もない。一見すると中に鎧を着込んでいる様子でもなさそうだ。


こんなふざけた格好の少女が泥臭い冒険者ギルドに訪れること自体が珍しいのにさっきの発言ときたもんだから、このような反応をされるのもあながち変ではないだろう。


「あー、え……っと、からかって、いるのかな?」


受付嬢は声を絞り出すようにして少女に呼びかけた。


「からかってるわけじゃありません! 本当に、冒険者になりたくてここに来たんです!」


明らかに信じてもらえてないためか、少女はむくれたように反論をした。


「あのね、お嬢さん……――」


 そこからはほとんどお説教に近い、少女に対しての説得が始まった。

かいつまんで内容を説明すると、冒険者ギルドの目的・仕組み・実情を簡潔に説明した上で、少女に足りないものをひとつずつ説明していくといった流れだ。

体格的不利は仕方がないが、それを補う努力が見受けられない。

服装は基本許容しているがさすがにその服では無理だとか、丸腰な上に魔術師の証である杖を持っていないことから武芸や魔術に素養がない――万に一つ、あったとしても――そんなナメた装備では顧客に信頼が得られないだとか、相手の見た目が子どもなどお構いなしにお説教を繰り広げていく。

少女は何か切り返そうと努力するも、受付嬢の気迫に負けてされるがままの状態になってしまっている。


「……そうですか、残念です」

 散々たるお説教の果てに、これまでかと少女はうつむいた。

目に涙を溜め始め、ゆっくりと踵を返し、とぼとぼと帰りはじめる。


入ってきた扉へと歩みを進めていく中、先ほどの黒ずくめの鎧とすれ違った。

恐らく受付に用事があるのだろう。冒険者として当たり前の光景。何も言うべきことはない、極めて普通である。



――――少女はスローモーションの世界の中、身体がひとりでに倒れていってしまう。

否、違う。倒れているのではない。下半身……足が、反応しないのだ。


「え?」


少女は呆然としながら、木製の床に倒れこむ。


不思議と激痛は感じない。


ぼやける視界の中、自分の手首から先が綺麗な断面を残しながら消えているのを見て、明らかに異質な状況なのに、自分に起こった状況を、冷静に判断してしまう。


ああ、自分の身体は、真っ二つにされたのだと。


 すれ違った鎧は、上半身と下半身がお別れの挨拶を迎えた少女を、血溜まりに沈んでいく少女を、見るも無残に身体の中身をぶちまけている少女を、顔の見えない兜ごしに足を止めて見つめていた。

その右手――黒い篭手に、鞘から振り抜かれたであろう、真紅に染まった黒塗りの剣が握られていた。


これから、人としての終焉を迎えるであろうその少女を、ただただ見下ろしていた。






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