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【十三】

 ボクはただ一人待ち続けている。

 この広い城でただ一人、彼女が永遠の眠りから覚めるのを。

 彼女の眠りを覚ましてくれる、あの男を。

 見上げた月は細く冷ややかに、いつか恋人たちを結んだ聖なる銀剣を思わせる。

 最古にして最強のヴァンパイアの女王から魔力を奪った聖剣は彼女の時を止め、愚かな人間の騎士を天の国へと導いた。

 それが二人の望みだったのか。銀の魔剣は騎士の意志を継いだかのように、いまだ眠り続ける女王を護り何者も寄せ付けない。

 少女のようによく整った顔を憂鬱そうに曇らせ、ヴァイトはため息をついた。慰めるのは優しい夜風。あの甘いバニラの香りをまとった愛らしい女性はもういない。

 うまくいかないな、と、つぶやく声は儚く闇に消えた。

 女王の統治を失った今、血気盛んな若いヴァンパイアたちは徒党を組み、人間の街を侵略し、眷属を増やし、王の座を狙う。そして老いたヴァンパイアたちは永遠に続く退屈な夜に飽き、人間どもの真似事をして遊戯盤を眺め、グラスの中の赤い液体を揺らした。

 唯一愛情深かった夫婦は、妻を亡くした夫が殺戮と破壊を繰り返す。

 さて、産まれることのなかった命は男だったか女だったか。考えたところで詮無いこととはわかっていても想いは巡る。

 「ねえ、騎士サン」

 見上げた月は静かに、ただ風がとばりを揺らすのみ。

 「そんな所に留まっていないでさ」

 美しい女王の横顔の向こうで、凍てつく銀剣が鈍く煌めいたような気がした。

 「早く……生まれ変わってきなよ」

 今夜いく度めかのため息がこぼれる。






               了

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