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龍血譚   作者: 色タコス
第2シーズン WHAT LIGHTNING SEES

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無限の矢と駆動する戦斧

シヴォンやレイ、ノイたちが東門へと急行し、ついにその場にたどり着いた。しかし、目の前に広がっていたのは、言葉を失うほどの冷酷な「地獄絵図」そのものだった。


数分前まで厳重に門を守っていたはずの門番たち、そして急報を聞きつけて駆けつけたはずの聖都の騎士たちの姿が、そこには無残に転がっている。そして、その全員の頭部が、正確無比な一射によって矢で貫かれていたのだ。


「……これをやったのは、貴様か」


シヴォンは怒りを押し殺した低い声で、血塗られた空間の中心に立つ侵入者の男を睨みつけた。

しかし、男は目の前の凄惨な光景などまるで気にする様子もなく、不敵で飄々とした笑みを浮かべたまま肩をすくめる。


「いやー、だってこいつら全然通させてくれなかったからさ。ま、この方法が一番手っ取り早いしいいかなって思ってねー」


「そうか……。ならば貴様は何者だ。なぜこの聖都の東門を襲撃した」


シヴォンが鋭く問い詰めるが、男はどこか面倒くさそうに片手をひらひらと振った。


「いやー、あんたらにわざわざ名乗るような立派な名前なんてないよ。ただ……上から命令されたから、それを遂行しに来ただけさ」


「……ロキという男の手下か。問答無用、ならば戦うのみだ!レイ、ノイ構えろ」


シヴォン達は一瞬で臨戦状態に入り、背中に背負っていた巨大な戦闘用の斧をガキィンと力強く構えた。

対する侵入者の男も、不敵な笑みを崩さぬまま、手元に構えていた漆黒の弓に矢を番えた。


一触即発の緊迫した空気の中、その場に控えていたレイも、アスカリオンをしっかりと握り締め、一歩も引かない覚悟で前に出た。


「おっ! 噂の的が、そんなに近くに居てくれるとはねぇ……わざわざ探す手間が省けてありがたいね」


レイの姿を認めた瞬間、男の目がいやらしくギラりと光った。やはり、今回の襲撃の真の目的は、この聖都にやってきたレイ自身の抹殺にあったのだ。


「こいつは『あのお方』の厳重な抹殺対象だからねぇ!」


男が叫ぶと同時、目にも留まらぬ速さで一本の矢が放たれた。それは事前の予備動作やタメが一切ない「ノーモーション」の射撃であり、いつ、どのタイミングで飛んでくるのか完全に予測不可能な代物だった。


「うっ……!?」


本能的な危険察知でギリギリのところで身体を捻ったレイ。致命傷になり得る一撃は辛くも外れたが、唸りを上げて通り過ぎた矢は、聖剣アスカリオンを握るレイの右手をかすめ、鮮血が飛び散った。


「ちっ……! こいつの相手は俺がやる、レイ、お前は下がってろ!」


シヴォンが鋭く声を張り上げ、巨大な斧を振るってレイの前に立ちはだかる。


「はい……!」と悔しそうに応じ、レイは言われた通り少し前線から後ろへと下がった。


しかし、侵入者の男の標的は最初からレイ一人に絞られていた。シヴォンがどれだけ防衛線を張ろうとも、男の番える矢は止まることを知らず、シヴォンの隙間を縫うようにして、執拗にレイへと放たれ続ける。


ビュッ! ビュッ! と不気味な風切り音を立てて襲い来る矢の猛攻。レイは必死に剣を振るって防戦に努めるが、驚異的なことに、男の弓から放たれる矢はまるで尽きる気配すら見せなかったのだった。


東門前に立ち込める冷たい血の匂いと、ピリピリと肌を刺すような殺気。矢継ぎ早に放たれる無限の矢の嵐を、レイが必死に剣で弾き飛ばしているその傍らで、百戦錬磨のベテラン戦士シヴォンは鋭い眼光を侵入者の男へと据えていた。


絶え間なく繰り出される矢の軌道を見極めながら、シヴォンは冷徹に言い放つ。


「――貴様のその矢、どこからともなく次々と生み出されているようだが、タネはいったいどうなっている」


シヴォンの問いかけに、男は不気味な笑みを浮かべたまま、手元の漆黒の弓を軽く掲げてみせた。


「へぇ、よく気づいたねぇ。これは『あのお方』から賜った特製の創造武装――『無限の狩猟レプリカント・ハント』さ。俺自身の魔力に少しだけ依存はするけれど、魔力が尽きない限り、この弓を介して無限に矢を複製し続けることができる代物なのさね!」


無限に尽きることのない弾薬。それは遠距離戦において、絶対的なアドバンテージを意味する。しかし、シヴォンはその言葉に動じるどころか、むしろ冷酷なまでの笑みを浮かべて愛用の巨大な斧を構え直した。


「なるほどな……。ならば、その大元である『弓』そのものを粉々に破壊してしまえば、貴様の勝機もその時点で完全に消え失せるということか」


「おや、ご冗談を。ま、この俺の武器を破壊できるものなら、できるもんならやってみなって!」


男は挑発的な笑みを崩さず、さらに手元で矢を構える。


「……いいだろう。口だけ達者な雑魚め。ならば、こちらも手加減なしの本気で行かせてもらう」


その瞬間、シヴォンの全身から、これまでとは比較にならないほど重厚で、かつ異質な魔力の奔流が爆発的に吹き荒れた。周囲の空気が重く沈み込み、地面の小石が恐怖に震えるように浮き上がる。


「ははっ! おいおい、マジかよ……! お前、その身体に『無の力』の片鱗を宿しているのかよ! 面白い! 一体どんな技を見せてくれるか、楽しませてもらうぜ!」


男は不敵に高笑いしながらも、その目は警戒の色を帯びて鋭く光った。


「はぁぁぁぁ――っ!!」


シヴォンが地を抉るような凄まじい踏み込みを見せ、巨大な戦斧を頭上高く振り上げて一気に肉薄する。一撃の重みが空間そのものを断ち切らんとする、圧倒的な質量攻撃だった。


「ふん、そんな大振りで見え見えの攻撃なんざ、当たるかよ!」


男は余裕の表情を崩さず、手元の弓を巧みに構えてシヴォンの斧の刃を直接受け止めようとした。至近距離での衝撃が東門の石畳を揺らし、火花が激しく飛び散る。


――しかし、次の瞬間。


男の表情から、先ほどまでの余裕がスッと消え去った。


(……なっ……!?)


ほんのコンマ数秒前に受け止めたはずの一撃と比べ、今まさに押し返してくる斧の負荷が、信じられないほどの速度と質量で跳ね上がっているのだ。受け止める両腕の骨が悲鳴を上げ、足元の地面が重みに耐えきれずミシミシと沈み込んでいく。


「お前のその攻撃……、なんだこれ……! 一撃ごとに、段々と重さが増してきているだと……っ!?」


冷や汗を流しながら叫ぶ男に対し、シヴォンは冷徹な瞳のままさらに踏み込み、斧に全体重を乗せた。


「そうだ。気付くのが遅かったな。これが俺の固有魔力――『駆動戦斧オーバードライブ』。攻撃をヒットさせ、あるいは軌道を重ねるたびに、その威力と質量は無限に増幅し続ける。お前のその無限の矢すら、俺のこの一撃の前には塵芥に等しい!」


「くそっ……! バケモノめ……!」


これ以上の力比べは致命傷に直結すると本能が察知したのか、男は苦悶の表情を浮かべながら叫んだ。


「チッ……! まともにやり合ったら押しつぶされるか! ならば、距離を取るしかないか……っ!」


男は瞬時に判断を下し、強烈な反発の魔力を足元に爆発させて、一気にシヴォンから後方へと跳び退いた。数メートルの距離を稼ぎ、ようやく体勢を立て直した男の息はわずかに荒くなっている。


「ちくしょう……。あのオッサン、想像以上に厄介じゃねぇか。こうなったら、こっちも出し惜しみなしで本気の魔力を使うしかねぇかぁ……!」


悪態をつきながら、男は両手を自身の弓へと添えた。

次の瞬間、男の全身を包み込んでいた冷気のような気配が、一瞬にしてドス黒く濁った猛烈な高熱へと変貌を遂げた。


ボォッ……! と音を立てて周囲の空気が歪む。

男の身体から、そして手に持つ漆黒の弓から、触れるものすべてを焼き尽くさんばかりの、おぞましいまでの『炎の魔力』が凄まじい勢いで解放されていったのだった。


男が全身の力を解き放った瞬間、彼の纏う魔力は冷酷な赤黒い色から、すべてを焼き尽くすような業火の『炎』へと豹変した。


「喰らいなよ!」


男が指を離すと同時に、猛烈な炎の魔力をその身に纏った一本の矢が、凄まじい熱風を引き連れて放たれた。


シヴォンは一瞬で危険を察知し、直撃を避けるために素早く身を翻してその場から跳び退いた。


ドオォォン――ッ!!!


凄まじい爆発音と衝撃波が、東門の一帯を揺るがした。シヴォンが避けたその背後で、巻き添えとなった城壁脇の家屋が見る見るうちに粉々に吹き飛び、炎に包まれて崩れ落ちていく。


「あらら、避けちゃったか。ま、あの程度じゃ街の建物の方が脆かったみたいだねぇ」


平然と言ってのける男の目前で、シヴォンは怒気を含んだ殺気を剥き出しにし、その恐ろしいまでの眼光で男を激しく睨みつけたのだった。

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