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英雄が紡ぐ物語   作者: 色タコス
第1シーズン 太陽の戴冠

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58話 神の釘

眩い光の渦が収まり、ヘリオスがゆっくりと意識を取り戻して目を開けた時、視界の先に広がっていたのは、かつての激戦の跡地だった。


崩れ落ちた広間の瓦礫の中、その中央に立っていたのは――すでに半身が光の粒子と化し、塵となりかけて消えゆく運命にあるゼノンの姿だった。


ゼノンは自身の消えゆく身体に目を向けることなく、静かに背筋を伸ばし、かつて剣を交えた宿敵であり、最後に真の強者として認めたヘリオスへ向けて、心からの賞賛を込めた敬礼を送った。


その気高き姿と言葉なき敬意を受け止め、ヘリオスもまた静かに姿勢を正し、消えゆく剣聖へと深い敬礼を返した。二人の間に、もはや敵味方の壁は存在せず、ただ互いの魂を認め合った者同士の静謐な時間が流れていた。


しかし、その感慨に浸る間も与えず、突如として広間の空気が凍りついた。


空間の歪みから、すべての元凶であるロキの冷徹な声が響き渡ったのだ。


「――見事だったよ、ヘリオス。まさか、あのゼノンを打ち破るとはね」


天井の裂け目から、ロキがゆっくりと姿を現す。その顔には不敵で、どこか底知れない余裕の笑みが貼り付いていた。


ロキは満足げに視線を巡らせると、淡々と残酷な事実を告げ始めた。


「君たちの仲間たちの戦いも、そろそろ決着がついた頃だ。バルドはヒューガとガレオンの連携によって倒され、そしてジンガーとジークは――互いのすべてを賭けた相打ちの果てに、ジンガーの行方は消え去ったよ。まぁ、生きている保証はないがね」


「なに……!? ジンガー副聖騎士長が……っ!」


ロキの口から語られた衝撃の結末に、ヘリオスは息を呑んだ。


しかし、ロキは冷ややかに微笑むと、さらに踏み込むように玉座からゆっくりと立ち上がった。その纏う気配が、周囲の空気を圧迫するように重く変化していく。


「だが、そんな小競り合いなど、今の僕にとってはもうどうでもいいことだ。よくぞここまで僕の六人の大罪人たちを倒して見せたね、ヘリオス。その褒美として、君たちに特別な景色を見せてあげよう」


ロキが指を鳴らすと、空間の理がねじ曲がり、目の前の虚空に幻影のような窓が浮かび上がった。この世界には存在しない、遠く離れた光景をありありと映し出す魔導の投影だった。


「……これは……?」


「なぜ…!遠く離れたあんな場所の景色が、どうしてここに映し出されているんだ……!?」


レオンの驚愕を含んだ声が、広間に重く響く。

空中に投影された絶望的な光景に言葉を失い、絶句した。


「僕が長い時間をかけて作り上げた『神の釘』という創造物さ。これはね、人々の体内から魔力を無限に吸い上げ、僕の完全なる糧とするための装置だ。残念ながら、君たちもその存在までは知らなかっただろう?」


ロキの言葉に、ヘリオスは戦慄した。


空中に浮かぶ幻影に映し出されたのは、空の彼方から大陸へと突き刺さろうとする、不気味な輝く巨大な杭のような建造物だった。


「そして、手始めにその『神の釘』をどこへ落としたと思う? そう、ヘリオスの故郷であり、かつて僕が完全に陥落させた亡国ルミナス王国さ。さらに言えば……シリルが展開した極限の結界術の増幅によって、その影響範囲は大陸の半分を丸ごと包み込めるほどの規模にまで拡大している。今この瞬間も、大陸中のすべての人間から魔力がすこしずつだが奪われ続けているのさ」


「そんな……バカな……! シリルさんを、そして大陸のすべてを利用する気か……!シリルさんは…!あの人に何をしたっ!!!」


「あの女は…!俺のもんになったんだよっ!!!」



あまりにも非道で、絶望的なロキの計画にヘリオスは歯噛みした。


その時、激しい足音と共に、戦いを終えたヒューガ、ガレオン、の2人が、ボロボロになりながらもヘリオスの元へと駆けつけてきた。


「ヘリオス……! 無事か!」


「間に合ったか……って、なんだあの空に浮かぶ奇怪な窓は……!」


仲間たちがヘリオスの周囲を取り囲み、安堵の表情を浮かべるると同時に、空中に映し出された絶望的な光景に絶句した。


しかし、安息の時間は一瞬で切り裂かれた。


「――そこにいたか、虫けらども」


冷徹な詠唱と共に、ヘリオスたちの足元の空間がドス黒い闇の色に染まった。


突如として現れたのは、黒衣を纏い、不気味な呪術の紋様を浮かべた『呪術の魔女』エルミラだった。


「お前たちをここで消し去るのが、私の役目だ……!」


エルミラが両手を大きく広げると、地面から無数の呪詛の鎖が噴き出し、ヘリオス以外の仲間たち――レオン、ガレオン、ヒューガの三人を容赦なく捉え、城の外へと強烈な重力と爆風で一気に押し飛ばした。


「ぐわっ……! なんだこれ……動けない……!」


「ヘリオス……っ!」


仲間たちの叫び声が遠ざかり、気がつくと広間には、ヘリオスと、そして目の前に佇むロキの二人のみが残されていた。


「さて、邪魔者は消えた。いよいよ最後の幕引きとしようか、ヘリオス」


ロキが冷たく微笑み、その手から漆黒の魔力が溢れ出す。


神の釘が大陸を蝕む中、亡国の王子ヘリオスと、世界を絶望に染めるロキとの最終決戦が、ついにその幕を開けようとしていた。


そして、城の外へと強制的に追い出されたレオン、ガレオン、ヒューガの三人の前には、不敵な笑みを浮かべた呪術の魔女エルミラが立ちはだかっていた。


「さあ、お前たちの相手はこの私だ。絶望の中でじっくりと這いつくばせてやろう」


エルミラの放つ強烈な呪術の波動に対し、レオン、ガレオン、ヒューガの三人は怒りと覚悟を宿した瞳で武器を構え直す。


世界の運命、そして大陸の存亡をかけた、二つの激しい戦いが同時刻に開始の狼煙を上げたのだった。

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