よくわかる王国危機事情
――貴方の両手は、イデルの街に潜んでいた闇を見事に打ち砕いてみせた。孤高の境地で磨き抜いたその強さに助けられた者、憧れる者、共に拳を握る者。不気味な闇の蠢く世界で、貴方は彼等をどこまで導けるだろうか。あるいは、彼等は貴方をどこまで導くのだろうか――
『イデルの街は、完全に危機から脱した。しかし、王国への危機は迫っている。準備は整った。強大な敵と戦うため、同じ方角を見つめる仲間を得る旅に出よう』
これは、地方規模の話は終わったってことだな。
シナリオ規模が無事、国家クラスに膨れ上がった模様。それ即ち、一国家がひどい目に遭うってことなので、よくよく考えるとがんばらない方がいい気がしてくるな。
しかし、我等ゲーマー。調整はしても手抜きはちょっと難しい。
許せ、名前もないモブ達よ。この世界は残酷なルールでできている……。
オープニングモノローグが終わったところで、最近見慣れて来たパパ男爵の登場だ。
「とりあえず生」って感じで、シナリオの頭にとりあえずパパ男爵が出て来る。説明キャラに丁度いいんだろうね。
「君達のおかげで、この街の混乱は最小限で済んだよ。冒険者達と衛兵隊の衝突になっていたら、市民も不安になっただろうからね。これなら事情を知らない者達は、冒険者同士のいざこざがちょっと派手になった、くらいの認識で済むだろう」
どこで偉業評価が出たのか不思議に思っていたけど、これパパ男爵の手勢を貸してもらうかどうかで難易度判定あったのか。
そういや、突入時間を決める時に、今すぐだと衛兵が集められないけど大丈夫かって確認されたもんね。
てっきり、休憩を挟まなくて大丈夫かっていうゲーム的な確認だと思っていたけど、難易度調整とかも入ってたんだねえ!
全然考えてないところで、偉業評価のきっかけ作ってたわ。びっくり。
しかし、今のマウスはハードボイルド系、それも狙い通りという態度で頷いておく。
「突入する時は、まだ俺も冒険者だったわけだから、冒険者同士のいざこざというのは間違っていないな」
受付嬢が正体を現した時に、冒険者証を投げ渡して辞めたけど誤差、誤差。
「うむ。エクスマウス君の実力があってこそできることだな。見事だった」
「ご令嬢も大活躍だったぞ」
ラストアタックはユッキーだったしな。しかも、エタソン神に変な評価をされるラストアタックだった。
なんだよ、コントって。
押すなよ絶対に押すなよ的な流れあったかね?
あったような気もするな……。
しかも、コントの評価で手に入ったスキルがですね、パッシブで味方からの誤射ダメージが軽減するっていう、超有用スキルなんですよ。
ただし、パッシブスキル「ボケ」を持っている者が、パッシブスキル「ツッコミ」を持っている相手からのみダメージ軽減っていう形なんだけども。
絶対にユッキーの方がボケじゃん。
なんであっちがツッコミなのさ。
納得いかねえ。
「あの子のお転婆は、親として心配の種でもあるのだけれどね……。とりあえず、人助けができたことを喜んでおくよ」
「悪いことではないな」
少なくとも、使用人を電気鞭でしばいているよりは、ずっといいよね。
貴族令嬢として色々とおかしいことは、目をつぶった上で目隠しを巻いて色眼鏡もかけておけ。
「そういえば、ここに駆けこんで来たベアトリクス君のことだけれどね」
「ああ、あの子がなにか?」
「ちょっと確認をしたいのだけれど、黒幕だった復讐者の一族と戦った時に、能力を無効化したとか?」
「ふむ? 無効化かどうかわからないが……あれか、操っていた髪を消し飛ばしたやつか」
「そうそう、その話を聞いてね。ひょっとしたら邪神の力を打ち消したのかもしれないと驚いたのだが」
邪神の力とか言われてもわからないぞ。肩をすくめる。
そういう邪悪なオーラ的ななにかを感じるセンスは搭載されていない。なので、とりあえず見たままのことを羅列して説明する。
「敵が山羊ドクロをかぶった状態ではあった。ベアが殴るだけで、操られていた冒険者が解放されていたのも見た。俺が殴ってもそういうことなかったし、なんかやっていた本人も驚いていたようだけど……なにかまずいことか?」
「いや、いいことだ……と思う。恐らく、君達が遺跡の宝玉に触れたことで、邪神に対抗する神の力が少し活性化しているんじゃないかと思ってね。あの子は孤児院で神官係の教育を受けているはずだし、それで力を引き出せたのかな、と」
神に祈ると邪神の眷属特攻みたいなバフがかかるのか。
なるほどねーと思っていると、パパ男爵は嬉しそうだ。
「邪神の眷属が現れた今、対抗する力がきちんと効果を発揮できると確認できたのは嬉しいことだ。何分、言い伝えも遥か昔のことで、本当にそんなことができるのかと言われると困るところでね。これからは周囲への働きかけも理解を得やすくなるだろう」
「根回しも大変そうだな」
すまんが、そっち方面のプレイヤースキルは皆無なので、他人事そのものの態度で言っておく。
「この街でもそうだったけれど、どうもあちこちに邪神の眷属は入りこんでいたようだね。すでに乗っ取られたようなところもあって、協力を得るにも難航しているよ。なにより、王族の近辺にまで敵の手が回っているのが痛い」
流石、国家規模のシナリオ。王族が出て来た。
順調に国盗りフラグが立てられているぞ。
「王族がどうかしたのか」
「身動きが制限されているみたいなんだ。邪神に対抗する神の力は、王族の誰かが解放しないと、その真の力を発揮できないと伝わっている。我が男爵家は、有事の際には王族をこの地の神殿に招聘する、特権があるのだが……」
「その特権、あちこちに山羊ドクロが出ているから当然使えるんだろう? それなのに、王族がここまで来られない、と」
それ、もう王族は詰んでるのでは?
敵に身柄を抑えられている状況じゃないの。王城に乗りこんだら、王族そろって山羊ドクロをかぶってそう。
さっさと別な王族を立てて使ってはいかがか。どっかその辺に、密かに王家の血を継いだ孤児とかいるんじゃないの?
貴種流離譚を発動しよう。
多分それが一番早いと思います。
俺としてはそう提案したいけど、パパ男爵はちゃんと順番通り、王族の無事を確かめないと話が進められないようだ。
「そこで、王族を迎えるべく、邪神の眷属を退けた貴族や騎士団と協力して、王族の救出を試みるという話になった」
王城に乗りこんで、王族の誰かを奪還するミッションかー。
こういうのはやっぱりお姫様かな? 第何王女みたいな、ちょっと扱いが下の方だから、敵からも軽視されてて警備が薄いとかいう流れ、よく聞きます。
「そうか。男爵殿の存念はわかったと思う。俺もそれに協力を?」
「うむ。私はここを動けないので、貴族や騎士団のところへ娘を行かせることにした。彼等と協力して、王族をこの地へなんとしてでもお連れして欲しい」
ゲームのシナリオだから仕方ないと思うけど、絶対にユッキーがここにいて、パパ男爵が王族の迎えに行くべきだよ。人材のチョイスがファンブルだ。
ダイスの女神が微笑むどころか爆笑してクリティカルを十回ぐらい出しても、ファンブルに結果が収束するやつ。
ハプニングの予感しかしない。
あのユッキー令嬢、王族も鞭でしばいて引きずって連れて来そうじゃん?
めちゃくちゃ面白そうなので、パパ男爵の依頼を喜んで受諾した。




