ドレス一式プレゼント
冒険の旅立ち準備といえば、装備の更新だ。
新しい拠点を目指す前に、現状の店売り最高級品を揃えるかどうかはいつだって悩ましい。
あれだな。今年の最新家電を買うか、来年出るかもしれない最新家電を待つかみたいな。
お金があるのなら、今年のを買って、来年に新作が出たらまた買い替えじゃガハハみたいな金満ムーブをすればよろしい。
メーカーさんも製造業者も販売業者も、ついでにリサイクル業者も笑ってくれるよ。
このマウス、冒険者ギルドの問題を片づけたらパパ男爵からお金が出たので、今はお金持ちであるぞ!
まあ、これまで全財産を没収してくれていたシャロンさんが、とうとう完成した装備品を持って来てくれるので、手持ちのお金が小銭一枚でも黄金一本でも関係ないんだけどね。
「というわけで、大変お待たせいたしました。当商会の職人達が、全身全霊で手掛けさせて頂きました。エクスマウス様の専用装備でございます」
そう言って提示される販売リストには、たった一つのお品物。
『守護者の装い(エクスマウスのユニーク装備)』
お値段はニッコリゼロ円である。全額前払いしてたもんね。
ここで突然の注文キャンセルなどという変な遊びはせず、大人しく購入して無事引き渡し完了だ。
「早速袖を通してみて頂けますか? 性能をご説明いたします」
「ふむ、お願いしよう」
装備コマンドを使用して、一瞬の早着替えである。
前装備と同じで、全身セット。今回は最初から武器部分までまとめ売りだ。
同じ革から作りました、という統一感があってカッコイイ。
拳を何度か開閉しても、ぎこちなさはない。
投げや極めも使うステゴロスタイルとしては、手首から先の動かしやすさはとても重要なのだ。
ナックルダスターとか、攻撃力は上がるけど掌の内側を使いにくい、みたいな武器は困るんだ。攻撃力が下がっても、素手の方が良いってことまである。
軽く殴る蹴るの動作を確認して、問題なし。
シャロンさんに頷いて見せると、ホッとした表情の後、満面の笑みを浮かべた。
「そちら、表側はワイバーンの革、裏側にシーサーペントの革を使用いたしました。二種の亜竜を組み合わせた、大変贅沢な一品です」
ドラゴンエキゾチックレザー! しかもダブル!
つよそう。
「基礎スペックは、捕食者の装いから全体的に向上。既存の特殊効果は据え置きですが、新規で対魔法能力が強化されました。具体的に申し上げると、魔法防御力の向上はもちろん、射撃系の魔法ならパリィ可能です」
「ほう? 射撃系というと、マジックアローの類を弾けると?」
「亜竜素材の力でございますね。風のワイバーンと、水のシーサーペント、これらのおかげで防御時の補正が高まっております」
ふむふむ。
自分でも装備品のアイテムとしての説明文に目を通すと、腕や足の攻撃部位に、魔法的な覆いがついた状態のようだ。通常攻撃に魔法効果が乗る、いわゆる魔法武器ってやつだ。
ゲーム後半の強武器っぽさがある。
しかも、魔法パリィができるようになっただけではなく、カウンター判定時のダメージ補正がついている!
これは嬉しい。パリィやカウンターの成功補正ではなく、ダメージ補正の辺り、流石はユニーク装備、わかっている。
このマウス、パリィは補正がなくても失敗しないからね。
ダメージ補正、パリィの流れ弾を敵に当てた時にも有効だろうか?
後で試してみなければ……。
「しかし、名前といい、特殊効果といい、防御寄りの性能になったか?」
捕食者の装備は、殺られる前に殺れ、というスペックだった。防御力の薄い軽装だし、当然の方向性だ。
一方この新装備……もちろん、基本攻撃力も上がってるんだけど、特殊効果の方が、クリティカル補正が据え置きで留めて、防御関係を強化しておきましたという気配がする。
殺りに来た奴を殺れ、というメッセージを感じる!
「はい。イデル男爵様からもご相談を受けまして、エクスマウス様はこれからユキお嬢様の護衛役だとか。だとすれば、徒手空拳のエクスマウス様は、遠距離からの攻撃への対処が必要かと思いまして」
「うん、乱戦での被弾は大体遠距離攻撃だ。確かに、後衛がいると一人の時よりも避けられないから、必要な性能か」
その辺、ベアちゃんには偉そうに言っておいて、実践は中々できないマウスである。
いや、多少はできるんだけど、素人の域を出ない。俺も、ベアちゃんと一緒に修行しよう、修行。
「装備の趣旨はわかった。使いこなしてみよう」
「はい。エクスマウス様のご活躍を、職人ともども、お祈り申し上げます」
にっこり笑って、シャロンさんは付け加えた。
「なお、エクスマウス様のご活躍を確信し、そちらの装備は拡張性を考慮してございます。新しい素材を手に入れましたら、是非、当商会へご用命ください」
手頃な獲物がいたら、そりゃあ狩るけど。
だって蛮族だもの。
そこはお約束できる。シャロンさんがそう口にするってことは、対象の獲物も出るんだろう。
見つけたら積極的に狩りに行きたい。しかし、出先からいちいちこっちに戻って来られるかな?
「あ、今度のユキお嬢様のお仕事には、わたくしもついて行きますので、その他のお買い物も是非、当商会をご利用くださいませ」
また全財産を奪われるイベントが発生する予感。
「ところで、エクスマウス様……そちらの特注装備をお作りした際の素材が残っておりまして」
また全財産を奪われるイベントが発生した予感。
シャロンさんの笑顔! 笑顔があのスイーツ食べ放題を前にした女子の笑顔になってる!
お綺麗ですけど迫力があるのよ!
「ユキお嬢様への贈り物などにいかがでしょう? エクスマウス様とお揃いの防具に、ワイバーンの尾から作った魔法鞭などがございますよ?」
んんー! 自分の装備強化が済んだと思ったら、仲間の装備強化かー!
俺も護衛は得意とは言えないし、その辺はお金でカバーできるならカバーしておくべきか。
「それ……ソルやベアの装備の分も素材あるか?」
ユッキーだけではなく、あの二人もとても心配です。
お金で解決するならちょっと一狩り行って来る。新装備の慣らし運転もできるしね。
「ええと、それは、対応可能でございます……ますが」
シャロンさんの目が泳いだ。
スイムスイムと泳いだ先には、ユッキーがいる。
マウスの新装備? 例の全財産ぶっこみ案件?
一緒に見たい見たい連れてけついてくー!
というやり取りの結果、一緒に説明を受けていたのだ。
「マウス、こうしよう?」
すんごい不本意です、って顔をしたユッキーが提案して来た。
お聞きしましょう。どうしようって言うんだい?
「ベアちゃんとソルちゃんの分は、この男爵令嬢が出す。だから、マウスはこの男爵令嬢一人に全力で貢いで」
「貢ぐのは構わないが」
「えっ、貢いでくれるの?」
ユッキーが貢いで欲しいって言ったんじゃん?
ゲーム内通貨なら貢いでいいよ。リアルマネーは要交渉。
「構わないが、ベアとソルの分をユキが出すって……できるのか?」
お財布の中身的な意味で。全財産持って行く商会だよ、シャロンさんのとこ。
「できる。ていうか、やる。あれだよ、孤児院の子供達に服や食べ物を贈るのは貴族的な義務だから、パパにお願いする」
変なところでご令嬢ムーブをしよる。困った時に家の権力を使うわがままご令嬢か。
「それで片付くならいいが……いや、俺がちょっと魔物を殴って来た方がよくない?」
パパ男爵のお財布的な意味で。あの人も関係各所とのやり取りで忙しいだろうし、変な負担をかけると影響がありそうだぞ。
「イヤ。マウスからのプレゼントはこのユキ令嬢が独り占めする」
「う、うぅん?」
なにそれ、どういうロールプレイ?
俺が困っていると、シャロンさんが袖を引いて来た。
「エクスマウス様、ユキお嬢様の仰る通りに。女には、色々と事情があるものでございますので」
なるほど、わからんがわかった。
女性の事情と言うのならば、このマウス黙って頷く。
一見煌びやかで楽し気なその内実は、探ったら生きては帰れない秘密のお城だって知ってるのだ。レーザーとレーダーの巣なんでしょ。
「じゃあ、とりあえず、ユキの分の装備は俺が払うということで」
下一桁までぴったり全財産のお買い物をするのにもすっかり慣れたよ。
ポチっとな。
「やったー! マウスからのプレゼント、ゲットだぜ! 装備、装備~!」
ユッキーが輝き過ぎてビームを撃てそうな笑顔で、早速お着替えした。
「どうよ、マウス! 衣装チェンジしたニューお嬢様だよ!」
「おー? 結構イメージが変わってるぞ。俺の装備とお揃いだからそうなったんだろうが、カッコイイ感じになった」
前の装備はお嬢様寄りだったけど、今度の衣装は冒険者寄りだ。
護衛されてるんだねって雰囲気から、同じパーティメンバーに見えるようになったんじゃないかな。
「えっへっへ、カッコイイかぁ~。じゃあさ、前の服とどっちがいい?」
「ふうむ? 可愛さなら前の方だが、これから旅に出るなら今の方がいいな」
防御力が違うよ、防御力が。
「なるほど~、マウスは可愛いよりカッコイイ方が好きか……」
「うん? まあ、ユッキーは、可愛い方が似合うと思うけどな。TPOというやつかな」
ちょっとゲーム外の呼び方が混じったけど、セーフでお願いします。
「ふ、ふーん? 可愛い方が似合うと思ってたんだ……。じゃあさ、じゃあさ、今までで一番印象に残っている服っていうと?」
今までで……?
今まで、ユキ・イデル令嬢の衣装は三パターンしかなかったと思うが。
初対面時のお嬢様スタイル、お屋敷脱出後に着替えたお嬢様お忍び冒険スタイル、そして今の冒険者お嬢様スタイルである。
答えに迷ったら、ユッキーの頬が膨れて来た。焼けたお餅みたいに芸術的な膨れ方だ。
それに比例するように、シャロンさんの目つきも恐くなってきた。
なんだこの状況、突然敵地に放りこまれたような――いや、それくらいなら敵を殴れるやっほいってなもんで、別に恐くもなにもないな。
なんでこんな戦えない系ホラーゲームに包囲されたような危機的状況になった。
やべえよ、やべえよ。
これ選択肢を一つ間違えただけでデッドエンドを迎える死にゲーの気配がする。
落ち着け。普段は気のいいユッキーが、いきなりこんな不機嫌になる時は大体あれだ、この子なんか勘違いしてるんすよ。
穏便な対処方法として、まずお互いの理解のすり合わせから行えばよい。
「いや、あの、ご令嬢のユキに会ってからまだそんなに経ってないから、あれこれと言えるほど別な服を見ていないと思うけど……?」
「んむっ!? そ、そっか、そういえばそうだね? あー、えーと、うーんと……」
ユッキーの頬っぺたのお餅、無事に取れました。あっという間にしぼみおる。
あれだな、リアルの方の服装込みで聞いていたな。
それなら、確かに結構見ているから選択肢が広い。
そうだなー。
今パッと思い浮かぶのは、下はスリムなジーンズで、上が胸元にちょっとフリルのついたチェニックだったやつ。
パンツの方は中性的でシンプルなのに、チェニックは女の子っぽくてギャップがよかったね。
小物だと腕輪なんかしてると、ふと視線が向いてしまう細い手首にドキリとさせられるよ。
うちの幼馴染は可愛いなと思い知る。
『リアルのファッションレビューは、今度な。名前がわかんないのも多いから、写真とか見ながらになるかも。レビューさせたんなら、それもう一回着るとかサービスしろよ?』
小声で囁くと、わちゃわちゃと手を振り回して慌てたユッキーは、
『お、おす!』
なんか武術系の運動部みたいな返事になった。
正拳突きでもするんか? いや空手着でも君は可愛いと思うけどさ。
「じゃ、じゃー、今度ね、今度! パ、パパにお小遣いをもらってくるね!」
「がんばれー」
ユッキーの手腕に、お塩とベアちゃんの装備の質がかかっている。
俺はどうしようかな。暇潰しに、外に魔物狩りに行って来ようか。久しぶりに生肉も食べておきたい。
ついでにお塩とベアちゃんに、一緒に行くかどうか声をかけてみようか。
レベルはいくつあっても良いからね。
ベアちゃんは教えれば教えるだけメキメキ強くなるし、お塩もほら、レベルさえあれば一発即死は避けられるし……。




