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プレイヤーズ  作者: 雨川水海


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35/61

ストロングスタイルバーバリアン

 やや鼓動が早い。

 遊びのゲームプレイで緊張するのは久しぶりだ。


 ここでしくじったら格好悪いぞ。

 明日からの部活で、ユッキーにもお塩にもカッコイイマウス面ができねえ。そんなことになったら、シシ丸は鬼の首を取って金銀財宝を得たピーチ・デーモン・スレイヤーのようにゲラゲラ笑うだろうし、ヘキサは押し隠した気の毒そうな顔をそらすだろう。


 何気にヘキサの対応の方がダメージでかい。

 ヘキサの「どう接していいかわからない。声をかけたら傷つけてしまわないかしら」って横顔を想像すると、俄然気が引き締まる。

 赤穂な浪士が討ち入りする時ってこんな表情すんだろうなって、歴史上の寒空に共感を打ち上げながら、星見トカゲをポケットから取り出して口に入れる。


 シャロンさんがくれたんだ。(バフ効果が)とても美味しい。

 頼もしいバフをいくつも引っ下げ、マウスは冒険者ギルドの正面入り口の前に立った。


 当然、見張りをしていた下っ端中の下っ端の冒険者が、「テメエは!?」ってこっちの自己紹介を促してくる。

 期待に応えて、敵に御挨拶申し上げよう。


 こんにちWAR(パンチ)


 万国共通、異種族共通、相手をぶん殴ればそれ即ち降伏かさもなくば死か。

 スラム街で練習を重ねて洗練された挨拶に、下っ端冒険者は圧倒され、ギルドのドアに激突して開け放った。


 それなりに話し声が外に漏れていたドアの向こう側に、不自然な静寂が敷かれる。

 しかし、ギルド内の人々の視線は雄弁だ。驚愕や警戒が、開いたドアからギルドの外まで溢れ出している。

 その無言の喧騒へ、堂々と押し入る。


 驚愕すべき人物はこのマウスだ。

 警戒すべきはこのマウスだ。

 それが一通り済んだら、恐れ戦け、マウスの敵対者ども。


「ノコノコと来やがったな、間抜けめ!」


 敵対者の一人が声を上げたので殴りかかる。


「ぐばっ!? お、おま、いきなり殴るか普通!?」


 俺の中では普通なので頷く代わりにもう一発殴る。


「ひ、人質がいるんだぞ、こっちには!」


 隙があるのでもう一発殴る。

 殴る。

 殴って倒した。


 さて、次はどれを殴るかな。

 ぐるりと見回すと、敵対者どもは呆然としているようだ。

 熊が現れた時の盗賊みたいな混乱状態だ。ボーナスタイム、暴れられるだけ暴れておこう。


 どいつを殴っても同じようなので、近いところから殴りかかり、できれば吹っ飛ばして他の敵を巻きこむ。

 マウス式乱戦術は絶好調だ。


 三人のHPゲージを飛ばして、十人にダメージを与えた。ボーナスタイムはここで終了。

 全員が武器を持って構えを取った、通常戦闘モードに入る。

 ソロのマウス、マウスレスならこのまま無言で戦い続けるのだが……今回はマルチプレイで、他プレイヤーやNPCとも会話が多めのエクスマウスである。

 ユッキー達の潜入時間を稼ぐためにも、ちょっと無駄話に付き合ってみるか。


「ようやく目が覚めたか、警戒が足りないんじゃないか。寝てたのか?」

「話も聞かずに殴りかかる狂人にバカにされたくねえよ!」

「冒険者の名前を騙る犯罪者に言われたくないな」


 先に手を出して来たのはそっちじゃん。

 ヒロインお塩の誘拐とか、国家反逆罪ぞ。

 裁判なしで極刑ぞ。


「やっぱりテメエ、あの孤児のガキを助けに来たんだな? そうだろうな、仲良くしていたみたいじゃねえか!」


 そりゃもう、めちゃくちゃ仲良いよ。今度の休み、お塩と一緒に飯食いに行くんだ。

 ちょっといいお店のこだわり醤油ラーメン。

 その味の感想を休み明けの部活で報告して、「そこ塩ラーメンじゃねえんだ!?」って皆から突っ込み待ちするっていう計画を、密かに進めている。

 ほ~ら、仲良し!


「あのガキは人質だ! 怪我させたくなけりゃ大人しくサンドバッグになりな!」


 宣言と同時に殴りかかって来たので、カウンターをぶっ放してやった。

 あれ? なんか、ユニークスキルの効果が上がった?

 数的不利を前提にした敵のレベルダウン調整が入っていることを考えても、カウンターの威力が跳ね上がってる感じがするなー。


「それはなんだテメエ!」


 目を剥いて叫ぶ別な冒険者も共感してくれる。

 ねー、不思議だよね、このカウンターの威力。


「人質がどうなってもいいのか!?」


 あ、違ったわ。全然別のことに驚いてらっしゃった。

 無論、人質は大事だよ。


「人質が傷つけられるのは、心が痛むな。考えただけで殺意が溢れそうだ」


 ていうか溢れたわ。カウンターで沈んだ敵を無意識に踏みにじってたわ。


「で、どこに人質がいるんだ?」


 敵はなんか上の方を向いて黙りこむ。

 上にいるのか? まあ、囚われたお姫様は、魔王の城の高いところにいるもんだからな。

 妥当、妥当。


「どこにいるのか知らんが、目に見えるところにいないなら、それは存在しないのと変わらん。お前等だって、人質を本当に痛めつけたかどうかわからないだろ、どうやって人質を思いやればいいんだ?」


 人質を取った卑怯者達が戸惑っている。

 わかるわかる。人質取った側って、人質が肉の盾として意味をなさないとそういう風になるよね。


 数々のゲームで会話スキップしてきたマウス、よく知っている。

 人質ごと敵を殲滅とか、ゲームオーバーにならなきゃ普通にやるよ。大抵は人質の損耗率でゲームオーバーになるから、全滅はさせないように気をつけなきゃいけないけど。

 多分ノーデスしたことないな。

 人質を盾にするのは、それが盾として有効だからであって、その盾が濡れたティッシュペーパーより脆ければ動きの邪魔にしかならない。


 来いよ、不良冒険者共、人質なんて捨ててかかって来い!


 中々かかって来ないので、こっちから行ってもう一人を殴りつける。

 これで伝わったかな? 俺には目の前にいない人質は通用しないぞってことが。

 なんなら目の前にいても通用しないと思う。


 人質ってソルでしょ?

 お塩でしょ?

 プレイヤーでしょ?

 拷問されても痛くはないし、殺されても生き返るもん。


 まあイベント死の時は、面倒な手順を辿らないと生き返らないとかあるけど、それだけだ。

 痛がらないし死なない人質の価値ってどこにあると思う?


 答えはパンチの後で。もう一人殴り倒す。


「くっそ、こいつマジで頭がおかしいぞ!」

「待て、ハッタリだ! 実際に人質を見ればどうせ……これでどうだ!」


 お? 本当にお塩を出すの?

 そこにいるなら話は早い。一直線に道を開いて助け出して撤収――。


「誰だっけ、それ?」


 冒険者ギルドにお約束の受け付けカウンター、そのテーブルの下から敵が引っ張り出したのは、お塩の美少女顔とはまるで別物だった。

 冒険者ギルドには似合う、受付嬢らしき人物を矢面に立たせて一体なにをしようと?


 まあ美人ではあるから、囚われのお姫様ポジに抜擢するのは頷けるけども。

 うーん、見覚えはあるなー。多分、会ったことある。

 でもほら、俺ってもうずっと冒険者ギルドに来てないからさー。


「まあ、名前はどうでもいいか」


 とりあえず別な敵に殴りかかって、その人質は濡れたティッシュペーパーより脆いですとアピールしておく。

 百聞は一見に如かず。

 雄弁は銀、沈黙は金、実行はオリハルコン。


 どう? 口で言うよりも人質通じないってよく伝わったでしょ?

 上手く伝わったらしい。人質の受付嬢は真っ青になったし、敵はドン引きの顔になった。


「お、お前! 人質だぞ、これ! 目の前にいるだろ、どうなってもいいのか!」

「一応言っておくと、人質に手を出したらタダじゃ済まさん。一度や二度死にかけるくらいで終わると思うなよ」


 ボッコボコのボコにしてやんよ。

 ここはゲームの世界、便利に死から遠ざける回復魔法や回復薬が存在するし、なんなら蘇生アイテムまである。

 くくく、楽に逃げ(デス)れると思うなよ!


「なんだお前……」


 さっきからそればっかりだな、モブエネミー共!

 はっきり言うてくれよう。


「はっきり言うと、人質を目の前でどうこうしようが俺はお前等を徹底的に殴り倒す。手加減はしないし、むしろ苛烈に痛めつけるだけだ。人質が傷ついたらお前等の余罪になるだけであって、俺は罪悪感も含めて一切の責任を感じない」


 だって今の俺、別に治安維持組織のメンバーじゃないもん。

 ただの一介の雇われ者よ。人質を助けなくても、職責に障らない。報酬が安くなるかもしれないけど、困るほどのものじゃないし。


 現実だったらもちろん悩むだろうけど、これゲームだし。

 それに、現実でも人質を取って要求するテロリストに譲歩しないのが国際常識になって久しい。体面を気にする国家とかだと、もちろん人質の安全に気を配るが、気を配った結果、あそこは人質が効果的だからジャンジャン人質を誘拐して来ようなんてなったら目も当てられない。


「ま、待って! お願い、助けて下さい! エクスマウス様! なんでもしますから!」


 敵が黙ったら人質が今度は訴えて来た。

 う~ん、まるで助けがないかのような口ぶりだ。


「お前、俺に対するギルドの対応が妙なこと、イデル男爵の調査がギルドに入っていることは知っていたな?」


 どちらか片方は知っていたはずだ。

 特にパパ男爵の方、ギルドの上だけに話すと握り潰されるだろうからと下っ端の職員や冒険者にまで直接話を聞く形で調査したって言っていた。

 そして、ギルドがおかしいと答えた連中は、どいつもこいつもギルドから距離を置いて、男爵のところに保護されている。

 丁度、山羊ドクロで周囲が騒がしくなり、戦力が欲しいところだからと、パパ男爵は離脱した冒険者を囲いこみ、冒険者の管理を離脱したギルド員に任せている。


 つまり、こんなところで人質になっている受付嬢は、ギルドが正しいと思っている人物だ。

 ああ、職を失いたくないからギルドに口裏を合わせたって可能性もあるか。どっちにしろ、俺に不利な証言をした相手だ。


「このギルドに不審なところはないかと調査が入った。その時に訴えるなり、逃れるなり距離を取るなりしていれば助かった。実際にそうした者はいるのに、お前はそうしなかった。手を振り払った奴を助ける必要があるか?」


 蜘蛛の糸を、パパ男爵は垂らした。それに掴まる者はしっかり掴まって、助かる者は助かった。

 どうして、そうしなかった?

 敵と認定されたってしょうがないだろう。人質だと思ってかばったら後ろから刺されるんじゃないかと思う。


 状況がこうなった以上、本当に人質になったんだか、人質になったフリをしているんだか知らないが、覚悟を決めろ。

 戦う力があるなら身を守れ。ないなら身を伏せて祈っていろ。

 俺は一切の考慮をしないぞ。だってそれは、お前の選んだ今だ。


 ゲーマーは、己の意思で選んだエンディングを受け入れるものだ。

 たとえそれが夢オチでも爆破オチでもゾンビオチでも空飛ぶサメが全部持って行っても、そのゲームを買った責任と、最後までプレイしてしまった責任とを背負うものだ。


 まあ、掲示板とかSNSとか仲間内で、メーカーや開発スタッフにこりゃねえだろと文句垂れることは山ほどあるけどもね。

 ははは、俺の話を真面目に聞くとバカを見るぞ。

 全てはゲームをより楽しむためのスパイスだ。まずい食材でもジャパニーズマジックレシピ、カレーに混ぜてしまえば全て皆大好きカレー味。


 さて、どうでもいい会話は終わった。なにも変わらない。

 HPゲージもスタミナゲージもマックスのまま、ソル救出組のための時間だけを稼げた。


 ここからかな?

 場の空気が闘争一色になる。駆け引きだの交渉だのが通じない、ストロングスタイルバーバリアンが目の前に立っていることにようやく気付いてくれたようだ。


 さあ、ゲームらしい醍醐味を楽しもうじゃないか。

 俺の楽しみに付き合ってくれたら、お礼にマウスの一人乱戦術を見せてやろう。


 その筋じゃ、ちょっと人気あるんじゃよ?

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん、コマンドーさんもビックリなストロングスタイル。
[良い点] こういう何でもしますから という人に なら死ねと言える人になりたい
[一言] 冒険者:こっちには人質がいるんだOK? マウス:OK!(殴りかかりながら) コマンドーかな?
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