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神々の遊戯盤  作者: ダンヴィル
目まぐるしく変化した日常
13/18

怪奇な事件


 混乱しながらも複数の物事を考えながら重い足取りで拠点へと戻った私はイチジクの手を離し、その空間の隅にある収納棚をどかす。


「のぅ……何をしておるのじゃ?」


「……ここに森の中まで出れる転移術式の魔法陣がある。

 ずっと前に作って二人で決めた事がある。

 もし危機的状況になってどちらかが戻らないとなったなら、拠点に火を放ち、駄目かもしれないけど森に火を放ち火事でクーラに逃げてきたという事にして印を付けられず入れてもらえる事に賭けてみるという計画を立てていた。

 可燃物が沢山あるのに態々火炎瓶の材料を買いにいったりしたのはいつでも緊急手段としていつでも使えるようにしておくため。

 本当の本当に最終手段。これしか方法が無い時使うとレネと決めていた」


「何を言っておる……まだ追える!わらわなら匂いを追えるぞ!」


 確かにイチジクなら追えるだろう。けど………


「昔のイチジクは凄く強かったんだよね。

 ダンジョンの活躍もあるけど、さっきのを見てようやく確信した。私には敵の動きが何も見えていなかった。何も感じ取る事ができなかった。

 けどイチジクは違う。何のスキルも使わず自分の直感だけであの男に強力な一撃を与えた。それが私には想像がつかない程力量が離れていると物語っている。

 けど、今のイチジクはスキルも魔法も殆ど使えない。

 私は……私はぁ………イチジクまで失いたくない……………」


 収納棚の下の床を外そうとするが視界がボヤけて上手く外せず、ついには外す手を止め目から溢れる涙を拭う事しかできなくなってしまった。

 動けと私の理性が叫ぶが感情がそれを許さない。

 あぁ……イチジクに出会って理解しなければこんな風にはならなかったのかもしれない。

 私にとってレネはどこまでいっても捨て石で、レネにとっても私は捨て石であるとずっと自分を洗脳し続けて、気付くことが無ければこんなところで手を止めるなんて事にならずに済んだかもしれない。

 戸惑いはしてもここまで心をかき乱す事もなかったはずなのに……


「………覚醒……ドッペルゲンガー……ネクロアイ……」


「……イチジク?」


 イチジクの体内の魔力が渦巻く。

 何かしらの形を作ろうと確かに魔力が動きを見せるが世界への宣言をしようともそれが実る事無く、10、20とスキルか魔法を必死な様子で宣言し続ける。


「予見眼……未来予知……英霊降臨……ッ!!!」


 38。涙も引き落ち着いたし無駄だからとイチジクの悪足掻きを止めようと思った時、その1つが発動したのかイチジクの存在そのものが変化したかのような魔力変化が起きた。

 その暴発したかのようなあまりにも膨大な魔力によってイチジクの付けていた指輪は音を立てて砕け散る。

 いや……これは本当に魔力だろうか?本来無色透明で魔力感知によって認識できる力の塊が魔力であって、私の魔力感知で認識できず体に纏うように揺れ、目視できるこれも魔力なのだろうか?

 ただ単にイチジクが魔力感知を妨害する術に秀でているのか、それとも………


「む……おぉ、出てこれたのぅ」


 三本の尾を持つ銀の獣人、その本来の姿に戻ったイチジクは両手を握り開く動作を数回繰り返す。

 次にローブに付いている少し歪な十字架のアクセサリーへと手を伸ばし魔力を込める。

 するとアクセサリーは一瞬小さく輝き、いったいどれ程の額を払えば購入できるかも検討のつかない魔法の斧……いや、ハルバードと以前イチジクは言っていた。

 小さなアクセサリーはイチジクの身の丈を越えるほどのハルバードへと変化し、感覚を確めるように片手で操ると「ふむ……問題無さそうじゃの」と発言した。


「ほれ、レネを迎えにゆくぞ。二人で行った方がレネも喜ぶはずじゃ」


 そう言いハルバードで床をトンッ……と小突くと出入り口の付近の空間が歪み、周囲の光景が変化していく。


「これは……上位結界魔法?」


「いや、これは空間術の一種でわらわの世界じゃ。

 結界の中も1つの空間と捕らえれば解釈として間違いでは無いが、外から物理的に干渉する術が存在しない空間術の方なら手練れでもなければ気付かれる事もあるまい。

 何せ文字通り存在しておる世界が違うのじゃからな」


 魔法に関してそれなりに知識があるからなんとか理解できるけど、それを世界への宣言すら無く平然と行っている事に理解が追い付かない。


「そ……そう………わっ!」


「ほれ、あんまり待たせると可哀想な事になりそうじゃしさっさとゆくぞ~」


 尻尾に絡められるように捕まり、イチジクの背中に優しく押し当てられるような形にされ歪んだ世界を移動する。

 細い出入り口は本来物を踏み越えたりしなければ通れないのだが、イチジクは真っ直ぐと、物なんて無いとばかりにすり抜けながら進んでいく。

 そして出入り口を出て少しして、一つ目の十字路で足を止め振り向く。


「おや?予想以上に早い再会じゃの」


「こいつ……」


 暗闇の中でその男はいた。

 男は間違いなくレネを拐っていった男で身に付けている装備もほぼ全て高品質なマジックアイテムでありこの町では見覚えの無い顔。間違いなくどこかの組織の用心棒として雇われたのだと断言できる。

 その男はやはり私なんかではどうにもできない実力者であるらしく、私達が何処にいるのか断定できていない様子ではあるが剣に手を添え、その汗や呼吸の様子から自身が危機的状況に陥ってると理解し油断無く周囲を警戒していた。


「わらわに何か用でもあるのかい?」


「ッ!?…………敵意は無い、命乞いをしに来たんだ」


 歪んだ色をしていた男が本来の色を取り戻していく。

 いや、この場合イチジクの世界に招待されたのだろう。

 だとしたら逃げ場なんて無い。

 それにイチジクは鎌の部分を男の首元すぐ近く、少し力を込めれば容易く首を飛ばせる位置に付けている。

 男は驚いた様子を見せたが、その状況を一瞬で理解し剣を捨て両手を上げた。


「命乞いのぅ……わらわとしてはレネを無事に返してくれればそれで良いのじゃが」


「それはすまない。俺も仕事で拐っただけだ。

 長期契約だったが契約違反が発生したから最後の仕事として渡すだけ渡してしまった。だが殺せば皆殺しにされると忠告はしてきたからな。奴らもそこまで馬鹿じゃないと信じたいところだ」


「仕事か~。それはお勤めご苦労様じゃな。それじゃあわらわからもお仕事をお願いしても問題無いのじゃな?」


「報酬はお前の命でとかは勘弁してもらえると助かるんだが……」


「……わらわはそこまで非人道的に見えるのかの?」


 ハルバードを退かし変わらず軽い口調で話すイチジクを見て男が安堵の息を漏らす。


「……この空間もそうだが、俺のスキル神速をスキル無しで反応する人がいるとは思ってなくてね。怖くてちびってしまいそうなんだ。許してくれ」


「素直でよろしい。許そう」


 半場諦め投げ槍に答えただろう男に対してイチジクはあまりにも簡単に許すと言い出し思わずローブを引っ張る。


「許すの?」


「何じゃ?主が殺してほしいのならやぶさかではないが……向こうも大人で仕事だからしただけじゃぞ?

 それに契約違反をされ最後の義理として果たした訳じゃしもう義理も無かろう。

 それならいつかこの借りを返してもらうのに格安で面倒事に協力してもらった方が良いと思ったのじゃが駄目だったかの?」


「あぁ、任せてくれ。その時はもちろん協力させてもらう。神に誓っても良い」


 普段の私だったなら逆恨みとかされても怖いから殺せと言っただろう。神に誓うのであれば大きな制約が付くのだが抜け穴があるのだから殺せと。

 しかしイチジクのこの余裕に呑まれ、そしてあまりにも現実離れした現状に全く付いてこれていない私はそこまで考えられず「殺さなくて良い」と言ってしまった。

 私の言葉を聞き助かったと再び安堵の溜め息を吐いた男が口を開く。


「俺はB級冒険者の神速のランドルフ、主に用心棒をして食い繋いでいる」


 B級の冒険者って上から2番目……という事はダンジョンで得られるスキルを15個以上、あるいは5個以上15個相当の強力なスキルを所持し尚且つある程度の戦闘能力を証明できている人って事になる。

 私も神速というスキルは知ってるし、彼の二つ名とまでなっているスキル神速は正に15個相当にもなり得る強力なスキルである可能性が高いし嘘じゃないかもしれない。

 まあ現状は自称神速のランドルフであって本当は神速の劣化スキルである音速かもしれないし風速かもしれないけど。


「それで確かレネだったか?あのエルフの子供は……」


「場所はわかっておるから要らんよ。また機会があれば頼むとしよう」


「あ……そう……か…………な、ならユートピアって知っているか?」


「ユートピア?」


 このままでは不味いと思ったのか動揺を拭えぬ様子で絞り出した言葉であったが、当然言葉通りの意味を指している訳ではない事はわかる。

 イチジクが知っているかと私の表情を伺うので知らないと首を横に振る。


「知らないんだな。ならユートピアには気を付けな。

 甘いお菓子なんだが体が綺麗な状態でヴァルハラへ旅立てる代物でよ。戦いの神に愛されて肉体は戦い続け、魂は戦いの神へご奉仕しに行けるんだってよ。

 気持ちわりぃ話だとは思わねぇか?」


「あぁ~……何故こうも悪い予感ばかり的中するかのぅ……」


 位置的に表情は読み取れないが今のイチジクはその声色同様苦い表情をしている事は良くわかる。

 私も人為的な事だとは予想はしていたけどイチジクはドラッグだということまで考えていたとその様子から理解できる。


「まだ名乗ってなかったの。わらわの名は薬袋九(みないいちじく)

 薬袋一族でただの保護者じゃ。

 気軽に綿毛かイチジクとでも呼んでほしいのぅ」


「綿毛?……イチジクだな。その名前、一生忘れられそうにない」


「それは光栄じゃの。さて、悪い結果になればどうなるかわからん。すぐにでも町から逃げることをオススメしておくぞ」


「忠告感謝する。ここから出してくれればすぐにでも全力で逃げることにしよう」


「そうするが良い」


「待って!何で私達を狙った!そのユートピアの犠牲者を見たのが原因!?」


 私が思い当たる事を口にして聞いたが本当に「何言ってんだこいつ?」という表情をされ、だとしたら何だと考え始めようとしたタイミングで答えを話し出す。


「そんなの重要じゃねぇよ。ユートピアの事を知って無事に外へ出られそうな奴だったからってのも確かにあるがんなの建前だ。なんせお前それなりに蓄えがあんだろ?ユートピアを名目に猫ババするつもりだったんじゃねーか?アイツならやりそうだ」


「そこまで他人を踏み潰すのに慣れた輩だといっそ清々しさすら感じるのぅ。殺しても何の罪悪感も感じなさそうで何よりじゃ。

 ではまたの、ランドルフ殿」


 ランドルフの輪郭が歪み、イチジクの世界から追い出される。

 追い出されたランドルフは周囲を確認し自分の剣が落ちているのを確認し、それを拾い上げる。

 ただ、どういう訳かそれらの動作が酷く遅く感じる。そんなゆっくり膝を曲げ剣を持ち上げているとむしろ体力を消耗すると思うほどに。

 そんなゆっくりな動作をしていたくせに戻す時間すらも惜しいとばかりに神速のスキルを使ったのだろう。

 町唯一の出入り口の方へと一歩足を踏み出した瞬間、私の目では捕らえられない速度で消えていくのが道理であろう。さきほどそうだったのだから。

 しかし、早いは早いが移動していく線が目視できた。

 反応できるかは別問題として、私の目でスキル神速を視認することができている。


「一つ二つとわかって少しスッキリしたのぅ。

 このままスッキリ終われれば良いのじゃが」


 そう言って軽い足取りでイチジクの空間を進む。

 その足取りは迷いが無く、どこまでも直進で壁をすり抜けて進んでいく。

 何故走らないのかとも考えたが、この世界はイチジクが作った世界なのかもしれないけれど、時間の流れも含めどうも様々な事柄が不安定なのだと感じた。

 時の流れだけでなく、ごく稀に見たことないような、翼の生えた蛇のような生き物や、光る綿毛のような生き物かもわからないような存在がたゆたっていて、僅かにだがイチジクが一歩足を進める度に光の粒子が立ち上がる。

 このような異様な空間にいて、その世界の主であるイチジクが走らないのは何かがあるから走れないのではと考え付く。

 しかしそれは想像の範囲を出ないし今の私がまともだとも思えない。


「ここじゃな」


 その言葉と共に世界が元の色へと戻っていき、暗い倉庫のような場所へと出る。


「うっ……」


「もう降りても良いぞ」


 周囲に青い炎を浮かばせ灯りを確保しそう言うが、そんな事よりこの強烈なまでに強い鉄の匂いや周囲の道具からまともな場所では無い事が伺える。

 そして、怒鳴るような声にも削がれるものがある。


「はぁ……ランドルフが忠告をしていたらしいが無駄だったようじゃな。

 わらわの親がどう判断するか……見ものじゃの」


 独り言でそう言ったのだろうけど、扉の先にいるだろう怒声を上げる彼らの声越しでもハッキリと聞き取れた。

 それに対して何か聞くよりも早くイチジクが扉を開いてしまい、その先の光景を目にし思わず絶句する。

 予想できた事ではあった。だがランドルフと名乗った男が忠告したと聞き希望を持った。

 だが現実として目の前に起きている状況には目を背けたくなる。


【ゴミだ……コレはゴミだ……生きていちゃいけない……皆殺しだ……】


「ッ!?」


 怒鳴り声を上げていた数人の男達も私と同じようにコレを見てしまい何の言葉も出ない。


「おっと……どうやら許しは出なかったみたいじゃのぅ。残念じゃ」


 イチジクの影がまるで地面から剥がれたかのようになり、影は獣のようにその大きな口で「皆殺しだ」と宣言し、その光景に思わずイチジクから一歩距離を取ってしまった。

 そんな状態のイチジクだが、静まり返った中で諦めたみたいに再び「本当、残念じゃ」といつもの調子で口にする。しかし……


「皆殺しじゃ」


 あまりにも冷たい言葉が発せられると同時に何かが弾ける音がした。するとその部屋にいた人が同時に崩れ落ちるように倒れ、目の前と同じ光景がこの部屋だけで起きた事ではない証拠として、大きな何かが沢山倒れるような音が上の階からした。

 その外傷はとてもわかりやすく、死体全てに同じだけの巨大な風穴が胸にできており、穴の大きさは人の頭1つ分ととても大きく一目で即死だと言うことが伺える。


「何……今の………?」


「生け贄を闇に棲みつくものへ捧げただけじゃよ」


 さも当然の事のように殺したイチジクはハルバードを元のアクセサリーへと戻しつつレネへと近付き魔力で青白く光る紙を生成する。


「超高速再生術」


 その紙をレネへ張り付けると同時に世界への宣言を行い魔法を発動する。

 すると紙はレネの体へと溶け込むように消え、同時に傷が時を巻き戻すかのように塞がっていき、やがて欠損し無くなっていた部分ですら元通りとなる。

 術が終わり小さな吐息を漏らすレネを見て拷問された後だと言われても信じられない状態になっていた。


「良かった。……ほれ、戻ろう」


 拘束具を外し、両手で姫を抱き上げるかのようにレネを持ち上げたイチジクが尻尾を1つ出し先程と同じように背中に乗ってくれと言う。


「う、うん。わかった。戻ろっか」


 少し……怖かった。

 けれどそれ以上に、消え入りそうなくらいの弱々しい笑顔を見て、イチジクが何かに恐怖していると感じて大人しく従った。

 私が従ってくれたのがとても安心したのか表情を柔らかくし「ではゆくぞ?」優しい声色で確認し、来た時と同じように戻っていった。


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