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汚れマジカル請負人  作者: 川神クレハ
30/35

殺意の魔法少女

「アタシ達ずっと、くるるが明るい子だったって思い込んでたんだよな」

「そうよね、手を差し伸べてあげなきゃいけなかったのに……」


 彼女が魔法少女らしく、前向きに振る舞おうとしていたのも、こういう感情を必死に隠そうとしていたサインなのかもしれない。

 残りのメンバーは病院の談話室に集まると、状況の確認をするために本部と連絡をするも音信不通のままだった。さてどうしようかと悩むが、直後にディスティルの携帯から電話がかかってくる。

 白井からで、スピーカーの音量を最大まで上げた。


[おまえら今どこだ!]

「枢さんと遂さんの病院ですけど……」

[そこを動くな! あと『マジスティ』の連中もいるか!?]

「一軍? 多分まだ病院内だと思うけど……っていうか何よ。その変な略し方は」

[いいからそこにいろよ! てめーら!]


 白井の(やかま)しい声が耳に響く、唐突に電話を切ると、しばらくして汗まみれの白井がやってきた。ネクタイを緩めて鈍たい足取りで。


「あ、白井。生きてたんだなぁ……」

「だまれっ!」


 白井の傍らにはリコリスが居る。間一髪で逃げた白井を見つけてここまで来たようだ。


「そっちから指示はなんかあるの?」

「とにかく今は一軍に任せるしかねーだろ! ったくよぉ! 本部にノワールとかありえねーわ! くそ!」


 白井は看護師にマジスティの居場所を聞いた後、急いで駆け上がっていく。当然、彼女達を主力に本部を奪還する予定だと思うが、事を把握する為にひっそり後をつけていく。


「みんな元気にしてるリコか!」


 リコリスが脳天気にアカリの病室に入る。アカリは熱を出して意識がまだ戻らないらしく、膝をギプスで固定してベッドで寝かされていた。そしてそれを取り囲む四人の顔は死体に寄り添うかのように暗い。


「おまえら、ノワールが出現したんだよ! とにかくいますぐ力を貸してくれ!」


 白井が『ノワール』という単語を発すると、全員がびくついて震えていた。


「無理ですわ……」

「な、なんでリコか!? レッド以外は怪我はないはずリコ!」

「リコリス。四人じゃ無理だよ」

「そんなことないリコー! 頑張るリコ!」

「無理だっていってるのよ!」


 セイラがヒステリックに叫び声を上げる。モモは人の激昂を聞いて頭を抱えるだけだ。


「だって! アカリがこんななってるのよ!? 攻撃引き受けてくれた前衛が、こんな風にされたら戦えるはずないのよ!」

「そうだよ! 遠距離中心のアタイたちじゃ……あっという間に……」

「それに私達……こんな、こんな風に痛い思いするなんて聞いてないのッ!」

「二軍は皆、同じ事やってるリコー! 君達もできるはずリコよ!」


 他のメンバーも戦う事に非常強い拒否感を持っていた。目の前で仲間の足が破裂するように潰されていく光景なんて生まれて初めて見たのだ。その光景は相当強いトラウマとして刻み込まれているはずだ。


「……怖いよ、あんなのと戦ったら私達死ぬかも知れないし、怖いんだよ!」

「ンなこといってる場合じゃないリコォッ!」

「もう……こんなのイヤ!」


 リコリスがじたばたして怒ったところを白井は押しのけ、納得したような顔をしてから淡々と話を進める。


「ならうちの『補欠組』にやらせる」

「正気かリコ!?」

「無理矢理嫌がってる子供を真っ先に戦場に立たせるなんて真似は禁止されている。それじゃ、まるで少年兵と同じだって会長がいってたからよぉ」

「どうするリコ……!?」

「強制はしないが、せめて下級の掃討(そうとう)を手伝って欲しい。まだ、民間人が外で襲われてるんだ……お願いだ。俺ら大人を助けてくれ」


 白井が少女等に頭を下げると、彼女達は無言で頷く。一息ついた白井は病室から出て『補欠組』に仕事を振る、彼の背中を見て、モモは立ち上がり必死に頭を下げていた。


「仕方ない。皆は周囲のザコ潰しをするリコ」

「すみません……」


 病室から出ようとしてくる白井から身を隠そうと廊下の角に隠れる『補欠組』の面々だったが、白井は首の脂肪を揺らしながら廊下の角を向く。


「おまえらも断ってもいいんだぞ!?」

「行くわ」


 襤褸が即答すると全員が頷いた。決意は固まっていたようだ。


「よし! それじゃ作戦会議だ! ハイハイ! 時間のロスだからさっさとやるぞ!」


 病院内で大声を上げながら手を叩いて談話室にリコリスと共に行く。


「えーまず始めに! おまえらはただの囮だ! 増援が来るまで足止めしてくれりゃいい!」

「それだけ?」

「それだけだ!」


 安定の白井クオリティの作戦会議。どうせこんなものだろうと全員呆れていた。

しかし、本部の人間達が他の一軍を集めきるまで時間を要するのも事実。それまでの間、敵の足止めをすればいいと簡単そう言うが、かなりきつい内容だ。


「イリディセント。お前腹はいいのか?」

「まぁ、酷くやられてないから今は動けるよ。明日退院予定だったしね」


 腹を貫かれたにもかかわらず、傷はほぼ完治。規格外の回復力を持っている。ウルトラマリンとは対照的にイリディセントは魔法少女数人分の力を有すのだから。


「ところで、くるるはまだ動けないリコか?」

「ええ、普通に歩くのも駄目そうよ」

「上級ノワールを瞬殺する実力があると心強かったリコ……」

「ねぇ、瑞雲は一体なんなのよ? どうしていきなり強くなるのよ!?」


 リコリスは宙を舞いながらお気楽な様子で、瑞雲枢について説明する。


「本来なら彼女の戦闘力はすげぇ高いリコ!」

「でも心臓病が原因で補欠組に甘んじていたんですね?」

「そうリコ、彼女の力は特定の条件でのみ、力が増幅して凄まじいパワーを発揮するリコ」

「その条件って何?」

「『殺意』リコ」


 マスコットであるはずのリコリスがそんな言葉を使うと無気味に聞こえるが、リコリスも真面目なので、いまいち茶化せないし笑えなかった。


「魔法少女の不思議な力はそれまで生きてきた経験とか記憶、もしくは憧れとか特別な感情が反映されるリコ。不思議な力は環境によって出来上がるリコ」


 怪我をしている人を助けたいのなら治癒系の能力が発現するし、人を脅威から守りたいのであれば防御系の能力になる。本人の性格が苛烈であれば能力もより攻撃性が増したりもする。


「くるるの場合、殺意の感情を込めることによって、魔法弾丸の殺傷性が飛躍的に増すリコ。敵に応じてステッキの形状が変化し、効率的で確実な殺戮を可能にする万能魔法リコね……まぁ逆に殺意が込められてなければ、カスみたいな弾丸しかでないリコ」

「そんな凄い力は本人は知らないんですか?」

「魔法の力は自分で気付ンリコよ。このリスから教えてしまうと、魔法の力の生育にも影響が出かねないリコね」


 ディスティルがそうであるように、魔法少女の能力は変質する。しかし負の成長を遂げる事もあれば、応用の利く能力にも成長する。リコリスが危ぶむのは、その成長の可能性や方向性を自分達で定めてしまう事らしい。


「まあ出来る範囲や力の量はやっぱり才能次第って所もあるけど、くるるは天才リコ」


 リコリスは話を総括する。魔法少女の中でも怪物じみた少女の事をこう纏める。


「つまり瑞雲枢は『殺意』の魔法少女リコ!」


 襤褸は思わず鳥肌が立つ。魔法少女の力が周囲の環境や本人の性格によって決まるのであれば、枢がそんな危なっかしい感情を内包していたという事。

 枢は病気の体質でこの危険な力が生まれた。つまり、普段から本当にどうしようもない怒りや憎しみを持って生活していた事になる。


「ただ、才能を活かせてないリコ。だってくるるの頭はくるくるパァ! なんつってリコォ!」


 リコリスが舌を出した所で、ディスティルが黒い巻尻尾を引っ張る。


「ぎゃぁあああああ! 内臓が飛び出るリコォオオオ! クソォ! 離すリコ!」

「次下らない事いったら毒殺するわよッ!」


 リコリスの尻尾は内臓と直結している。彼らは滅多な事では死ねないが、痛みは感じるらしい。


「ま、心臓病じゃ仕方ないリコ……安静にしてもらうリコね」

「ならおまえら、現場近くまで送ってってやるからノワールを倒せよ!」

「わーってますよー」


 全員が目的に向かう中、襤褸だけが立ち止まっていた。


「つづれ」

「……」

「くるるとは無事に帰ってから仲直りしよう」

「……ええ」


 枢に対し、何も知らないで彼女を呵責した事を酷く気にしている。煮え切らない思いのまま戦いに出向く。

 枢もきっとあの病室で外を眺めているしかないのだろう。それのなんと心細い事か。

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