四十四話―アップテンポな末路
「兄様、わたくしを一人にしないでくださいまし……」
ヴィンセントの背中にすがりついでえぐえぐ泣くロビン。
「うん、大丈夫だよロビン。僕は君のお兄ちゃんだからね」
遠い目をして、煙が立ち上る地下シェルターを見つめる。
「紅玉、紅玉、何処ですかー?」
「まさか、まだ中に……」
「おーい、ホン!」
依子、ジャック、エミリーはシェルターに周囲をうろうろと探し回る。まさか内部で紅玉は、クリスマスグッズと共に焼けていないかと。
「はあ……商品……」
「ごめんなさい、兄様……」
「ロビンは気にしないで……」
「商品手に入ったら幾ら払うか?」
「ニ割くらいかな?」
「三割じゃないと渡せないね」
「そんな殺生な……ん?」
クリスマスグッズが入った箱の上に座っているのは―。
「紅玉!?」
「アホ面そろえて何してたか」
中国娘はにっと笑った。
「ロビンは強力な戦士だけど、感情が抑えられないと、力も暴走しちゃうんだよね」
「だよね。じゃねーよ。死ぬとこだったぞ」
食卓に並んだとんかつとキャベツ、酒入りの粕汁、白米、白菜漬け。
それらを頬張りながら、会話。
ただし、ヴィンセントの皿にはキャベツのみ。とんかつは全てロビンの更に乗っている。逆に、粕汁はヴィンセントに二人分。
「美味しいです! 依子」
「ありがとうございます。あの、まだありますから、お兄様の分まで取らなくても」
「兄様のだから欲しいんです。そうじゃなきゃいりません」
「そうですか」
軽く依子の笑顔に怒りが入るが、ロビンは気づかない。これらすべてを作成したシェフの気分は害されたのだが。
「粕汁もまだありますから、お兄様に差し上げなくても大丈夫ですよ」
「あ、これ嫌いです。美味しくないです。変な味がしてまずいです」
「あらあら、お嫌いでしたか、をほほほほ。では片づけますね」
「待ってえ! 僕の食べるものなくなっちゃう! 勘弁してください!」
粕汁を死守したヴィンセントに向かって、幾之助が笑う。
「妹ってどこも同じですね」
「私、お兄様のおかずを取ったりしません!」
依子の主張に苦笑しつつ、ヴィンセントは粕汁を啜る。
そして箸を置くと
「でね、ちょっとヘヴンズ・ドアーの子たちにお願いがあるんだけど」
「だいたいそうだと思ってたよ」
珍しく飯塚家の食卓に並んでいる紅玉が、白菜漬けを食べながら言う。
「いやあ、察してくれて嬉しいなあ」
気にせず続ける。
「ねえ、アメリカの地下通路を知ってる?」
「地下通路?」
「そ。地下を通って、アメリカ大陸からヨーロッパやアジアをつなぐ通路」
「聞いたことがありませんねえ」
「ま、秘密だからね」
にこ、と笑い。
「最初は国家に属してたんだけどね。今じゃ無法者の天下だよ。マフィアも警察も交通手段を握られちゃねえ」
「それがどーしたんだ?」
「その通路を使えるようになれば、君たちのお店も、仕入れの幅が広がると思うんだ」
白米を飲み込み、エミリーが最近使えるようになった箸で指す。
「あんたが親切でそんな話を持ち出すとは思えねえとか、あたしもすっかりひねくれちまったな」
「察しがいいねえ」
笑みが深くなる。
「うちの商会と地下通路を管理してる集団のトップが揉めちゃってさ。ちょっと調停してきてよ」
エミリーも笑う。
「それはトマトソースが吹き出る形かい?」
ヴィンセントは相変わらず笑っている。
「黒焦げのピザもできるんじゃないかな。まあ全部生臭いけど」
HA!
「荒事は大歓迎だ。ただし」
後の二人も頷く。
「店長に相談しないとだけどな」
この回で同人誌「ヘヴンズ・ドアー」の上巻に収録された部分は終了です。
同人誌のお求めは即売会もしくは、通販をご利用ください。
個人サイト キクムラサキ式 http://zankokusyosan.moe.in/ のオフラインページに即売会参加日程がございます。
通販はこちらよりご利用いただけます。送料や手数料などの関係で若干即売会価格より値上げしております。 https://ukikusado.booth.pm/




