九十九話―「アメリカ流を見せてやれ!」
「今の戦況は?」
エミリーがだらしなく後部座席のシートに背を預けるのに、助手席のダニエルが答える。
「芳しくありませんね。北欧軍とネイティブ・アメリカンが手を組んで、内部と外部から北米大陸を崩している状態です。それに」
「それに?」
ダニエルは特別調合の煙草をシガーケースから取り出した。
「マイケル大統領の動きが妙です」
「妙ってのは?」
運転席のアダムが代わってこたえる。
「たまに行方知れずになる。僕らが運んでないからね。国内かもしくは海路を使ってるんだろうけど」
エミリーの脳内に、あの異常なほどに無邪気な少年大統領の顔が浮かぶ。
戦争の真っただ中に、シンボルが姿を消すのはイロハのイの字もわかっていない者がする事だ。
たとえば、第二次世界大戦中、天皇陛下が行方知れずになれば、日本国民はパニックに陥っただろう。
「わざと、かもね」
「わざと?」
「だって、あの子、子供じゃない? 誰か、アメリカを国内から崩そうって奴の手引きがあるって事」
「はあ、すると」
脳内にまた浮かんだ顔があった。
「まあ、それはそれとして、におわねえか?」
にっとアダムの口角が上がり、逆にダニエルの口角が下がる。
「このまま行けばぶつかるでしょう」
「カナダまでの道のりは?」
「アバンチュールの場所から5キロだよ」
「速度は?」
「上げましょう、アダム」
「OK」
アダムがアクセルを踏み込む。
願えよ、願えよ、戦火を。
願えよ、願えよ、戦果を。
我らが進むのは深淵のドグラマグラ。
目隠しされたようでいて、誰よりも真実を見つめている。
「においが濃くなってきやがったぞ!」
「畏まりました」
目標物がこちらに照準を定める前に、ダニエルは足元からRPG(手持ちロケット弾)を取り出した。
「ぶっこんじゃえ!」
アダムの声と共に、窓から身を乗り出し、目の前の人の群れに向かってRPGを発射した。
簡易なその弾は、激しい爆発音を発し、何人もの人間が宙に舞った。
そのまま、車は人の群れに突っ込み、武装した人間を跳ね飛ばし、轢き殺しながら人の群れを突き抜けた。
そして、三人は車の外に出た。
「北欧軍か? ネイティブアメリカンか?」
そして、相手の容姿を確認すると、エミリーはにっと口角を上げた。
「OH,連合軍だ。こいつは良い。こいつは良いぜスイート」
敵軍はざっと50、ただしRPGと跳ねたのとで死体になったのは除く。
全員が一斉にこちらに向かって、Ak5アサルトライフルを向けてくる。
アダムが、こちらに大きなプラスチックの箱を放った。
「エミリー! アメリカ流を見せてやれ!」
箱から舞い降りてくる無数のピースメイカー拳銃。
「OH! YERE!」
エミリーは、降ってくる落ちる前に二丁掴むと、空中に向けて二発撃った。
「いける、いけるぜ、これこそイデアだ!」
そのまま、エミリーは北欧・ネイティブアメリカン連合軍に向けて発砲した。
超精密射撃!
撃った数だけ、敵は胸に、頭に、穴を空けて死んだ。
「なんだあの女は!」
弾切れした銃を捨て、別の二丁を拾い上げて、エミリーは空中に跳ね上がった。
「地獄の使徒さ! てめえらみんな逝っちまえ! Good Luck!」
空中から撃った弾でも当たる。
その驚異的事実を思い知ったのは、エミリーが着地した時だ。
「良い所を取られちゃうね」
「良いのではないですか、楽で」
「楽かどうかはともかく、売り物にしてはイマイチなM60で済むのは大助かりだ」
そんなやり取りをしながら、金髪の双子はM60機関銃を敵軍に向けて撃つ。
分速550発の弾丸と超精密射撃を浴びて、敵軍は敗走を始めた。
「逃がすかい?」
エミリーの問いに、ダニエルは質問で返す。
「エミリー、隊長は誰か分かりますか?」
エミリーは硝煙の中銃で指した。
「あれだ、あのスウェーデン国旗のバンダナ」
「畏まりました」
逃げる背中に向かって、ダニエルは躊躇わず銃弾を浴びせかけた。
隊長が死んだ事により、完全に烏合の衆と化した連合軍は散り散りに逃げ出した。
「アンタ、ちょっと意外だな」
「そうですか?」
エミリーは手を軽く振る。
「ああ、なんか」
「SHIT! なんてこった!」
エミリーの声が、アダムの大声で遮られた。
「どうしたよ?」
「パンクしてるんだ! なんてこったファッキン・クライスト!」
「簡単に神様を呪うもんじゃねえぜ。直せねえのか?」
「時間がかかるよ。悪いけど、エミリー、徒歩でカナダに向かってくれる?」
「おいおい、勘弁してくれキリストさんよ。まあ、ちっと疲れてるが行けねえ事もない。アンタらは?」
エミリーの問いに、アダムは軽く笑って答えた。
「僕らはいつも一緒さ。病める時も健やかなる時も」
「そういう質問じゃなくてだな……まあ良い。次に会えたらヨロシクな」
「お気をつけて、エミリー。貴女の旅路に幸運あれかし」
表情一つ浮かべないダニエルの会釈に手を振り、エミリーはカナダ行の曲がり角を曲がった。
その足音が聞こえなくなったのを確認すると、二人は道の反対側に向き直った。
「もう宜しいでしょう」
「出てきたらどうなんだい?」
ぱちぱちぱちと拍手が鳴り響いた。
「すごいな、圧倒的勝利だ」
虚栄と欺瞞の喝采。
「でも、僕なら頑張れると思うんだ」
現れたのは金髪のジーンズ姿の少年。
アメリカ大統領、マイケル!
「僕が君達に戦いをしかける。でも、反逆者なのは君達だ。僕はそういう存在だもの」
少年は笑う。
「僕は、世界で一番愛されてるんだからね!」
「そういう発想は奇特なものでございますが」
ダニエルの言葉をアダムが続ける。
「僕らの言い分は簡単だ。お前は殺す。Go to hell!」
反逆者と戒律との戦が、始まった。




