↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘヴンズ・ドアー  作者: 浮草堂美奈
第十二章 北米大陸を焦土と変えよ編
99/112

九十八話―エミリー、大陸入り

 日本城が落城したのと同刻。

 夜明けの港に、エミリーは降り立った。

 目の前にいるのは、黒衣の双子。

 スーツをきっちり着こなした、その金糸と碧眼は輝くばかりだ。

 まるきり同じ容姿の男達に、エミリーは軽く手を上げて挨拶した。

「Hi,テメエらが救国のヒロインのお出迎えとは、世も末だな」

「世界はいつだって世紀末なんだよ。ノストラダムスは知ってる?」

 双子の片割れ、アダムが笑い掛ける。

 この二人の生業、世界を地下通路で繋げるアンダーグラウンドの支配人であり、カラーギャングのボスというのを知っているエミリーは、軽く顎をしゃくるだけに留めた。

「車はそいつかい?」

 視線の先にあるのは軍用トラックだ。米軍から下りたものなのだろう、いかにも”良さそう”だった。

「ええ。今回は武器も弾薬も運ばねばなりませんので」

 双子のもう一人、ダニエルが返答する。カリフォルニア訛りのあるアダムと違い、ダニエルはアッパークラスの英語を使っている。

「オーライ、早く乗せてくれ。尻が波には飽きたってさ」

「良いけど、会いたい人とかはいないの?」

 アダムの言葉に、エミリーは肩を竦める。

「分かっちゃいねえな。逢っちゃいけねえもんなんだよ。あたしらみたいなのは、こういう時にはな」

「OK.進もう」

「私たちは進む事しかできない生き物ですからね」

 郷愁するような視線を受けて、エミリーも笑う。

「もしも昔に返れたら、絶対にやらなかった事にしたしくじりがいっぱいある。だから、昔に返っちゃいけねえんだ。しくじりが無ければ、世界は回らないからな」

「いやに老成したね」

「老けた、とも申しましょうか」

 エミリーは後部座席に座った。

「大人にならなきゃいけない時期が来たんだ、って言ったら笑うかい? ああ、笑うだろうさ。ガキが何言ってやがるってな。だが、ガキなりに、いつかは大人にならなきゃいけない事を知ってるんだ。何が何でも、誰のせいでも」

 ダニエルは後部座席に煙草を差し出した。

「アメリカン・スピリットですが、吸いますか?」

 エミリーは戻した。

「良いね。だが、そういう記号を必要としてる訳じゃねえ」

「肺がんが怖い?」

「いいや、そういう記号を示されるとな、縋っちまいそうになるのさ。あたしらが縋るものは、そうじゃねえだろ? なんだと思う?」

「答えちゃ野暮だろ」

「そうだな……そういう所はアンタ達は大人だよ。銃さ。世界で一番素晴らしい、神様の発明品だ。神様はな、きっと飲んだくれのろくでなしなんだろうよ」

 ダニエルが助手席で自前の煙草を取り出して言った。

「私達が、銃以外に縋れる時が来たら、それはきっと幸せな狂気なんでしょうね」

「世界で一番ハッピーだろうさ」

 

 ニコライは、ガラスケースから抱き上げたウラジーミルを、そっとベッドに横たえた。

「夜中になってしまってすみません、大尉カピターン。お疲れになったと思います。日本人ってベッドで寝ている奴がなかなかいないんですね」

 場所は壊滅した日本武士団領内で、唯一洋風の作りになっている家だ。

 手足も胸から下も失くしたウラジーミルは、目を閉じた儘だ。

「これからどうしようかなあ、とりあえず、日本に来てみたけれど、此処が住み心地が良いとは限らないし。もっと南に行ってみるのも良いかもしれませんね。でも、俺達は日焼けしやすいから、南はきついかなあ」

 ウラジーミルの頬をそっと撫でる。

 これより愛おしいものはない様子で撫でる。

「大尉、定住の地が見つかったら、畑を作ろうかと思うんです。俺、農作業は生きてた頃にちょっと手伝ってただけだけど、すごく頑張って、いっぱい野菜や果物を作ります。毎日大尉にお腹いっぱい食べさせてあげますね。大尉は心苦しく思うかもしれないけど、俺は大尉が幸せなら、それで幸せなんです」

 ふいに、ニコライの瞳から涙がぽたり、ぽたりと落ちた。

「だから笑って……笑ってよ……大尉……」

 その白い頬に涙が落ちたのに気づき、ニコライは慌てて拭った。

「すみません、そんな急に言われても困りますよね。大尉は全然笑わない人だったの忘れてました。でも、いつか笑ってくださいね。此処はきっと暖かいはずです。ソビエトより……ずっと暖かいはずです」

 その胸に接吻を落とし、ニコライはランプを消した。

「おやすみなさい、大尉。でも、その前に聞いてください、俺、大尉にずっと憧れていました」

 ふっと息を吐く。

「駄目だなあ。そんな今更な事を言われても、笑ってくれませんよね。ドミトリー軍曹に聞いておけば良かったなあ、大尉が笑った冗談とか」

 跪いていた、床から、ニコライは立ち上がった。

「じゃあ、今度こそおやすみなさい、大尉。明日も良い日でありますように」


 地下道に入る時、エミリーは言った。

「なあ、残っちゃいけないものってなんだと思う?」

 軽く振り返った二人に、慌てて手を振る。

「いいや、独り言だ。気にしねえでくれ。……独り言さ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。