十九話 公爵令嬢の臨時護衛
ネフィの護衛として一日中付きっ切りになった。
自分の誕生日会を一か月前にやったから、貴族の来賓の大体の目的は分かる。
婚約を目的とした人たちが息子を連れてきて挨拶に来ていた。
貴族の当主の人たちは立場を弁えているけど、子どもたちは明らかに偉そうな態度の子が多かった。
父親が隣にいるから黙っているけど、僕を見る目に敵意すら感じる。
それにネフィを見る目がなんかこう下品というか、とても紳士とは思えないような目つきをしている。妹のように接してきた女性をそういった目で見られると僕としては嫌な気分になる。
でも、僕はただの護衛だ。視線程度では無視する。
ネフィはあまり楽しそうではない。
淡々と礼儀的な挨拶を済ませて昼の部が終わった。
「ねえ。ベルくんの時もこんな感じでつまらなかったの?」
「僕の場合は魔法陣の話題があったからね。まだ楽しかったよ。でも、あんまり楽しいものじゃないね」
「へえー。家族のみんなとベルくんが祝ってくれればいいんだけどなー」
ネフィは人前では猫を被ることができるけど、仲のいい相手と一緒だと、こんな風に年相応の会話になる。
「夕方と夜はもっと自尊心が高い人たちがいると思うので気を付けて下さいね」
「何かあったらベルくんが守ってくれるんでしょ?」
「護衛だからね」
午後の部は格式の高い貴族たちの応対になる。これまで以上に礼節に気を遣う必要があるネフィだけじゃなくて僕自身も礼節を欠いてはいけない。
「じゃあ、残り数時間頑張りましょうね」
「うん!」
そうして午後の部が始まった。一目見ても傲慢そうな子供たちが多い。
親の静止がなければ、今にも飛びついてきそうな人たちばっかりだ。
僕の時は女の子が多くて、特に変な視線は感じなかったけど、これは僕のせいだろうか?
まあいいや。ネフィは上品に振舞っているし特に問題は起きないだろう。
特に問題を起こす人はいない状態で終わった。
――――――
挨拶が終わった後、僕は練兵場に呼び出された。
「おい。ザルゴルの人が来たぞ」
観客は大人たちが、闘技場には子どもたちが集められていた。
みんな僕に対して隠すこともない敵意を向けている。
「これより、ネフィ・シットを賭けた戦いを執り行う」
ガードンさんがそう言った。
この人。正気だろうか?
「ルールは簡単。今回ネフィの護衛を務めたベルク・ザルゴルに一撃を与えられたら、ネフィとの婚約を約束しよう」
えっと。相手は下は五歳から上は十五歳といった所かな。
実力はよく分からないけど、間を扱える人はいないと思う。
「ガードンさん。正気ですか?」
「勿論。ベルクは武器と魔法を禁止する。他のご子息たちはなんでも有りだ」
みんなの目が活力を帯びている。
それもそうかな。ここにはネフィが好きで婚約すれば家としても利益が得られるような婚約するメリットしかないような人たちしかいない。
「それでは始め!」
みんなが一斉に動き始めた。
僕に突撃してくる人もいれば、後方から魔法を撃とうとしている人。党派を組んで、僕を消耗させてから倒そうと画策する人。
はっきり言って、全部無駄だ。
「君たちは挫折をした事があるかな?」
間を展開する。対象は練兵場全体。あえて、大人たちも巻き込んだ範囲で狙った。
みんな何をされたか分かっていないみたいだ。
僕は少し圧を上げた。せいぜい威嚇程度の圧だ。
まず、突撃しようとしていた人たちが体を震わせてから剣を落とした。
間の弱点は相手に間が認識できないと、威圧が効きにくいという所がある。
接近戦が相手なら多少は効くみたいだ。
これ以上やると、一部の人が死ぬ。子供たちは大丈夫だろうけど、間を認識できる程度に武術を経験している貴族の人たちが今にも窒息しそうになっている。
流石にムカついたとはいえ、殺すなんてことはしない。
毒魔法を使えば安全に倒すことができるけど、禁止されているし、一人ひとり倒していこう。
魔法が降り注がれた。
「よし、やったか」
僕はもうそこにはいないけどね。
暗殺者の歩法である《暗影歩》を使って、認識をすり抜ける。
一人ずつ最適な力で叩き倒していき、最後の二人だけ残した。
「魔法と剣術で一番強そうは二人だけ残してあげたから、最後ぐらいは正面から戦ってあげましょう」
二人とも十五歳前後で僕よりも年上だった。
「ガキが。舐めやがって」
剣を持った人が突っ込んできた。
間が支配されていることを知っていればこんな無茶なことはしない。まだ間の認識が出来ていないだろう。
「クソ! なんで当たらないんだ!」
ギリギリで躱していく。間を支配されている相手は身体能力が人間の域を超えない限りは行動を把握され続ける。
来る場所が分かっている剣を避けるのは簡単だ。
「一撃当てればいいんだ《プチライトニング》」
さて、ここまで粘っていたのは後方の魔法使いの為。選択したのは初級だけど魔法速度の速い雷魔法。選択としては悪くないけど、その程度じゃ僕に当てることは出来ない。
「雷を避けた!?」
剣士を地面に投げて、剣を魔法使いに渡すように投げた。
「こ、降参します」
剣で戦う意思はないみたいで諦めた。
「いやはや。まさかこれほどの方だとは思いもしませんでした。我々にも機会を与えてくれないかい?」
観客席の貴族の内、武闘派そうな人たちが闘技場に降りて来た。
「ええ。勿論」
これは少しは楽しめるかもしれない。
――――――
戦闘時間はそんなに長くはなかった。
あの人たちと子どもたちの力の差は感じたけど、それぐらいだった。
「急にこんなことをしてすまなかった」
「気にしないで下さい」
ガードンが謝りに来てくれた。
「僕も中途半端な奴らにネフィを渡す気はありませんから」
「そう思うなら、ベルくんがネフィを引き取ってくれてもいいんだぞ」
「それとこれは別問題です」
ネフィが世の中の男性にこんなに人気だとは思わなかった。
まだ幼いのにあんなに狙う男の人たちがいるとはね。きっといつかネフィに合う人が巡ってくるだろう。
「じゃあ、今日はありがとうございました」
「何を言っているんだ? まだ終わっていないぞ。みんなで晩御飯を食べよう。ここからが本当の誕生日会だ」
シット家の食事は肉が多くて野性味がある。僕個人としてはここのご飯はかなり好きだ。ザルゴルだと素材はいいけど量も少ない。
だから、ここのご飯を食べられるのは純粋に嬉しい。
久しぶりに大量のお肉を食べさせて貰った。
「じゃあ、今度こそありがとうございました」
「何を言っている? もう遅いから泊まっていくといい」
「そこまでして貰わなくても」
「気にするな。ベルくんはもう家族みたいなものだからな」
断り切れず、シット家に泊まる事になった。
今日はエヌがいないから、一人で寝るのかなと思ったけど、僕が通された寝室はネフィの部屋だった。
「ベルくん。今日はありがとう」
「面白い経験だったから楽しかったよ」
ネフィは少し申し訳なさそうにしていた。
「今日の私はどうだったかな?」
「可愛かったよ。この前のそうだったけど、ネフィは可愛いから悪い虫が寄り付いちゃうかもね」
「もう。ベルくんまでお父さんみたいな事言っちゃうんだね」
茶化したつもりはないけど、ネフィは冗談で言ったと思ったみたいだ。
「でも、嬉しい。ベルくんに言われると嬉しい。今日は一緒に寝てくれるんだよね」
「護衛としてね。ほら、今日は守ってあげるから安心して寝ていいからね」
まあ、あまり特別なことじゃない。
いつもエヌにして貰っていることをネフィにやればいい。
明かりを消してベッドに入る。
「えっ。ベルくん。これは」
「いざという時に身を挺して守れるようになるんだよ」
「そ、そうなんだ……ありがとう」
ネフィに抱きしめてあげる。暗殺者が襲ってきた時に僕が盾になることができる。
「私。ベルくんのが好き。大人になったら結婚したい」
「ネフィが大人になっても僕の事が好きだったらいいかもね。まずは世界を見て――」
「ベルくんは私の事好き?」
僕にとって好きという感情はあくまで仲が良くて守りたいぐらいしか意味がない。
異性として相手を見たことはあんまりない。
だけど、きっとネフィは異性としての話をしている。
「まだ、その感情が分からないんだ。返事は大人になってからでいいかな?」
「……ごめんね。今の話は忘れて」
少し、もやもやした。
なんだろうこの感情。きっと、僕にとって大事な感情だと思うけど、形すら掴めない。
守りたいものを守れるだけの力は手に入れた。でも、僕が幸せになる為にはまだ何か足りない気がする。それがこの感情の中に隠れている気がする。




