十八話 完璧超人
僕の誕生日会は特に問題も起こらず終わった。
大人たちは夜遅くまで何かやっているみたいだけど、僕には関係ない。
「今日出会った方で良い女性の方はいましたか?」
エヌと寝ているとふとそんなことを聞いて来た。
これだけ直接求婚されれば、僕でも意識してしまう。エヌも気になるんだろう。
「挨拶だけじゃ。何も分からないよ」
「それもそうですね」
「それに……いや、なんでもない」
僕にはエヌがいればいい。そう言おうとしたけど止めた。
きっと、言葉にしちゃうとエヌとの関係が変わってしまいそうで怖い。
僕にとって怖いというのは圧倒的な力に押しつぶされることだったけど、今はエヌに嫌われることが何よりも怖い。
「エヌは身分がないですから、ベルク様と結婚は出来ないんです。でも、安心してください。ベルク様に捨てられない限りは隣にいますから」
「エヌは僕の事、嫌いになったりしないの?」
「好きも嫌いもないですよ。エヌにそんな権利はないんですから」
僕にはエヌが考えていることは分からない。いつも明るいのに時々、心の暗いところが出て来る。
でも、僕はエヌといると安心できる。
他の誰よりも僕を信じていて、僕も信じている存在。
「あんな事言っちゃいましたけど、ベルク様が死ぬ時がエヌの死ぬ時なのは約束しますよ」
「じゃあ――」
「それは駄目ですよ。エヌが死んでもベルク様が死んじゃいけませんよ」
エヌは元暗殺者ということもあって、自分の命に対する価値は低い。
「では、もう寝ましょうね」
「おやすみ」
修行を終えてから、みんなを守れるだけの力が着いたと確信した。これからは僕のやりたいことを頑張ろう。
――――――
今日は学者になる為におばあちゃんのいる図書館に行った。
「学者になる? 本当?」
「うん。だから、いろいろ協力してくれない?」
「こっちおいで」
椅子に座った状態で腕を広げた。
おばあちゃんが座っている場所の上に座った。
本を一緒に読む時はこうやっておばあちゃんの膝の上で読むことがあるけど、別に今こうする必要はないと思う。おばあちゃんは何をしたいのだろう?
「これからはおばあちゃんじゃなくて、サミュって呼んで」
「ん? なんで? おばあちゃんはおばあちゃんでしょ?」
「おばあちゃんはまだ子供がいない。だからおばあちゃんになれない」
よく分からないけど、おばあちゃんがそう言って欲しいなら別にいいや。
ただ、最大限理解しようと思えば、対外的な関係性を考えるとおばあちゃん扱いをするとあまり良くないのかもしれない。
「サミュラスさん? でいいかな?」
「ダメ。サミュって呼んで」
フルネームじゃなくて、あだ名呼びがいいみたい。だけど、僕としては違和感の方が強い。
「サミュ」
「よくできました」
おばあちゃんが頭を撫でてくれた。
今日はなんでか知らないけど、抱きしめる時の圧が強い気がする。
「学者になるにはどうすればいいかな?」
「ベルクはもう立派な学者。誰かが文句を言ってきたらわたしが叩きのめす」
「いや、それは嬉しいんだけどね。僕は学者になりたいんだ。店を構えるみたいに学者がやらないといけないことってないのかな?」
「図書館の館長補佐と副司書長の座をあげる」
ゼドアムの。というよりおば……サミュがいる図書館は学者の間では最高峰の権威を持つ。どんな学問であっても、この図書館の査読があれば公式として認められると言われるぐらいの力を持っている。
だから、下積みという意味では図書館に所属しておくのはいいと思う。
「一応、独立も考えているんだけど、ダメかな?」
「しばらくはダメ」
「そのしばらくってどれぐらい?」
「うーん。三十年ぐらい」
三十年。学者として独立するのなら一般的にそれぐらいが普通というかそれでも早い方だと思う。
ある程度の実績を持った上で組織体制がないと学者では食べていけない。
「じゃあ、とりあえず図書館所属になろうかな」
「嬉しい。これからはずっと一緒」
「ずっとじゃないけどね……」
ということで僕は正式に図書館所属の研究員になった。
僕の研究は魔法陣に関連することすべてになっている。
二年間でいろんな研究機関が魔法陣について研究しているみたいだけど、あんまり研究が進んでいる感じはしない。
でも、いろんな人が関わったであろう二年間は僕の中でも貴重な知見となっていることは分かる。
ただ、僕は他にやってみたい分野がある。それは魔獣について研究だ。
魔獣の生態を調査するのは主にフィールドワークで今の僕ならいろんな研究に手を伸ばせる。
魔法陣の研究はどこでもできるけど、魔獣の研究は現地でしかできない。だから、ある日、僕はサミュに聞いてみた。
「魔獣の生態を研究をしたいんだけど、どこかいい場所ないかな?」
「ダメ。危険。図書館にいて。魔獣は死体を解剖すればいい」
「それじゃダメなんだよ。魔獣の進化は環境によるからその場で調べたいの」
「じゃあ、生きた魔物を買って、実験をすればいい」
サミュは僕に出て行って欲しくないみたいだ。このまま話を続けても判断を変えることはないと思う。少なくとも、言い負かせる自信はない。
確かに危険は伴うけど、僕じゃなきゃ出来ない研究だと思うからやりたい。
こうなったら、一回、こっそり行こう。
一か月後にギルケアス帝国の建国記念日のパーティーに招待されている。それを言い訳にすれば数日は稼げると思う。
それに、僕の妹分みたいなネフィの誕生日会もそろそろある。
プレゼントの用意もしないといけないし、もうしばらくは図書館で研究をしよう。
――――――
今日はネフィの誕生日会の日だ。
普通は当主の父親と来るのが普通だけど、僕個人に招待状が来ているから一人で来た。
招待状には朝に来て欲しいと書かれていた。ということで、朝にシット家にやって来た。
「こんにちわ」
「ベルくんじゃないか。今日はネフィ様の誕生日会だから一応、招待状を見せてくれるかな?」
「はい。どうぞ」
「よし、確認したから、通っていいよ」
門番の人たちは僕の事を知っているから、軽い確認で終わった。
来客はまだないみたいだ。
僕だけがこの時間に呼ばれたのだろう。
従者の人が道を案内してくれた。
「ここはネフィの部屋じゃないの?」
「はい。ベルク様はこちらにお通しするようにと」
誕生日会では自室ではなく来客対応用の部屋を使うはずだけど、そうせずに部屋を使うのか? まあ、いいや。
「入るよ」
ネフィの部屋では明らかに寝起きのネフィがベットに座っていた。
「ベルくん? おはよー」
「なんで寝起きなんだ?」
「今日はベルくんが護衛してくれるって聞いたよ」
「護衛ね。じゃあ――」
うーん。大人的な思考をしてみれば、誕生日会で家公認で僕がべったりくっついていたら、ネフィの婚約者みたいな扱いを受ける。
だけど、まあ僕たちは子どもだし、誕生日のネフィをがっかりさせることはしたくない。
「お嬢様。行きましょうか」
ネフィを立ち上がらせた。




