十七話 化け物
この一週間で、宮廷魔法師団長のサラサを除いて、お世話になった人たちに挨拶をしてきた。
今日は僕の誕生日会の当日だ。
想像以上に来賓が多くて、三部に分けて行うことになった。
朝は一部で来てくれているのは僕よりも貴族としての格が低い人たちや爵位はないけど関わりのある人たちを呼んでいる。
僕は基本的に所定の位置から動かない。みんなが僕に挨拶をする程度の会話で終わっていく。
「五歳の誕生日おめでとうございます。こちら私の娘です。ベルク様とは歳も近いのでぜひ交流する機会がありましたらよろしくお願いします」
正直、僕の身分と言っても家を継ぐ訳じゃないし、将来的には平民と変わりはない。
なのに、下級貴族の人たちは自分の娘を紹介してくれる。
長男のケサド兄さんに紹介するのなら分かるけど、僕に紹介されてもそれほど意味はないんじゃないかな? ただ、みんな目的は一緒なのか、僕と近い年齢の子たちは大体女の子だった。
それに、服も新調したばかりの人たちが多そうだった。それだけ、僕に価値を感じているんだろう。
どんどん人が流れていく。この日の為に準備をしてもらったのにたった数秒で終わらせて申し訳ない気持ちもあるけど、みんなと会話することは難しい。
「誕生日おめでとうございます。我らが主」
異種族解放同盟の人が来てくれていた。
このお姉さんは獣人族の狐獣人の人だ。
交渉とかが得意で魔法陣によって得た利益で商会を立ち上げてくれた。
「半年で別人になりましたね。今後ともよろしくお願いします」
「領地の方にはまた挨拶に行くからよろしくね」
「はい! お待ちしております」
本当はいつでも行けるけど、あそこでは僕の存在はおばあちゃんの次に神格化されていて、おいそれとは行けない。
基本的に僕が関わって来た人たちは上級貴族が多くて、一部では知り合いは少なかった。王城の騎士団や魔法師団の人たちが少しいるぐらいだった。
一部が終わったら、会場を変えて昼の二部が始まる。
二部は上級貴族でザルゴル家と身分が近い人たちが来てくれる。
この部では挨拶だけじゃなくて会話ができる。
「二年前の魔法陣の論文を読みました。ぜひ、私の娘と共同研究をしませんか?」
「魔法師団としての活躍を拝見しました。ぜひ、私の娘に指導をしていただけませんか?」
意外と他国の貴族の姿も見えて、その多くは魔法を得意とする家系の人たちだった。
世間的な評価で言えば、僕は魔法使いとしての活躍が目立っているみたいだ。
他の来賓が子どもに見えるぐらいの大男がやって来た。
「ベルくん。誕生日おめでとう」
「ガードンさん。ありがとうございます」
一年前にお世話になったシット家の当主がガードンさんだ。
あそこの家の人たちにはよくして貰った。正直にいって、ザルゴルの兄さんたちよりもシット家の兄さんたちの方が仲がいいと言えるほどだ。
「ネフィは来ていないですか?」
僕と同い年で仲良くなったガードンさんの一人娘のネフィの姿が見えない。
「……ベルくん」
銀髪の少女が大男の足元から顔を覗かせた。
すごい恥ずかしそうにしているけど、僕らの関係性でそんなよそよそしいのは悲しいな。
「どうしたの?」
回り込もうとしたら、ネフィは隠れてしまった。
「可愛いネフィの姿を見たかったら、私と『間』の押し合いをして貰おうか。一年でどこまで成長したかみてあげよう」
ガードンさんは近接戦闘の最高峰技法の『間』においては世界で一番だ。一年前は山を錯覚させるような圧倒的に重く大きい間に勝ち目を感じなかった。
じゃあ、少し本気を出して――
「待ってくれ。私の負けだ」
「えっ?」
「水溜まりと海を比べる必要はないだろう。たった一年でここまで成長するとは、完敗だ。可愛いネフィを見せてあげよう」
ガードンさんが端に避けた。
隠れる場所を失ったネフィは少し顔を俯かせて、恥ずかしそうしている。
「ベルくん。恥ずかしいよ……」
ああ、なるほど。ネフィはドレスなんて着たことがなくて少し恥ずかしいのか。
いつも、兄さんたちと同じような男っぽい服を着ていたのに急に女性らしい服を着ると恥ずかしさを覚えてしまったんだろう。
「似合っているよ。可愛いね」
正直、よく分からないけど、こういう時はこう言っておけばいいってエヌが言っていた。
「うん……ありがとう」
「ネフィの誕生日は来月だったよね。その時はよろしくね」
「それはネフィと結婚してくれるということでいいか?」
「ベルくんと結婚できるの?」
一年前からガードンさんは僕を婿養子として受け入れたがっていた。まあ、ザルゴルよりもシットの方が住んでて楽しかったけど、婿養子として受けれて貰うにはネフィと結婚しないといけない。
僕らはまだ幼い。ネフィにとって強さを重視するシット家では僕の事がかっこいい男に見えたと思うけど、世界を見てみればいろんな判断基準ができる。
今、結婚を急ぐ必要はない。それにネフィは結婚の意味をそれほど理解していない。せいぜい一緒にいる程度の認識しかない。
「なんなら、婿養子だったり、当主にする話は無しでもいい。もうベルくん以外にうちのかわいいかわいいネフィとの結婚を認められないんだ」
「それは大げさですよ。きっと、もっといい人がいますよ」
「君の意思さえあれば、いつでもネフィは渡してあげよう。それじゃあ、後もいるだろうし、私は戻るとするよ。来月は楽しみにしているよ」
二人が出て行った。
それと立ち替わるように魔導士の女性が入って来た。
魔法師団長のサラサ・シュトルだ。
「やあやあ。ベルクちゃん。帰って来てボクちゃんに挨拶をしないとは何事だい!」
ブロンドカラーの髪を揺らしながら僕に抗議しながら近寄って来た。
「エヌちゃんばっかりずるいぞ。ボクちゃんの事もかまえ。さっさと子どもを寄越せ」
「僕だから許すけど、言っていい事悪い事あるからね」
「ベルクちゃんにしかこんな事言いませーん。はじめてはエヌちゃんにあげるけど、次はボクだからね。あのおばさんと違ってボクちゃんたちは早く老いちゃうから、二十代が終わる前には絶対にやって貰わないと困るもん」
五歳の人間に対して言っている事とは思えない。まあ、サラサに常識を求める方がいけないかもしれないけど。
「じゃあ、また今度、魔力合わせしようね。エヌちゃん。精通したら教えてね。隠し事はなしだぞ」
うん。今後はサラサを出禁にしよう。
エヌは今、僕の隣にはいないけど、護衛としてどこかに隠れている。だから、サラサの言葉は聞こえていたと思うけど、無視していて欲しい。
二部での知り合いはこのぐらいだった。
三部は僕よりも上の貴族。というか王族たちがやって来るらしい。
はっきり言って。一番疲れるだろう。
覚悟を決めて、来賓を受け入れた。
最初に入って来たのは両目に包帯で眼帯を巻いた灰色の髪をした少女だった。当たり前だけど、目を隠していても整った容姿なのは分かる。
年齢はエヌと同じぐらいかな。
「これは、初めまして。ギルケアスのお姫様ですね」
「初めまして」
僕の目は皇女よりも先にその護衛に行っていた。
赤髪の女キトラと魔法師団長でサラサの姉のカトナ。
世界トップクラスの戦闘者である二人が来るとは思いもしなかった。
「とても初対面には見えねぇな。二年前ぐらいに夢とかで出会ったか?」
「こら。キトラくん。ダメでしょ。ごめんなさい。無視してください」
「俺様はこの二年で間を習得した。今戦っても負ける気はしねぇ」
皇女様を無視して護衛が喋るのは少し異様な光景だけど、ギルケアスの権力関係はそうなっているんだろう。王族よりも二人の方が力を持っている。
「本日はお越しいただきありがとうございます。帝国の皇女様にお会いできるとは」
「こちらこそ、魔法陣理論の著者であり、英雄ガルロー・ザルゴルのお孫さんにお会いできると聞いて楽しみにしておりました」
「お褒めに預かり光栄です。確か、皇女様の目は魔眼でしたね」
「はい。洗脳の魔眼と呼ばれていますので、こうして視線を合わせないようにしております」
帝国が魔眼を持つこの人を送って来たということはそういう意図もあるんだろう。
ただ、精神に干渉する系統の魔法については僕はあまり知らない。少し興味がある。
「もし、よろしければ、その魔眼をお見せ頂くことは可能でしょうか?」
「私の方はいいのですが、もしもが起こった時は怖くはないのですか?」
「ええ。大丈夫です」
皇女様が包帯を外して、目を見せてくれた。
水晶のように綺麗な目だ。なんというかこう引き込まれるような感覚になる。
魔法の影響を少しは感じるけど、純粋にそう思った。
「ありがとうございます。すごい綺麗な目ですね」
「……ありがとうございます。この目の影響を受けないみたいですね」
魔法使いには効かないのかカトナは平然としているが、キトラは目を閉じて魔眼を警戒していた。
「皇女サマ。包帯をしろ。俺様が相手をす――」
会話を邪魔されて、少し嫌な気持ちを表に出してしまった。
「おい。悪かった。その間を引っ込めろ」
「ごめん」
微弱ながらも間と魔力が漏れ出ていてしまったみたいだ。
力を戻すと護衛の二人が膝を着いて崩れた。
「こちらの護衛がご迷惑をおかけしたみたいですね。申し訳ございません」
「いえいえ。気になさらないで下さい」
「お詫びになるかは分かりませんが、こちら今度あります建国記念パーティーの招待状です。国賓レベルの扱いをさせて頂きます」
封筒を受け取った。
「ありがとうございます。帰る前に包帯巻きましょうか?」
「ぜひお願いします」
包帯の巻き方は大体分かる。かなりいい布を使っているみたいだけど、常につけているならもっといい物を使う方がいいかもしれない。
今は軽い回復魔法を包帯に付与して疲労を回復しやすくする程度にしておこう。
「今日はありがとうございました。では、またお会いできる日を楽しみにしております」
護衛はともかく、皇女様はいい人そうだった。
よし、この調子で他国の王族とも頑張って応対をしよう。




