希薄な愛情
俺の借火尽鬼をまともに食らって瀕死の氷女。能力で回復しようとしたみたいだが借火尽鬼で焼き切られた傷はそんな簡単に治らない。それにしても切ったときのあの感覚。もしかするとアイツは……。そんなことを考えていると氷女でも淋でもない声が増える。
「美しい名前に似合ったその冷たい態度好きだったのにそんなにボロボロになっちゃって……もう終わりかな。」
氷女のすぐ後ろに現れたそいつは俺が斬り殺したはずのローズゲイトだった。いや、生きてる訳があるはずがねぇ。確かにあの時真っ二つに切り裂いた……待てよ、あのときと今の感覚。もしかすると……。
つーかそもそも何で彼奴が口を開くまで俺はあいつに気付かなかった?最初からあそこにいたとすると常に俺の視界には入っていたはず。能力か?止め処なく湧き上がる疑問に苦しむ俺をよそに、地面に地面に蹲った氷女がそいつを見上げて口を開く。
「ローズゲイト様……私はまだやれます。これも少し油断しただけで……ローズゲイト様のお力を今一度与えて頂けるのならば次こそは……ッ!」
「ローズって呼んでって言ったでしょ。」
縋る思いで手を差し出す氷女を冷たい言葉を吐き捨てる。ローズは手を氷女に向け差出し、その手を握るかと思った次の瞬間そいつの胸を貫いた。
悲痛な呻き声と共に地面に仰向けに倒れる女。死が確定したその体は徐々に解けていくが、俺が攻撃していない箇所が大きく欠損していた。右腕、左手、右胸、左脚、右太腿。そこにはめ込まれていた"何か"が溶け、穴だらけとなった体が地面に転がる。やがて時の瓦礫へと変化したそれをローズが手に取った。
「何やってんだテメェ……。」
眼前で起こった出来事に思わず怒りが声となって漏れる。
「何怒ってるのさ。この子は欲望を満たすためのただの道具だよ?僕の持ち物を僕がどうしたって君には関係ないことさ。
彼女は未壊落者。戦うことを拒む愚かな人間。あれは嫌だこれも嫌だと壊変師団のために何をするわけでもないのにそういう主張だけは口にする……要するに僕が躾けて使ってあげる以外に使い道のない女なんだよ。それに落ちた女の穴の一つや二つ増えたところでどうってことないだろ。」
怒りが手に伝わり借火尽鬼がカタカタと鳴る。それと共にあの二人を切り裂いたときの違和感が脳裏に蘇る。あの女は間違いない…女が持っていた氷の能力、あれは一握の破片。今のやり取りから察するにその原本を持っているのがあの男。
女の方は過剰読込によって三枚以上の一握の破片を取り込んだことによりトレイス体の崩壊が始まっていたんだろう。取り込んだっていうより取り込まされた、っていう方が正しいか?その欠損部分をローズが原本の能力で埋め合わせてたってところか?
卑しい奴の顔を照らすかのように雲に隠れていた月が姿を見せる。こいつは……。奴の後ろには腹から臓物が溢れた既に命が尽きたであろう女が数人転がっていた。ローズは俺の目線に気付いたのか後ろの彼女達を一瞥して振り返りながら口舌を垂れる。
「フフッ、今更気付いたんだね。僕はね、壊変自体にそこまで興味はないんだよ。僕が壊変者として活動をしているのは、この世界なら女の子を好きなだけいたぶれるからやってるだけさ。何か君神経質そうだし、こういうことしてるってバレたら怒りそうだと思ったから、殺したのは元々人権もない惨めで汚らしい娼婦だけだよ。」
こいつは確実に今ここで消さなきゃいけねぇ。理論だとか正暦保全者の使命だとかそういうことは知らねぇが俺の魂がそう叫んでる。
「あれ?なんで怒ってるのさ。もしかして君の知り合いにこういう救いようのない娼婦みたいな女の子のがいたのかな?そんなに熱くならないでよ。持ち物は持ち主に似るなんて言うけど案外本当かもね。
でもさ、僕は自分の身は自分で守るべきだと思うんだよ。女だから守るって?そんなの女に生まれたその子が悪いでしょ?搾取される側に産まれ落ちたのなら命尽きるまでその側の役割を果たすべきだと思うんだよ。」
悪びれる様子もなく淡々と話すローズ。その思考は矯正さえも撥ね退けるほどに歪にねじ曲がっていた。
「お前の論説…いや、謝罪の言葉は聞き飽きた。それがお前なりの"謝罪"なんだろ?ならその思考回路ごと焼き殺してやるよ。"槐裁斬"」
借火尽鬼の刀身は溶け漂う煙が刃の形を形成する。
「クソっ…小さな巨人。」
「学習能力ってモンが無い奴と戦うのはやり甲斐がねぇなぁ。」
敵の肩に立つブリキ人形。そいつの持つ能力は選択した能力の完全無効化。だが残念。俺の借火尽鬼の技、槐裁斬の煙には"纏わりついた物体が持つ効果を打ち消す"力がある。その煙自体には攻撃力は皆無。優劣を無くし平等に裁きを与える審判の刃。
そしてお前の回復能力、色欲色の仮面は発動させる相手の性別により回復量が異なるもの。男のお前は一定以上の傷を治すことは不可能。つまり先と同じこの攻撃でお前は終わりだ。
「男に生まれて残念だったなクソ野郎。」
借火尽鬼から伝わる肉の感覚がこいつは間違いなく本体だと脳に知らせる。奴の肩から腰へ一直線に振り下ろされた借火尽鬼によってその体は真っ二つに切り落とされ憐れに地面へと転がるローズ。
■時の瓦礫の保管箱
【曲名】
旅人E
【創造地点】現位置換算済
正暦分岐点1966.12.02
アメリカ合衆国 オクラホマ州 ブリストル "Phillips 66"
エピソード名 "風と共に"
【所有者】
氷女椿
【効果】
人の形を模した物体に知性を与える能力。基本的には元の姿のまま動くが、特定の人物を頭に浮かべた状態で能力を使用するとその人物と全く同じ容姿と声へ変化する。(知性のみを与えた時よりも多くトレイスを消費する。)想像した人物が時の瓦礫等を有する能力者であったとしてもこの能力によって作られたエラーヒューマンはその能力を使うことは出来ない。自身の考えた言葉を話させることも可能だが追加のトレイスが必要となる。知性を与えたエラーヒューマンが能力使用者を襲うことはない。(敵をイメージして発現させた場合も同様。)
【曲名】
氷の微笑
【創造地点】現位置換算済
正暦分岐点1531.02.24
デンマーク自治領 グリーンランド ケケタリク自治区 "カンガートシャク及び近海"
エピソード名 "消された洞窟"
【所有者】
ローズゲイト・ヴィル・ヴァンデルローイ
【効果】
トレイスを氷へと変化させる能力。取り込む光を屈折させることで色を変化させる事が可能。物体・人体問わず欠損した部分へ収まるように色と形を変化させた氷を充てがうと、次第に本体へ応じた痕跡索へと変化していき、やがてそれらと同質のものとなる。(相互の痕跡索の相性によって同質化にはバラつきがあるが、およそ一週間から二週間ほどかかる。義体を与えられた本体が著しく負傷・破損するとその同質化は解ける。)
【曲名】
招かれざる客
【創造地点】現位置換算済
正暦分岐点 1321.02.09
イタリア ヴェネツィア本島 サン・ポーロ "リアルト橋"
エピソード名 "妖気を孕んだ美女"
【所有者】
ローズゲイト・ヴィル・ヴァンデルローイ
【効果】
着けている間治癒効果が得られるヴェネツィアンマスクを模した半仮面が顔面に具現化される。性別によって治癒能力に差があり、女性が着けた場合は男性が着けた時と比べてその効果が著しく低下する。
■一握の破片の保管箱
【曲名】
色欲色の仮面
【創造地点】現位置換算済
正暦分岐点 1321.02.09
イタリア ヴェネツィア本島 サン・ポーロ "リアルト橋"
エピソード名 "妖気を孕んだ美女"
(原本・招かれざる客より引用)
【所有者】
氷女椿
【効果】
着けている間治癒効果が得られるヴェネツィアンマスクを模した半仮面が顔面に具現化される。性別によって治癒能力に差があり、男性が着けた場合は女性が着けた時と比べてその効果が著しく低下する。
【原本】
曲名・招かれざる客
所有者・ローズゲイト・ヴィル・ヴァンデルローイ
【曲名】
氷天譲土
【創造地点】現位置換算済
正暦分岐点1531.02.24
デンマーク自治領 グリーンランド ケケタリク自治区 "カンガートシャク及び近海"
エピソード名 "消された洞窟"
(原本・氷の微笑より引用)
【所有者】
氷女椿(三枚所持)
【効果】
痕跡索で構成された物体に触れたものを氷結させる効果を付与する能力。付与した対象が大きいほどその効果も上昇する。その効果が発動するポイントは属性付与した対象が何かに触れた時で、そのポイントを遅らせるといったことは不可能。
【原本】
曲名・氷の微笑
所有者・ローズゲイト・ヴィル・ヴァンデルローイ




