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聖女を巡る対話




場所は変わってルドラの執務室…



森から帰ってきた一行は、一旦話し合うためにこの部屋に集まった。



当然だが、席は“別れている”。



ルドラとミランダ側…



ルキアーナを含めた一行…





…いや…



…“聖堂教会”側に分かれ、話し合う場を設けていた。



「…で、早速だが…此度の事について…話をしても構わないな?」



「…はい…」



ルキアーナが答える。



ただし、かなりの警戒して…



別に敵対するつもりもなければ、険悪にすらなる気はない。



ただの話し合いで終わるのならば、何も問題ない…



…だが…“万が一”…その可能性に対して…



ありえるその事態を前に、ルキアーナは穏やかでいる事など出来なかった。



「…さて……どう話を切り出したものかな…」



ルドラは言葉につまる。



ルドラもルキアーナと同様…敵対なんていう事は望んではいない。



出来るなら穏便に済ませたい…



…だが、今回の議題に関してはそうも言ってられなかった。



「…回りくどいのは時間の無駄だからな…結論から言わせてもらおう。こちらとしては、現時点において“精霊の愛子”であるリメラをどこにも明け渡すつもりなど全くない」



「…そうですわね…」



「…本人が行きたいというのであれば構わないと思いはしたが…あの様子だ…穏やかに暮らせる環境がいいと判断している……こういっては悪いが、どんな場所であれ、組織と化した場所に子が安らげる場所はないと考える…そちらとしてはどうだ?」



「…正直なところ、素直に頭を縦に振る事は出来ません……」



ルドラの考えも間違ってはいないと思えるルキアーナだが、彼女にも首を縦に触れない理由があった。



「…精霊の愛子であるからか…」



ルドラがつぶやいたことに対して、答えるように頷いた。



「…はい……完全に見誤っておりました…まさか、あのレベルとは……」



「…ふむ…なら尚更、この地にとどまり、穏やかに暮らす方が良いのではないか?」



「…並の聖女であれば…私もすぐに首を縦に触れました……しかし……」



「…まぁ…あの光景を目にしたからには…危惧する気持ちはわからんではないな…」



どうしたものかと、深いため息を吐くルドラ。



ルドラも、ルキアーナの考えが間違っているとは思ってはいない。



聖女を多く抱える聖堂教会であれば、精霊の愛子相手といえど、能力の使い方に関する基礎を教えることはできるかもしれないと考えているからだ。



そして何よりルキアーナ…神々の代行者と呼ばれる聖女がいる。



認められた相手は違えど、同じ高位の聖女…



どこか通じるところがあるかもしれない…



…だが、だからといってこちらも首を縦に触れないのが現状だ。



「…あの…我が王よ…一体何を見られたのですか?」



そんな中、気になったのかミランダが問いかけてきた。



「ん……そうか、ミランダは見ておらんし……他の者も見えておらなんだったな……」



「…そんなに深刻なものを?」



「…なに、そんな難しい話ではない…簡潔に言えば、精霊の愛子はルキアーナと同様に規格外だ。まだ未完全とはいえ、あの森の一部が聖域となりかけていた」



ただそれだけだと言うが…



ルドラの口から語られたそれは、理解できる者からしたらとんでもない内容だった。



「「「ッ!?」」」



周りから息を呑む声が聞こえる。



未完全ではあるが、現段階で精霊の愛子は聖域を生み出せる。



聖域の価値、生み出す能力の価値…



それらを理解している彼らが息を呑むのは仕方なかった。



それだけ、価値がある事なのだから…



「…ほっ…本当ですかッ…!?」



マーレが信じられないという表情でルドラに問いかける。



「あぁ……さらに言えば、あの場には…俺ですら見たことがないほど…大量の精霊たちがあの場所にいた……怒らせしずに済んで良かったとはまさにこのことだ…」



「…怒らせる?」



「ん?」



はて…とルドラは首を傾げる。



大量の精霊がそこにいるという異常事態……そのことについて、理解が得られると思っていたようだが…マーレの様子から、伝わっていないことが理解できた…



そんなマーレたちに対して、どう伝えたものか…頭を悩ませるルドラ。



「…マーレよ、精霊は世界の理が具現化した存在なのは理解しておるか?」



「…は…はいっ…ですが、一部ですよね?」



「あぁ、一部…されど一部だ……世界の理に分類される以上、その力の大きさはたかが一部であろうと人間が到達できないはるか高みにある……まぁ、彼らは自由気ままに生きておるから、敵対する事は稀だが……だが、過去に精霊を蔑ろにし、滅んだ国がいくつも存在する」



実の所、この話は嘘ではない。



実際に記録に残っている話…



数多くの精霊にまつわる伝承は、どの国にも残っているのだが…



件の国においては、愚かの一言でしか語れない指導者しか存在しなかったようだ。



だが、この話の恐ろしいところは、他にある。



「…しかも、その時怒らせたのは10体程度だという話だが……もしそれが本当だとして……先程の森には100を超える精霊たちが集まっていた…この意味がわかるな?」



「ひゃッッ!?」



マーレの表情が驚きで染まる。



まさか、国が10体程度の精霊で滅んだとは思わなかったようだ。



周りの者達もざわめき出す。



中には違和感を感じていた者もいたようだが…



聖女であるルキアーナや精霊と契約しているルドラに比べれば小さな違和感でしかなかったのだ。



「…もしそうならっ…あの場所がそんな危険ッ…危険などでは表せないくらいのッ…!?」



「…あの小さな女の子にそれだけの力がっ……」



「…なるほど…精霊の愛子の存在があやふやにしか残っていなかったのはその力を危惧してか……」



マーレの驚きをきっかけに従者たちが騒ぎ出す。



それ程までに、精霊の愛子の存在に対して驚かされたのはいうまでもない…



ある意味、精霊の愛子の願いひとつで精霊たちが敵対するのであれば脅威と見るのは当然と言えるだろう。



「…ようやく理解できたようだな…俺としては下手に刺激し、暴走させるようなことにはしたくはない…未だにあの子が味わった傷は癒えていないのだからな…」



「…ですが、もしもの事態…そうならないのが1番ですが…もし、そうなった場合を考えますと…」



「うむ…だが、あの子は精霊達と共におることで安定しておる…そこを無理に崩すのは危なかろう…」



「…」



「…ルキアーナよ、そちらの立場や考えは理解できるが…この場は受け入れてもらいたい…駄目か?」



「……はぁ……その聞き方は昔から変わりませんね…私が断れないのを知っているくせに…」



「…ふっ…本当に駄目ならお前が頷かないことも知っておるわ」



「…マーレ、文を書きますのでこの後用意を」



「はっはい!」



「…すまんな…」



「いえ…ですが、危険な状態であるのは変わりません…ただしばらく、私を含めた数人は滞在させていただきますから」



「…いや、こちらとしては構わんが…良いのか?。聖堂教会のトップが…」



「トップと言われましても、私はあくまで聖女…組織の方針に対して多少の口添えはすれど、舵取りをしているわけではありませんから…長い故郷帰りとでも思っていただければ………それに、こんなチャンス滅多にありませんし…」



「…ん…最後何か言ったか?」



「いえ、何でもありませんわ」



とだけいうと、ルキアーナは振り返り従者達を見る。



「…ごめんなさいね、皆さん…せっかく共をしてくださったのに…」



「いえ、おきになさらず…我々も危うい…しかも子供を無理に連れて行こうなど考えてはおりません……ルキアーナ様のご判断に敬意を持って従わせていただきます」



他の従者達も同じなようで、皆頷いていた。



「…ありがとうございます」



「いえ……残る者は腕が立つ者と世話が出来る者…あとは愛玩っ…んんッ……ルキアーナ様お気に入りのマーレで対応させていただきます」



「…皆さん…ん…あれ…今私のこと愛玩って」



「済まぬな、ルキアーナの従者達よ。せめてもの謝罪として、上手い料理を用意しよう」



「「「おぉぉぉッ…!!」」」



「ちょっ無視しないでくださぃぃぃぃ〜!!」



と和やかな雰囲気で事が進む…



ルドラとルキアーナが警戒していた事態にならず安心しているようだ。












だが、この文が…



いや、文だけでは足りなかったと…



この時は誰も考えていなかった。

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