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俺が指輪の物語(仮  作者: トム麻呂
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40話 聖剣と指輪、ついでに聖斧 前編




 レンゼリアの精神世界、ここは居心地が良い。常に美しく整えられた屋敷に、広くて気持ちの良い風が吹く庭、食べても飲んでもいつのまにか補充される食べ物。


 外じゃ自分で移動すら出来ない俺が、転生前の身体を持って自由に動ける空間。 

 飲み食い出来て、居眠りも出来て、指輪になる前と殆ど同じ生活が出来てしまう。


 そう、此処は居心地が良すぎるんだ。









「さて、エミリアも寝た事だし、今夜はゆっくりと話をしようか。ほら、中に入れてくれ。」


「う、うん…。」


 あれからエミリアは陽が落ちて訓練場が夕暮れの紅に染まるまで、魔力盾とリーネリアに枯渇ギリギリまで魔力を絞られた。

 魔力不足でフラフラする身体を引きずって、簡単な夕食と身支度を終えた後、ベッドに倒れ込み即堕ちした。

 それを確認してからレンゼリアの精神世界に入る事にしたのだが…。


 光に包まれている内に体に圧迫感を覚える。光が収まって目を開けるとレンに抱きつかれていた。


 精神世界に入った時、立っている場所はいつも違うが、光に包まれて目が慣れると必ずレンが目の前に居る。正確な所は分からないが、おそらくレンの居る場所に出るんだろう。今日は屋敷の前だった。


 俺の胸元に顔をグリグリと押し付けながら動揺した様子で。


「あ、あのね?リョウ、まだだよ?勝手に鑑定しないでね?…まだしてないよね?ね?」


 妙にしおらしいと言うかモジモジしてると言うか。


「私の全部を見せるのは良いんだけど、私にも心の準備がね?ほら、だから、あの……少し待ってて、準備してくるから。まだ鑑定しちゃダメだからね!」


 顔を真っ赤にして、まるで昔初めて体を重ねた後…いや止めておこう、兎に角。

 いつもと違う事は明らかだった。


「私の部屋で座って待ってて!」


 言うが否やバタンと屋敷の扉を壊さんばかりの勢いで開き、中へ走り去ってしまった。 

 俺もレンも精神体はいつも同じ格好だろうに、一体何を準備するのやら。


 レンゼリアの精神世界は外と時間の流れが違う、今は…昼過ぎ位かな。

 見上げると外ほど強くない太陽と雲一つない青空が広がっていた。

 話が終わったら少し外で昼寝するのも悪く無い、後でレンを誘ってみるか。


 勝手知ったる屋敷…とまではいかないが、目ぼしい食品の在り処や、どの部屋に何があるのか程度には知った空間である。

 

 キッチンへ向かい、火に掛かっている訳でもないのにいつでも暖かい湯を湛えるケトルから、いつもレンと紅茶を飲むティーセットのポットへ湯を移す。

 レンは紅茶を淹れるのが…紅茶を淹れるのだけは上手いが、俺は分量や湯の量に疎い。

適当に茶葉を突っ込み、ポットとカップのセットをトレイに載せた。

 保冷庫を無遠慮に開け、つまみになるものを探す。手を加えなくても食べられる物は果物の類いや加工肉があったが、今日は特にコレといったものが思いつかず、一頻り眺めただけで保冷庫の扉を閉めた。


 湯の入れ過ぎで少し重いトレイを支えながら階段を上がる。

 登り掛け、二階にあるレンの部屋に目が向くと扉が少し開いていた。両手が塞がっているから助かるが、もう部屋で待ってるのか?


「おーい、居るのかレン。入るぞ?」


 隙間に爪先をねじ込んで足で扉を開ける。いつもレンと寛いでいる部屋に入ると室内を見回した。…居ないのか。

 いや…ベッドの上でモゾモゾと蠢く白い物体に気がついた。


「あぁニール。お前か、元気してるか?」


 グレイプニールの精神体が外をウロついていたのは知っているが、屋敷の中まで自由なのか。

 ワフンと返事をしたのか一声上げてストンとベッドから降り、こちらへトテトテと近づいて来た。


 ボゥっとワンコが白い光に包まれた、すぐに光は大きくなり、白いワンピース姿の銀髪犬耳っ子が現れた。

 歩みを止めず歩きながら人形になったグレイプニールはそのまま…あの、グレイプニールさん?

 するりと胸の前に持ったトレイの下へ入り込まれ、そのまま顔を押し付けられた。シャツの脇の部分を両手で握られる。


「久しいな遠野、丁度会いたいと思っておったぞ。……む、聖剣の匂いが濃いな。遠野よ、何故私に先に逢いに来ない?」


「えーっと、ニール?お前こんなデレキャラだったっけ?」


「デレとはなんだ?遠野。…私はお前が気に入っている。それだけだ。」


「それと、何で人形になった?」


 シャツを握った手を離し、トレイの脇からヒョイと顔を出したグレイプニール、犬耳と尻尾がパタパタと揺れる。

 キョトンとした顔でこちらを見上げた。


「何を言う。遠野よ、以前私がこの形態になった時に好ましく思ったのであろう?心音も高まったし、雄が欲情した時の匂いが「違う!断じて違うからな!いきなり可愛いくなったから驚いただけだからな!」…ふむ、まぁ良い。とにかく悪く無いのだろう?私もその様に思われていた方が心地良い。」


 テーブルにトレイを置き、ニールを改めて眺める。ニールは無表情だが犬耳と尻尾が忙しなくパタパタしている。

 ニールと暫く見つめあっていると、無表情だった瞳に少しずつ苛立ちが混ざり始めた。


「………遠野よ、気がきかんな。それとも私を焦らしておるのか?」


 ???、首を傾げる。

 交差していた視線をニールが俯いて切った。フワリと銀髪が揺れ、犬耳の先が此方を向いた。


「………遠野よ。「はい?」……早く撫でよ!「お、おう!」」


 言われるままにワシャワシャとニールの頭を撫でる、俯いたニールがだんだん真っ赤になっていくのが分かったが…黙っていよう。

 一頻り撫でているとニールが光に包まれ、頭に撫でる手がスッと空を切る。

 足元に子犬形態のニールがちょこんと座っていた、ワフと小さく吠えてベッドへと戻っていった、満足したのかな。


 少し濃すぎた紅茶をカップに注いで自分の手前と向かいの席に置いた。腰を下ろそうとした時、砂糖やミルクを忘れてしまっている事に気付いた。

 面倒だが仕方ない、キッチンへ戻ろうとドアへ歩き出したところでそのドアがゆっくりと開いた。


「お、お待たせ。…あ、あぁ!紅茶を入れてくれたのか、あ、ありがとうリョウ!」


 不自然なほど動揺しながらツカツカと向かいの席に座り、淹れたての濃いストレートティを一息に飲み干した。


 俯いて溜息と見紛うほど長い息を吐いたレンから、〝よし″と胸に手を当てながら呟いた。

 まだ立っていた俺を静かに見上げて、潤んだ透き通る青い瞳を向けると、少し震えた声で囁いた。


「……リョウ……良いよ、私の全てを…見て?」


 …鑑定って…インテリジェンスウェポンにとってはこんなに重大なものなんだろうか。







 空になったレンゼリアのカップにもう一度紅茶を注いでから俺は向かいに座った。

 座った直後、いつのまにか近づいて来ていたニールが俺の膝に飛び乗った。クァと欠伸をして、猫の様にそのまま丸くなった。


「レン…?今日は一体どうした?いつもと様子が違うが…」


「だ、だって…鑑定…、私の全部…何もかもをリョウに見せるんだよ?き、緊張…するから。…もしかしたら嫌われちゃうかも…しれないし…」


「何を今更、お前の能力なんて200年前に聞いたのを今でも覚えてるよ。俺の鑑定でレンのステータスの説明部分をさらに深く鑑定させて欲しいだけ「ち、違う!そうじゃなくて!」そうだ、200年前で思い出した。」


「え?」


 濃い紅茶を一口含む、苦いが葉が良いんだろう、美味い。ストレートも悪くないか。


「大戦の後、俺がデクスと大森林に向かう前夜に喧嘩別れしたろ?アレをずっと謝りたいと思っていたんだ…。」


「…あの時か、私はリョウが何で怒ったのか今でも分からない。リョウが最後に言った言葉…覚えてる?〝結局、お前と俺は根本的に違うモノだったって事だ″だったかな。おかげで200年間会いに行くにも行けず…」


「すまなかった、酷い事を言ったとずっと後悔していた。レンゼリア、許して欲しい。」


 頭を下げ終わる前にテーブルが揺れ、カップがカチャンと音を立てた。

 テーブルに両手をついて身を乗り出したレンが上ずった声で答える。


「い、良いのリョウ。時間はかかったけど、また会いに…私に会いに来てくれたから…。ほら、今日は私を鑑定…するんでしょ?顔あげて?」


「あぁ…ありがとう、レン。俺は…最後の戦いから帰ったレンと話しながら…少しだけレンが怖くなっていたんだ。「怖く?」」


 顔を上げて、少し冷めてしまった紅茶をまた一口含んだ。


「覚えてるか?レンゼリア、あの戦いの末期、上位魔人と戦う度にボロボロになっていく勇者王の傍らで…お前も欠けたり、ヒビが入ったり、同じ様に傷つきながら話してた言葉が…ずっと引っかかってな。」


「……覚えてない。何て言ってた?」


「いや、良いんだ。お前の能力が凄いのは知ってる。だが、エミリアがそれを使う事は無い、させない。レンゼリア、お前もあの子の命を使う能力解放迄は絶対に使わせないでくれ。」


 〝私は刻を置けば修復されるから気にするな、だがあの装者はもう長く無い、だから最後までやらせてやれ″


「あ…うん…。」


「レンゼリア、お前の事は信頼してる。エミリアに無理をさせたり、その命を徒らに使わせるなんて事は無いって確信してる」


 〝私の能力はそういうものだ。死んでも装者の敵を殺す、全てと引き換えに勝利を齎す聖剣、それが私だ″


「……。」


「あの同調だっけ?アレはエミリアにピッタリだと思う、俺は出来るだけあの子に負担を掛けたく無いんだ。レンゼリアの魔力を沢山使っちまうのは…すまないがな。」


「リョウ…あの…」


 〝私が存在する限りヤツはあのままだ、殺せてはいないが生きてもいない、装者が最後の命を戦いに捧げていたなら…殺せていたかもしれんがな″


「レンゼリア、お前は凄い剣だよ。だが…多分、ヒトだった俺とは考え方の根っこが違うんだと思っちまった。それがいつしか恐怖になったんだろうな。」


「いや…ちが…。」


 〝さて、残党狩りが終わればまた退屈が始まるな。……ねぇリョウ、もしまた別の世界に召喚されて戦う事になっても、永遠に…リョウはずっと私の側にいてくれるよね?″


「だけどもうそれも無い、レンゼリアはちゃんと約束を守ってくれてる。多少デメリットもあるんだろうが、それは鑑定で確認してから俺がエミリアと対策するよ。…長々と一人で喋ってて悪い、改めて感謝するよ、聖剣レンゼリ「二人の時はレンって呼んで!」あ…あぁ、そうだったな、レン。」


「ご、ごめんリョウ。おっきな声…出しちゃって。」


 お互い俯いてしまう、やり場の無い沈黙が流れる。


「お、おう!こっちこそゴメンな!…変な雰囲気になっちまったけど、レン、そろそろ鑑定を…「ダメ!ちょっと待って!」」


「ダメ!準備し忘れた事を思い出したの!もう少し待ってて!」


 ガタンと椅子を倒さんばかりの勢いでレンゼリアが立ち上がる、俯いたまま両手を突き出して、まだ鑑定しちゃダメだからと連呼する。ドアに向かって駆け出すレンゼリアと一瞬目が合った。

 …瞳に光るものが見えた気がした…まさかな。


 ドアにぶつかるように押し開けて、バタバタと遠ざかる音だけが聞こえてくる。

 さっきから膝に乗っているニールに目を落としてなんだったんだろうなと呟いたが、ワンコは俺を一瞥するとまた欠伸をして丸まってしまった。





 丸くなったニールを緩々と撫でながら、湯気の立たなくなった紅茶を啜る。ふと窓を眺めると、あれほど晴れていた空に薄い雲がかかり、陽の光が翳りを見せ始めていた。



 どれほど待ったか、ノックと共に音も無くドアが開いた。


「お待たせ。」


 さっき焦って出て行った態度は何処へやら、まるで別人の様に落ち着いたレンゼリアがツカツカと俺の傍らへ歩み寄る。

 座ったままの俺の隣まで来ると、小さく両手を広げて微笑んだ。


「いいよリョウ。ほら、鑑定して。」


「…どうした?何か怒らせる様な事でも言ったか?」


「ううん、リョウは何も。大丈夫だから、ほら早く。」


 …多少の引っ掛かりを覚えながらも、意識をレンに集中させる、【鑑定】

 初めて会った時から今まで、話に聞いてはいたが、いまいち全貌の掴めなかったレンの能力が目の前に羅列されていった。




◇聖剣レンゼリア◇

装備分類:長剣・インテリジェンスソード

攻撃力:0〜∞

魔力値:550

アビリティ:鑑定

魔力変化 雷

浮遊

攻撃力変化+1〜4 魔力

魔力変換 体力

魔力変換 生命力

肉体増強+1〜4 魔力

魔力成長強化+3

同調

擬似精神空間


パッシブ:戦意高揚+1〜3

      自動修復


◇説明◇

創造神が作り出した十三神剣の一振り、使い手の魔力に呼応し強大な力を授ける神聖なる剣。その刀身は祝福された神銀を神がその手で鍛え上げた。雷を司り十三神剣の頂きに位置する。

加筆しました。

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