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俺が指輪の物語(仮  作者: トム麻呂
38/45

38話 本日のまとめ





 マキナウス邸、地下ワインセラー。その奥に小さな隠し部屋がある事を知っている者は少ない。

 簡素なテーブルと数脚の椅子、飾り気の無い棚にはいくつもの背負い袋が置かれている。更にその部屋の奥の壁には人一人が漸く通り抜けられるほどの小さな扉があった。

 初代領主が作り上げたマキナウス領フィナレの街、そこから遠く遠く離れた小さな洞窟に繋がる長い長い地下道…。


 ……は、今は特に関係無く。


 その小部屋には4人分の影が蝋燭の炎の揺らめきに合わせる様にチラチラと揺れていた。


「あの…トーノ様、この集まりは別に上の談話室でも良かったのでは?」


(いや、出来ればレンゼリアとエミリアには聞かれない方がいいからな。で、その二人はどうしてる?)


 影の一人がテーブルの上に広げた手には炎を反射して怪しく光る指輪。…まぁこういった事は気分も大事だし、本当のところレンゼリアに聞かれるとまた面倒を言われる可能性が高い、そもそもこの家の兄妹達はこの部屋の存在をまだ知らないから心配はないんだがな。


「本日の訓練でお疲れになったご様子、食事の後に直ぐお休みになられました。レンゼリア様はエミリア様のお部屋に、ご自分で扉をお開けにはなれませんから問題ありません。」


(扉を破壊してはこないか?)


「部屋を出る際、昼間に屋敷を壊した件の修理費見積もりを言い含めておきましたので…恐らく問題無いかと。」


 影の一つが小さく溜息をついた。これは本気の溜息だな。壁の傷はかなり深かったそうで、早速明日から修理が始まるらしい。


(ベル、エミリアの兄貴の様子は?)


「え?もうベッドからは起き上がってるよ、まだ身体は痛いみたいだけどね。倒れたけど魔力も完全に枯渇した訳じゃないんだよね?ロクサル先生。」


「うむ、殆ど空っぽになる寸前だったみたいだがの。翌日には意識もはっきりしておった様じゃし、魔力が完全に枯渇すると数日は目が覚めんからの。」


 テーブルに置かれた菓子とお茶を摘みながら残りの二つの影が答えた。


(よし、なら俺から報告しようかな。ロクサル爺さんのツテで協力者の目処は立った。報酬については…その時でいいか。森に入る手続きとか後処理なんかの諸々はそいつが手配してくれる事になってる。レッセン、今日の訓練だが…俺が居ないからってあの聖剣は無茶しなかっただろうな?)


 エナが用意したお茶を一口啜り、執事がまた一つ溜息をついた。

 エナの手からヒョイと俺を摘み上げて眼前に持ち上げる。エナさんがあっと小さく声を上げた。


「貴方に言われた通り、剣に魔力を通させる様子があればお諌めするつもりでしたが…特にそんな素振りはありませんでしたな。ですが、あの同調…とか言うのはなんですかな?レンゼリア様からは『ご自分の魔力を使ってお嬢様の動きを補助する』と伺いましたが。」


 指に力を込めるな執事。それに聞き慣れない単語が出てきたな。


(同調?……なんだそれ?アイツ何やった?簡単に言うとレンゼリア自身の魔力で剣の切れ味を上げるのが第一、装者の魔力をレンゼリアに注ぎ込んで装者自身の能力を高めるのが第二解放っつーんだが。)


 言い終わる前にギリと俺を摘む手に力が篭る、先日の話し合い前に見せた鋭い眼光が蝋燭の炎に赤く反射する。


「トーノ殿、貴方も!ご存知だから!!安心しろと!!!あの方は仰られたのですが!?」


 摘んだ指が震える程に力が篭る、この執事最近容赦も遠慮も無くなってきたな。…その程度では何とも無いこの身がある意味で申し訳ないが。


「レッセンさん!トーノ様が歪んでしまわれます!手を離して下さい!」


「血を用いて互いの精神に橋を渡す儀式の様なものと、貴方もご存知で勇者王様も行った事だと伺ったので私も勧めたのですが…トーノ殿?」


 エナさんがいつの間にかガッツリと握り締められていたレッセンの拳から強引に俺を確保して、慌てて歪みが無いか炎に翳す。ベルが案外丈夫なんだねーと菓子を食べながら軽口を叩く。


(…勇者王がレンゼリアの正式な装者になった瞬間には立ち会って無いからな。最初に選ばれたのは見てたが、その後は暫く別行動してたから分からん。…その同調…についてはまた問いただしておく。)


「直ちにお嬢様に何かある訳では無いのですな?」


(…勇者王が倒れる直接の原因になったのは、レンゼリアの第三解放以降を頻繁に使いだしたからだ、それは騎士団の主力部隊内では周知の事実だったし、解放初期の頃は特に問題無かった…筈だ。)


 ロクサルが手に持っていたお茶をトンと置いてテーブルに身を乗り出した。


「そこよ、お主が聖剣について知っておる事を今のうちに全部話しておくのが必要じゃとワシは思うんじゃがな?皆がよく知らぬでは対処の仕様がないぞい。王家の聖剣じゃ、秘匿したい事の一つや二つはあるじゃろうがな。」


「うわ、お姉ちゃん。コレってあたし達が聞いてもいいのかな?王家に暗殺されちゃったりしない?」


「ベル、静かになさい。聞きたく無いなら出ててもいいから。」


 ベルがむぅと唸りながらエナの横へガタガタと椅子ごと移動する、姉の腕にしがみついてるところを見ると、出て行く気は無い様だ。

 

「まぁ、この間触りの部分は聞いちゃってるから今更よね。命を使うとか吸うとか物騒な事言ってたの、お嬢様に使わせてて本当に大丈夫なの?」


「ロクサル殿の言う通り、以前なら歴史的な興味で済んだ話ですが、今はお嬢様の身命に関わる事。先日は時間も無く詳しくは伺えませんでしたが…トーノ殿、ご存知の事を全て、とは申しませんがお嬢様を思う気持ちがおありでしたら是非。」


「それとな、お主の事も教えて貰うぞ?」


(は?俺?)


 今度はロクサルが俺を摘み上げようと手を伸ばしたが、察したエナさんに阻まれて苦笑いを浮かべる。


「お主、自分の価値が分かっておらん様じゃからな。お主は意思を持ち異世界の知識を有する伝説の魔具で、無詠唱で魔術を放ち、おまけに通常操る事の出来ぬ回復魔術まで使いおる。相対する敵は装者に加えて、姿の見えぬ手練れの魔術師を同時に相手にする様なものよ。」


 ロクサルの言に続く様にレッセンもテーブルに身を乗り出した。


「トーノ殿を身につけた戦士は恐らく近接戦においては無敵と言っても過言ではないでしょう。何しろ切り合いをしている最中に無詠唱の攻撃魔術を使われれば対処の仕様がありませんし、即死さえしなければかなりの重症も回復してしまえるのですからな。」


 ベルが姉に抱きつきながら反則だよねーと呟いて窘められている。

 はぁ…200年前とは扱いが雲泥だな。だけどな…


(魔力弾。)


 先程伸ばした腕の行きどころを無くし、そのままテーブルに片肘をついていたロクサル目掛けて意識を集中させた。

 デコピン程度、極小威力をイメージした魔力弾を放つ。いや、放とうとした。


『レベル権限エラー、対象の生命力が減少する可能性があります。プロセスは却下されました。』


 魔力光を作り出す方法と全く同じ、現象をイメージして魔力を意識、そして声…いや、念話と共にそれを解き放つ。が…それは形にはならず、システムの声…通称シス子の声が静かに聞こえた。


(ロクサル、レッセン、ベルでもエナさんでもいい、今の聞こえたか?)


「何がじゃ?」

「ベルが反則だと呟いた事ですかな?確かに貴方は反則のような…」

「アンタ、なんでお姉ちゃんだけさん付けなのよ?」

「あの、トーノ様?今の…とは?」


 先日リリィと面会した後、ロクサルとリリィの3人…2人と1つで色々と相談中、余りにもリリィが俺を阿呆指輪や馬鹿指輪呼ばわりするので、さっきの極小威力魔力弾を額にぶつけてやろうとした時、同じ様にシス子の声が聞こえてきた訳だが。

 やはり周りの者には聞こえてないみたいだな。


(レンゼリアの能力については俺の独断ではちょっとな。同調…だったか?それと合わせてあいつに確認してから話す事にするよ。今のところ魔力の通し方を間違わなけりゃ兄貴みたいにはならないと思うしな。)


「ならばお主の事はここで皆に話しても?」


(ああ、それは構わない。大して面白くも無いと思うからな。)


 それを聞いたエナさんがテーブルを素早く片付け、俺をその真ん中にコトリと置いた。

 4人の期待に満ちた目が俺に注がれる。


(ステータス。別に言わなくても良いんだが、まぁお約束だな。)


「アンタ何言ってんの?(気にするな。)」


◇異世界の指輪◇

装備分類:リング

成長度:1

防御力:0

魔力値:6

アビリティ:筋力増強+1

サイズ調整

アクティブ:鑑定

パッシブ :魔力自在化

視覚自在化

思考制御

魔術制限(成長度)new


◇説明◇

詳細不明の金属で出来た指輪。




(まず、サイズ調整と筋力強化な。「それは存じ上げております。」おう焦るな、あと視覚の自在化。それと…「ちょっと待って、そういえばアンタの見え方ってどうなってんの?」ん?どういう意味だ?)


 俺が答えきる前にベルが俺を摘み上げた、と思ったら握り込んで上下に激しく振り始める。何をやってるんだこの娘は。


「どーよ?酔ってきたんじゃない?」


(やめ!やめてくれー!…なんて言うと思ったか?おかしな話だが、視界は指輪を中心に数メートル範囲で向きも高さも自由なんだ。だから俺は自分の姿を見下ろす事も出来てる。ベルが無意味に腕を振ってるのもな。)


 ピタリと止まってつまらなそうな顔を向けると、テーブルの中央に俺を放り投げた。

 エナさんが慌てて転がり回る俺を手に取り、真ん中に置き直すとベルの手を抓りあげている。ざまぁ。


(後は鑑定と魔術!以上!先に言っておくが、俺は人に害が及ぶ魔術は使えんからそのつもりでな。)


 最後まで言い終わる前にレッセンとロクサルが前のめりに詰め寄ってきた。二人同時に拳を机に叩きつけて更に顔を寄せてくる。


「そ、こ、が一番詳細が必要じゃと言うとるに!」

「…鑑定?いや、それよりもトーノ殿は攻撃魔術が使えない、という事ですかな?」


(おう。ちなみに魔術制限ってスキルだ。恐れ入ったか。)


 暫く見つめられていたが、これまた二人同時にスッと椅子に体をもどした。

 ロクサルは腕をくみ虚空を見上げ、レッセンは俯き先程よりも大きな溜息をついた後、同じタイミングで目線だけこちらに向けた。


「………まぁ、異世界の知識は得難いものじゃからな…。」

「………無敵とは程遠いですが、まぁ回復魔術は代え難いものですし…。」


 二人が言い終わった直後にベルが吹き出した。


「あははは!接近戦では、むて、無敵の戦士に!あははははは!お腹いたーい!」

「トーノ様の価値はその様な事では決まりません!…ベル!あなたトーノ様に失礼でしょう!」


 お前ら…ベルさん以外は怪我しても知らんからな。

 男二人はジト目を止めず、ベルはエナさんに怒られながら腹を抑えて苦しげに震えている。


(あのなぁお前ら、異世界に来る奴全員が漏れなく強くて万能ってそんな美味い話ある訳ないだろうが。200年間の残念アイテム歴舐めんなよ。)


 ブッと声を抑えきれずに吹き出して、また腹を抱えて笑い出したベルは置いておいて、3人の6つの目が俺に注がれる。


(まぁ今はこの程度だが、この先があるなら少しは使える様になるだろ。まだ成長度1だしな。明日からはエミリアの訓練に俺も参加するぞ、リリィの手配が済んだら次は大森林でレベリングだから急がないとな。)


「ふむ、私との約束を違えませんようお願いしますぞ、トーノ殿。」

「リリィか。あやつでも数日は掛かるじゃろうが…それまでにあの聖剣殿を御せるかのぉ。」

「危ない事はお止めくださいね?トーノ様。」


 俺だってどうなるか分からないが、とりあえずエミリアとこいつら家族を守れる存在に早くならなきゃな。




 ベルの笑い声がいつまでも地下室に響く中、マキナウス邸の夜は更けていった。

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