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俺が指輪の物語(仮  作者: トム麻呂
32/45

32話 お話の裏側




 抱えたレンゼリア様がカタカタと揺れている、リョウとレンゼリア様はたまーに凄くぶっきらぼうなやりとりをしてるけど、それは仲が良いって事なんだよね?


(私を追い出して何を話すつもりだリョウ、お前が何を考えているか相談するんじゃないのか?)


 エナにも促されて渋々と退出する、みんなニコニコしてるけど…なんだろう、少しだけピリピリする。


「王都の騎士様がいらしてますから難しいお話をなさるんでしょう、終わり次第夕食にしますのでトーノ様の仰る通りレンゼリア様にお屋敷をご案内をして差し上げたら宜しいかと。」



 パタンと扉が閉まり、二人と一振りが追い出された。抱えた聖剣は相変わらず小刻みに震え続けている…勇者王様はレンゼリア様を扱う時にどうしてたんだろう、こんなに動かれててまともに振れたんだろうか。


(リョウは昔っからああなんだ、会議とか相談とか、すぐ私を除け者にしようとする。)


 レンゼリア様、あまり揺れないで下さい、落としちゃう。うーん…屋敷の案内って言われてもなぁ…私の部屋に行っても仕方ないし…食堂で待ってるっていうのも…。


 廊下に立ち止まってどうしたものかとうんうん唸っていたら、スイッとレンゼリア様が浮かび上がった。


(エミリアよ、この家の者はあそこに居たのが全てか?兄の姿は見えなかったが。)


 私が答えるよりも早くエナが返答する。


「エミリアお嬢様の姉にあたるクラリスお嬢様と、ロクサルさんの奥様のローズさんという方が居られます。クラリス様とディクス様は別室にいらっしゃると思います。」


 そうだ、ディクス兄様が一緒に帰って来てたのをすっかり忘れてた。王都からの帰り道も任務中だって言ってロクに会話すらしてなかったから…頭から抜けちゃってたな。今なら少しはゆっくり出来てると思うけど…。


(ふむ、暫く世話になる訳だし、家人には早めに挨拶しておくべきだろう。エミリアも兄と話す機会が無かった事だしな。二人とも、案内して貰えるか?)


 それはいいんだけど…、日が落ちかけて暗くなり始めてる廊下を二人でトコトコと歩きながら気になった事を聞いてみる。目の前のフヨフヨと浮かびながら私たちと並行するレンゼリア様に手を当てる。


「あの…レンゼリア様?ご自分で動けるなら、私が抱える意味ってあるんでしょうか…?」


 私達を先導する様に歩いていたエナがパッと振り返る。


「あの、失礼ですが、私も同じ事を考えていました。デラク様も道中大変な思いをされていましたし、先程からお嬢様が持ち辛そうにされていましたし…。」


 そうだな、と念話が来た後に、浮かんでいたレンゼリア様がゆっくりと私の手元に寄って来て、そのまま手の中に収まる。


(良い質問だ、私はある程度自分の意思で動く事が出来る。動くだけではないぞ?それなりに色々出来るのだが…)


 内緒にしておくように、と前置きして私の手の中でクルクルと回転する…ちょっとグリップの所の摩擦で熱いんですけど…。


(聖剣と言っても魔力が枯渇すれば只の金属剣よ、コレは内包する魔力を使って動いているに過ぎん、普段は消費を抑えるのに大人しくしておるがな。魔力を秘めた武器を扱った事は?)


「秘めた?魔力を通すんじゃなくて?」


(ふむ。魔具の類いについては知っておるのだな。そもそも魔力を内包するモノと、魔力を通すだけのモノの違いとはな、どちらも魔力感応性のある素材である事は同じで…)


 長そうな話になってきたなぁ…もうお兄様とお姉様の居る部屋の前なんだけど…エナも困り顔になってきてるし…。

 説明が始まった所で部屋のドアがカチャリと音を立てた。


「あらあらぁ、外から声がすると思ったらエミリアじゃない、どうしたの?もうお話は終わったの?」


 助かった。…って言うのは失礼かな?部屋から顔を出したお姉様にレンゼリア様を掲げて見せた。


「レンゼリア様に家を案内してあげてって言われたんだけど、まずは家族に挨拶されたいって。お兄様もいらっしゃるんでしょ?」


 部屋の中からガチャンバタンと大きな音が響いた、お姉様が勢い良く引っ込んで大きくドアが開く。直立姿勢のお兄様が居た。


「レ、レンゼリア様!妹達が失礼致しました!ご無礼誠に申し訳(あー、良い良い、気にするな。とりあえず部屋に入っても良いか?)はっ!て、手狭で恐縮ですがどうぞ!」


 先ほどの部屋を少し小さくした様な談話室に入る、ソファーとテーブルがあるのだけど…テーブルの上のカップが倒れて飲み物が…、さっきの音はコレね。

 促されてレンゼリア様を抱えたまま座る、お兄様は対面に立ったまま、お姉様はその隣に座った。エナがテーブルの片付けを始める。


(楽にして良いぞ?エミリアの兄よ、ディクス…と言ったか?)


「い、いえ!我が家とは言え今は護衛の任務中、このままで大丈夫です!」


「あらあらぁ、さっきまで緊張して大変だって零してたのはどなたでしたっけ?」


 クスクスと笑いながらテーブルのカップを手元に引き寄せるお姉様、睨まれてますよ、お兄様に。


「申し遅れました聖剣様、私エミリアの姉でクラリスと申します。事の次第はまだ詳しく存じ上げませんが、妹を宜しくお願い致しますわぁ。」


 笑顔で会釈するお姉様に、馴れ馴れしいぞ、とか、敬意が足らないぞ、とか小声で言うのはやめましょうお兄様。


(ふむ、お主らの兄は些か真面目過ぎるな、ゼーリカ位で丁度良いのだが。まぁ良い、暫くこの屋敷に厄介になる、我の事はレンゼリアと呼んでくれ。エミリアを装者として少しの間共に在ろうと思う。)


「恐れながら、その事で(ディクスよ、そろそろ腰を下ろすが良い、その様に張り詰めておっては妹達も寛げまい。お主の実直さは王都に帰った後に国王へ伝えておこう。)……はっ、それでは失礼します。」


 お兄様がソファーに座ったのを見計らってエナが新しいお茶を入れてくれた。

 全員の前に新しいカップが置かれた所でお姉様がポンと手を打つ。


「それじゃぁ、エミリアの旅のお話を聞かせて貰おうかしらぁ。お兄様の王都でのお仕事もついでにね。」


 ついでにとはなんだとお兄様が不機嫌になっているけど、やっぱり家が落ち着くなぁ…そんなに長い間留守にしてた訳じゃないけど、兄弟姉妹3人揃うのは珍しいから嬉しく思う。

 夕飯までに終わるかな、数日の旅だったけど色々あったんだから。













「ーーー大丈夫なの?エナ、そんなに酷い怪我だったなんて…」


「レッセンが居ながらウルフなんかに遅れを取るなんて…エナ、腕は本当に完治しているのかい?」


「はい、クラリス様、ディクス様、トーノ様のお陰で跡形もなく…」


 傷跡すら残っていない腕を摩りながらエナが笑顔を見せる。

 結構長くお喋りしてると思うんだけど、お父様達はまだ相談中なのかな…。


(間近で見た訳ではないからどれ程の物かは分からんが、回復と聞いた時は我も驚いたわ。聖杖にも同様の力があったが…ふむ。)


「リョウが…成長?すればもっと凄くなるんでしょうか?」


 レンゼリアが飲みきってしまったカップの並ぶテーブルの上にスイッと浮かび上がった。


(それは全くの未知数と言えよう、何せ前例が無いのだからな。ともかくエミリア、お主の頑張り次第。と、言っておくかの?)


 フヨフヨと揺れながら駒の様に回るレンゼリア様、面白がっている様にも聞こえるけど…王様とのお話じゃもっと大きな…神託とか大戦とか…


「恐れながらレンゼリア様、宜しいでしょうか?」


(ふむ?どうしたディクスよ。)


 さっきまでニコニコしながらお話していたお兄様が急に立ち上がって真剣な表情を見せた。


「王国の騎士として…ではなく、この家の長兄として申し上げます。」


 レンゼリア様の剣先がテーブルに触れるまで下がっていく。揺れも止まった。


「我が家の指輪の話も、あなたのお話もよく分かりました、エミリアにしか出来ない…と言うのも。…ですが兄として妹を危険に晒す様な事は…。」


 最後の一言を言いながらお兄様がこちらを見つめた。先程までの朗らかな会話とは真逆の沈黙が3人と一振りを包む。


(そのあたりはリョウ…マキナウスの指輪が考えていると言っておった。我もエミリアを危険に晒そうなどとは思っておらぬ。…だがそうだな、兄としてのお主はその言葉だけでは納得出来まい。)


 キンッとテーブルから剣先が離れ、レンゼリア様の柄が兄の胸の前にピタリと止まる。羽の意匠のガードからブレードにかけて光を受けたレンゼリア様がキラリと光る。


(我を手に取るが良い、長兄としての言葉、気に入ったぞ。我の力を知ってもらう事でお主への返答としよう。)


 向かいから見ても分かる、お兄様の額から汗が噴き出した。震える手を淡く光り続ける長剣へと添える。柄をギュッと握りしめてブレードを立てた。


(そんなに緊張するでない、肩の力を抜け。ディクスよ、魔具の武装を使った事は?)


「…………(ディクスよ!)は、はいっ?隊の訓練で剣と盾なら…(よし、多少でも使えたなら問題は無い。まずは我を真っ直ぐに構えてみよ。)…はいっ!」


(よし、そのままにしておれ。エナよ、そこのカップを一つ貰っても良いか?)


「は、はい。この…空のカップで宜しいんでしょうか。」


 エナがカップを持ってお兄様の横に立つ、剣先がこちらに向きそうだったので、少し横にずれた私と、隣のお姉様がその様子に注目する。


(エナ、そのカップを上から我に当ててみよ)


 少し戸惑いながらカップの持ち手を摘んで上からブレードに当てた。カップがキンッと音を立てて、底が少しだけ欠けた。


(これが刃に何もしていない状態じゃな、ただの金属剣と変わらぬ。むしろその気が無ければ肌を滑らせてもかすり傷一つ負わせる事は無い。普段はこの状態にしておる。エナ、もう一度当ててみよ。)


 同じ様にエナがカップを刃に振り下ろす、美しい銀色の刀身に触れたカップが…そのまま音もなく刃を通り抜けた様に見えた。えっ?今刃に当たったのに?


 通り抜けた勢いのままに半分になった空のカップがテーブルの上にゴトンと落ちる。エナがもう半分のカップを持ったままで固まっていた。


(これが我が魔力を込めた時の刃の鋭さよ、装者が居なくともこの程度は造作も無い。)


 テーブルに落ちた半分のカップを拾い上げる、切り口が…何これ、欠けもなくてツルッツルなんだけど…どんな切れ味で切ったらこうなるの?

 お兄様…お口が開いてます。


(さて、次は…ディクスよ、魔力剣を使う要領で我に魔力を通してみよ。あー、お主魔術は得意だったか?)


「い、いえ、それほど得意ではありません。兄妹の中ではエミリアが最も魔力量がありますが、私とクラリスは殆ど…」


 そう言いながらお兄様が手元に魔力を集中させるのが感じられた。


(ふむ、そのようじゃな。ならば魔力を通した後はあまり動くでないぞ?ゆっくりと素振りしてみよ。エミリア、クラリス、エナよ、少し離れておれ。それとディクス、我に魔力を込めると少し落ち着かなく…)


 言い終わる前にお兄様が持ち上げたレンゼリア様を上段へ構えた、ヒュッと風切り音がしたと思ったら剣がテーブルの中程まで達していた。


「うわっ⁈か、軽く振り下ろしただけなのに、こんな…」


 驚いたお兄様が腕を上げると、テーブルにはパイを切り取った様な切れ込みが生まれる。


(ちょ、ちょっと待てディクス!最後まで話を)


「す、凄い!体が軽い!それにレンゼリア様の重さを全く感じなくなった…。さっきまで構えを維持するのにも結構力を入れていたのに…」


 ヒュンヒュンと風を切る音が部屋に響く、踏み込み、振り下ろし、振り上げ、お兄様が驚きの声と喜びの顔でレンゼリア様を振り回していた。


(待て、ディクスよ!そんなに勢いよく動いてはいかん!最初はゆっくりと、あぁもう駄目だと言っておるだろう!止まらぬか!魔力を止めよ!)


「凄い!コレが伝説の聖剣の力なんですね⁈自分の体じゃないみたいに軽い!感動です!エミリア!レンゼリア様は凄いぞ!これならどんな魔獣だろうが………あれ?」


 お兄様が…別人みたいにはしゃいで、レンゼリア様の諌める念話が聞こえてくる、だけど、少ししてお兄様の動きが急に鈍くなり始めた。


(いかん!ディクスよ手を離せ!)


 お兄様の手元からバチンと音がして、強い光が弾ける。謁見の間で見たレンゼリアが纏っていたバチバチした光だった。

 反射的にお兄様が柄から手を離した瞬間、レンゼリア様はくるりと回転して、剣先を下にお兄様の正面に浮き上がる。


「ぐぅ………う…うぁ…体が…か、体が…」


 柄を離した格好のまま、お兄様がヨロヨロと足を前に進める。


(だからゆっくりと言っただろうが、お主の魔力量と慣らしもせずにあれだけ動けば…)


 お兄様が糸が切れる様にその場に崩れ落ちた。


「「ディクス兄様!!!!」」


「ディクス様!」


 お姉様が叫び、私は倒れたお兄様に駆け寄る、息はしてるけど気を失ってるみたい。揺さぶってみてもまったく反応が無い…。


 勢い良くドアが開いてレッセンが部屋に踏み込んだ時、レンゼリア様が倒れたお兄様の近くにスッと降りてきた。


(だから言ったのだ、この馬鹿者が。)


 お兄様を心配しながらも、明日から私がレンゼリア様を扱う事に不安を覚えずにはいられなかった。

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