第66話 ぷりマル
衝撃の事実。トサカゴリラは十八歳。
「ま、まあいいや。いや、よくはないけど……ひとまず納得したってことで置いとこう。じゃあトサカゴリラがここの生徒だったって体で話すけど、なんで暴走族なんかになってんの? それも、ニュースに取り上げられるくらいの」
「納得したっていうわりに全然納得してないみたいだな」
あんな暴走族のリーダーをやっているのだ。そこには、なにかとても深い理由があるのでは、ないだろうか。
その答えをくれたのは、やはり教師である由香だった。
「彼、一年生の頃からいろんな問題を起こしてたの。学校の中でも取り上げられるくらいに。
いつからか、学校つまんねーって言って学校に来なくなって、暴走族としてニュースにまで取り上げられるようになって……彼、言ってたの。
いつかビッグになってみんなを驚かせてやるって。だから多分、それが理由かな」
「思ったよりだいぶしょっべえ!」
ビッグになってみんなを驚かせてやる……意気込みはいいが、その方向性がだいぶおかしい。
まああくまで、由香の見解だ。ビッグになって驚かせたいから暴走族としてやってきたなんて、そんなしょぼい理由でないことを祈る。
話もほどほどに。達志たちは由香に道案内を任せ、トサカゴリラが捕らえられている場所へと向かっていくことになった。
ちなみにパイア先生は、ぐったりとした様子で眠っていた。
「そんなわけで、トサカゴリラのところへ向かうことになったわけだが……」
「どんなわけだ」
あらかたの事情を理解した達志は、トサカゴリラのところへと向かうことにしたわけだが……周りのメンバーを見回して、改めて思う。
その気持ちを、一言で表すと……
「多くね?」
そう、この保健室にはリミのお見舞いで来たのだが……このままの人数で行くには、さすがに窮屈だ。
元々リミのお見舞いとして来た達志、マルクス、パイア。加えてヘラクレス、ルーア、由香。そして起きたリミ。
「まあ別に、大人数で行こうが少人数で行こうがあのトサカゴリラを気遣う必要はないんだけどな」
「お前、ホント容赦ないな。仮にも同じ学校の先輩だぞ?」
「……はっ。復学初日の俺にとっちゃ、先輩とか後輩とか関係ないわ。むしろあれは学校のというより、人生の先輩扱いだわ。いや言葉が悪いな、そんないいもんじゃねえ」
「あれって嫌いすぎるだろ」
妙に真面目なマルクスはそうなのかもしれないが、達志がトサカゴリラを敬うつもりはない。せっかくの復学デビューをを台なしにされたのだ、
むしろぶん殴ってやりたい。
……それはさておき、行くメンバーを考えることに。トサカゴリラを気遣かってとかではなく、ここにいる一人一人は個性が強い。
それをいっぺんに処理するのは、さすがにしんどいのが本音だ。
「血を見て倒れたヴァン先生は置いていくとして、一応見ておく人も必要だよな。となると……ルーアかな」
「な、なんですと!?」
思わぬ指名に、ルーアが反応。まったく予想していなかったのか、大きく目を見開いている。
なぜ私が、とでも言いたそうな……
「なぜ私が!?」
実際に、言った。
どうやらルーアもついていきたかったようだが、達志としてはたった一言だ。
「だってこの中で一番個性強いのお前じゃん。中二ロリで、なにしでかすかわかったもんじゃない。魔法魔法~、とか言ってうるさそうだ」
「中二じゃないしロリでもない! いいじゃないですか、私の魔法であのトサカがどうにかなっても!」
「それに関しちゃまったく問題はないんだが……」
「貴様ら、あのトサカにも一応人権はあるんだぞ」
「マルクスくん、フォローになってないわ」
ルーアやマルクスも、というか多分全員がトサカゴリラを嫌いなのがわかった。先輩だなんだとマルクスは言っていたが、それと人として嫌わないか、は別問題だ。
「というか、お前の魔法のせいでこうなったの忘れてないだろうな」
「それは……先ほどムヴェル先生に、だいぶ絞られまして……」
そもそも、トサカゴリラが学校にヒャッハーしてきた理由は、ルーアがやつらに爆発魔法をぶっ放したからなのだ。
……そう考えると、謝罪のために連れて行ってもいい気がしてきた。
「ま、謝罪はまたの機会だ。お互い頭が冷えてからな。
お前を置いてく理由はまあ、消去法だな。まず行きたい俺と、当事者のリミだろ。なにかあったとき守ってもらえそうだからヘラだろ。一応教師もいた方がいいだろうからゆ……如月先生だろ。
……あれ、マルちゃんいらねえな。じゃあマルちゃんも留守番で」
「誰がマルちゃん……なんだと!?」
指を一本ずつ立てて数えている達志は、衝撃的な事実に気づく。マルクス、いらねえじゃん……と。
「わり、マルちゃん留守番な」
「きさっ、貴様! なんだその理由は! それに、ヘラクレスの守ってもらえそうって評価はなんだ!」
「だってルーアの爆発魔法から無傷で守ってくれたんだぜー?」
「そ、それにしたって……!」
結果的には達志、リミ、ヘラクレス、由香の四人で向かうことに。ぎゃいぎゃい言っているマルクスは置いておいて。
まったく、駄々をこねないで素直に受け入れてほしいものだ。そんなにぷりぷり怒るでない。
「そんな怒るなよ、ぷりマル」
「誰のせいだと……ぷりマル!?」
「ぷりぷりマルちゃん略してぷりマル。ほら、駄々こねても仕方ないから、な? ここでおとなしく待ってような?」
「また変な呼び名をつけるな! というかなんで僕がわがまま言ってるみたいになってるんだぁー!」
がぁーっ、と頭を毟りながら、その場に膝をつく。
おいおい、そんなことしてたら将来ハゲるぞ? 仕方のない奴だ。
そんなマルクスの肩を、ぽんぽん叩くルーア。無駄な抵抗は諦めて、居残り者同士仲良くしようではないか……そう言っているみたいだ。
だが対照的に、その表情は、マルクスを馬鹿にしているように薄ら笑いを浮かべていた。
「ほらほら、保健室でそんな騒ぐもんじゃありません」
「このっ……いや、もういい」
言い返すのを諦めたマルクスは、ため息をついて立ち上がる。こいついつか泣かせてやる……そんな思いを持って、達志を睨みつける。
だが隣のリミにじとっと見られ、すぐに視線をそらした。
「じゃ、行きますか。ヴァン先生をよろしく」
「果たして血を見て倒れたヴァンパイアを、しかも二人で見ておく必要があるのだろうか」
最後まで渋っていた様子のマルクスだが、そんなことはどうでもいいとそそくさに部屋を出ていく達志たち。
達志たちが出て行った後で、ルーアとマルクスによる愚痴の言い合いがはじまったのはまた別の話。




