第67話 複雑な乙女心
さて。トサカゴリラが捕らえられている部屋に向かっている時だ。
達志の頭に乗っているスライム、ヘラクレスが、いきなり核心に迫る発言をしてきたのは。
「てかさー、ぶっちゃけタツとリミたん、ゆかりんってどんな関係なわけ?」
「へ……?」
その言葉に、思わず足が止まる。リミと由香も同様に。
だって、達志とリミと由香の関係なんて、ヘラクレスどころか誰にも話してはいないのだ。
詳しくは、達志とリミの関係……今一緒に暮らしている、ということは周知の事実だ。しかし、ヘラクレスの質問は、それだけのことを指したものではないのは、わかった。
どうしてばれたかだか……いや、まだ疑いの段階かも。
「ど、どうしてそんなことを?」
「いやー、見てたら察しつくって。タツに対するリミたんの反応は言わずもがなだが、タツとゆかりんも、なんかぎこちねーんだよな」
……確かに、達志に対するリミの反応は、誰が見ても明らかだ。それが、以前のリミと違うともなればなおさら。
以前は、一人で物静かだったらしいが、今では……達志の前では、欠片もない。
それはともかくとして、達志と由香に対する違和感まで見抜くとは。
ぎこちない……初めて会った人間同士ならそれも仕方なかろうが、どうにもそれとも違うぎこちなさだ。
実際、達志と由香の間には、妙なぎこちなさは存在している。すぐにわかるものなら、名前を言い間違えそうになることだろうか。
そしてもしかしたら、達志となにかしらがあるかもしれない二人同士にも、なにかしらあるのかもしれない。そう考えてもおかしくはない。
実際、リミと由香は達志繋がりで、関わりがある。
達志の幼なじみと、命を助けられた少女……それ以上の深いところは、達志も知らないが。同じく幼なじみの猛やさよなとの関係を見るに、リミは結構仲がいいのだろう。
それこそ、単なる教師と生徒の枠を超えて。
どこまで深く考えているのかわからないが……とにかく違和感を感じたのは事実。そうしたヘラクレスの疑問は、見事に当たっている。三人の間には、なんかある、と。
「で、どうなん? ん?」
「それは……」
隠すほどのことでもない、が……言っていいものだろうか。
達志に対するリミの反応は、昔達志がリミを助けたことによる恩義をリミが感じているから。
達志と由香のぎこちないさは、二人が幼なじみであり、それを隠しているのが逆に違和感として出てしまっている。
どうするべきかリミと由香に視線を向けると、二人とも仕方ない、といった感じで肩を竦めている。隠すほどのことでもないし、ごまかしたところでかわしきれない気もする。
よって……
「実は……」
達志とリミ、由香の関係を、話す。目的の部屋につくまでの間に、歩きながら。
その間達志はこう思っていた……このスライム、スライムなのにまるで脳みそが詰まってるみたいだな、と。
見た目通り空っぽならわりと楽だったのに。
「へぇー、なるほどね。命の恩人に幼なじみ、なかなか複雑な関係なんだな」
達志とリミ、そして由香のそれぞれの関係性を話し終え、達志は一息つく。
この複雑な関係をどう説明しようかとも思ったが、話してみると案外やりやすいものだ。まさか当事者以外に、説明する日が来るとは。
ひとしきり話を聞いたヘラクレスは、達志の頭上でうんうんと頷いている。
「まあ、めったにないよな、こんなややこしい関係性。十年も眠ってて目覚めたら助けた女の子が同い年になってた、幼なじみは年取ってて自分のクラスの担任になってた、なんて」
「あぁ、そらないだろうな。それプラス世界がまるっと変わってたことを踏まえると限りなく」
「あ、私担任じゃなくて副担任……」
こうして話して聞かせると、改めて現実味に欠ける話だ。とはいえ、ヘラクレスはどうやら納得したようだ。
特に達志に対するリミの態度など、その辺りはかなり。
「だからリミたん、タツにあんなベッタベタなわけか」
「べ、ベッタベタじゃないですよ!」
「それにタツとゆかりんのぎこちない理由もわかったよ」
「そ、そんなにぎこちないかな?」
「まー、わかる奴はわかんじゃね」
達志の両隣に立つそれぞれの女性を見ながら、納得の表情。
達志と違い、リミアンド由香との付き合いはもう少し長いはずだ。だからこそ、二人の変化にも気づいたのだろう。
すさまじい観察眼だ。
「にしても、そっかぁ……幼なじみねぇ。もしかしてゆかりんも、タツのことす……」
「うわぁー!」
達志に対して、リミがどういう感情を抱いているかというのは、達志に対しての反応や、ルーアが氷の彫像へと犠牲になってしまったことからも察しがつく。
無論、それに達志本人が気づいていないが。もしかすると、リミ本人でさえ……
だが、由香はどうか。幼なじみ……だからという理由だけではない。
むしろ、幼なじみという関係性がわかったからこそ、もしかしてという疑問が浮かんだのだ。
二人の間にある……というより、由香から達志に対するぎこちなさは、教師と生徒になってしまった幼なじみ、だけではない気がして。
だからヘラクレスは、何気なしに言ったつもりだった。いつもどっちが生徒かわからないくらいだが、そこは大人な由香。
たとえ好きだろうと、カマをかけてもやんわりかわすんじゃないかと。
だが……
「ななななぁにを言ってるのかなぁー?」
「ゆ、ゆかりん落ち着いて! なんかちょっと怖い!」
持ち上げられ、必死の形相の由香に強制的に止められた。スライムの頭部分をわしづかみにされるという、頭アイアンクロー状態だ。
しかも、美女がしてはいけない顔をしている。達志やリミには見せていないが。
「めったなこと言うもんじゃないよヘラクレスくん……トイレに流すよ?」
「いや、マジごめんなさいでしたからそれは勘弁して!」
小声で話しているからなんの会話をしているかわからないが、ヘラクレスがあんな慌てているの初めて見た。
そんな達志は、なんだか由香に近づけなかった。




