作業進捗状況ではない話
スコッシホーレル山脈の冬にもすっかり慣れた。
ここは雪深いし、人間がまともに生きていくのも大変で山賊も居ない。
異世界から漂着物がたどり着く変な場所で、それが顧みられなくなって久しいときて、誰もがそこまで注目もしない場所だった。
俺はここに部下たちや婚約者の手を借りて『ダンジョン』を作った。
温泉宿のように見えるが、ここは俺にとっては新たな力を得る可能性のある場所であって、そういう意味では他のダンジョンと目的は全く同じだった。
俺は地上の入り口横にあるテラスに出ていた。テーブルも椅子もしまってあるから、立って遠くの山々を眺めていた。
突然、声をかけられたのはそんな時だ。
「君は今でも力を欲しているのかな?」
「もちろんまだ、俺は力を欲している。また妙な格好の奴だ。あなたはナローの異神だな。ちょうど良い、話があるんだ」
「そうなんだろうな。それでも迷宮造成システムはお蔵入りにするんだろうな」
「そこまで知ってるなら話は早い。そうなんだよ。あなたから他に伝えてもらえると助かるよ。そういえばご尊名をお伺いしてなかったな」
「オマー・エノス・イフ……」
その異神はやはり異様な風体をしていた。
四肢はあっても身体中が金属で出来ているようだったし、腕が4本だったから実際は六肢だった。
胴体は丸く、短く太い脚が2本付いており、頭は真四角で4面が平らで光っており、何か文字が書いてあった。
「ジョージア風よりはグルジア風のほうが語感が好きだ」
「痩せたいのに牛丼と別れられない」
「有給は取りたいがタイミングと理由が……」
「私は社畜というよりは、組織にとって家畜ではないだろうか?」
などという意味不明ながら不穏な雰囲気の言葉が並んでいた。
「ダンマスよ、神々は思うより様々なことを知ることが出来る。君がそうしたいと思ったなら彼らは知ることが可能だ。もしそのシステムを今後は使わないのなら、私が預かっておこうかな?」
「いや、その必要は無いよ。オマー・エノス・イフよ。何のつもりで出てきたんだ?」
「最後に君の今の考えを直接聞こうと思ったのだ。私には別れたい相手がいる。でも彼女たちはここが気に入らないというんだよ。私は別の引っ越し先を何とかでっち上げる必要がある」
「それはまた面倒な話だ。俺も気持ちは分かるよ。俺の場合は嫁さんになってくれるらしいんだ。だから諦めて考え直した」
「嫁さんにね。君はシステムをどうするつもりだ?」
「取っておくよ。子供たちが使うかもしれない。でも俺は使わないようにやってみる。力を得ることは諦めたわけじゃ無い」
「そうなのか……。まぁ頑張ってくれ。少なくとも私の別れたい相手はもう干渉しないだろう。私もハーネラレティに悪いことをしたと思っている。君は君の思うようにやってみると言うんだな?」
「ああ、そのつもりだ。皆を食わせていかなくちゃならないし、力も無いと何れは多数の幸せの為に特殊階級が出張ってくる」
「ハハハハハ、奴らは持ってるときは民主主義で持ってないときは共産主義だからな。持ってる奴は努力を否定されて悪者になったりする」
「あんたみたいな神でもそう思うんだな。あいつらは強力な力がそのまま発言権で、自分達の分はちゃんと確保してるときてる」
「分かってるじゃないか。婚約者の彼女たちには相談しないのかね? 彼女たちは馬鹿じゃないんだろう?」
「これからするところなんだ。俺も昔とは違うらしい。自分の力だけで稼いでいるわけでも無い。もう散々手伝ってもらってるし、今さら遠慮してもしょうがないからな」
そこまで話すと『オマー・エノス・イフ』は薄くなるように消えた。
「元気でなダンマスよ。たまに覗きに来る。嫌だと言われてもそうするよ……」
「あんたみたいなのはもう沢山だよ! あと後ろに居た女は誰なんだ?」
異神は俺の最後の質問には答えなかった。
俺は増える予定の家族の為に稼がないといけない。
嫁さんたちや実家の力を借りてでも、今の生活を守らないといけなかった。
金になると分かったらここも充分に危ないだろう。
その時に俺自身はどうするのか分からなかったが、何も出来ることが無い状態だけは避けたかった。
足元の『迷宮造成システム』を持ち上げて、俺は地下へ戻ることにした。
俺は自分に満足していなかったが、それでも全部ではなかった。
システムは最初、壊そうかと思ったがやめにした。やっぱりもったいない。
きっと誰かが、役に立てる日が来るかもしれないのだから……




