作業進捗状況56 排水処理槽
結局『メディーア・リンリーイーン・カイ・ソレヤメロゥ』とは別れることにはならなかった。
メディーアは実家の母親より「見聞を広めて来なさい」と言われ、彼女は俺の『温泉テント村 ダンジョン』に来ることになった。
まさかこういう事になろうとは考えていなかったが、メディーアはここが割と気に入ったようだった。
気を回して彼女にも準備金を用立てたところ非常に感謝されたようで、ダンジョンの排水処理槽の拡張に手を貸してもらえることになった。
「ゴルルゥ 昔ね 勤め先の配管の様子を見に 設備へもぐり込んだんだが パイプの間に挟まってしまったんだ それでパイプに詰まった男として しばらく社内で有名になったよ ゴェアァァァ」
「湯ダ課長はパイプに詰まったことがあるの!?」
俺たちは何故かそれなりの数になってしまい、ダンジョンの排水処理槽まで降りてきていた。
俺とメディーアとハイカーンたち設備担当者だけで充分だと思っていたが、湯ダ課長とシナイディまで付いてきてしまった。
さらにクーデレまで「メディーアの作業が心配です」とかで付いてきていた。
「シナイディ。湯ダ課長の言うことはきっと別の世界の話だから、そっとしておいてやれ」
「はい、分かりました」
シナイディとクーデレは湯ダ課長の背中に乗って、ユッタリと通路を下っていた。
俺はメディーアやハイカーンたちとその後ろを歩きながら、設備についての説明を彼女にしているところだった。
「ここは少し下ることになる。元々は自然の洞窟だったんだ。ひょっとしたら随分先の方で外につながってるかもしれない。地下3階が東側にずれてて、こっちの排水処理設備は北側にずれてるんだ」
「隠し通路にでもするつもりだったのか? ユアセイラ。扉があるとは言え、少し不用心ではないのか?」
「いつかきちんと確認しようとは考えてるよ。いざというときの為に、避難経路にするのも悪くない」
クーデレが湯ダ課長の上から声をかけた。
「あそこは軟体動物が大量にいて、それなりには危険なのではないですか?」
「奴らは何故かエサをくれている者のことはある程度は覚える。いきなり襲いかかっても来ないし」
実は軟体動物が迷宮の前衛と呼ばれるには少し無理があった。基本的に食べてるだけのおとなしい連中だからだ。
普通のダンジョンならここまで餌が豊富ということもないから、そこそこ危険ではあるのだが……。
すぐに広い空間が見えてきた。
ここは排気もしているし、軟体動物は分解にあまりガスを外に出さない。
ここには大きな貯水槽が3つあって排水処理を行っていた。
空間には照明灯が置かれ、柔らかい光を周囲になげていた。
クーデレによれば陽の光に近いものだそうだ。
一番最初に排水が流れこむ処理槽には、垢や食べ物のカスなどがまじった排湯・排水が流れて来る。
しばらくするとすぐに冷めるし、元々40ドヤー(≒40℃)も無いから死ぬことも無い。
そこでは多くのスライムが排水を取り込み、真水にして排出していた。
今は閑散期なので、野菜くずやオースギールの内臓と骨もここまで持ってきてやっている。
メディーアは興味深そうに貯水槽を眺めていた。
俺たちと同じ作業着かと思ったら、魔改造されており背中がガッツリ開いていて、しかも下は短っかいスカートに何故かなっていた。
いったい何に対するこだわりなのだろうか?
「向こうの岸の奥に白いモノが転がってるがアレは何だ? 石みたいだが固まって落ちてるな。表面が粉っぽい」
「アレはスライムのフンなんだよ。実はアレが中々役に立つんだ」
連中は岸に上がってくると、奥のほうに移動して、あのフンを落としていく。
アレを砕いて、廃油と混ぜて2日間ほど煮たあとで、型に流し込んで固めると石鹸になる。
陛下が温泉のことを「ナトリウム炭酸水素塩泉かもしれないけど、ちょっと薄いわね」などといっていたが関係があるかもしれない。
厠の連中の白いフンも半分混ぜるようにすると、丁度良いようである。
今は連中も狩ってきたオースギールの骨や内臓(心臓と肝臓は課長が食べる)を消化してもらってる。
メディーアも興味深く聞いていたようだ。
「何だか知ってしまうとちょっとアレですけど、ずいぶん便利な生き物なのですわね」
「ここの奴らだけなんじゃないかな。モンマニアの話だと環境に含まれる成分が海に近いんだとか何とか言ってたな。岩塩もでてしまったしな」
「塩は出たのは良いことでは無いですか。売れるかもしれませんし」
「お前たち今まで、そんなことばっかり言ってたのか。ここも大変だな。私はもっと楽なモノだと思っていた」
「継ぎはぎなんだよ。割と間に合わせの場所があってね。ここもそうなんだ。一番目の処理槽を拡げたい。今なら水も意外と綺麗だしね」
「そうすると入り口側しか余裕が無いな。後は深くするか?」
「そうしてもらえると助かるよ。先に2番目と3番目の貯水槽を見ておこう」
2番目の処理槽はスライムはほとんどいない。
その代わりびっしりと底のほうに水草が生えていた。
それは花空ウサン草と呼ばれる種類で花みたいなモノが水から頭を出していたが、それは葉の先が白くなっただけのもので中心には何も無い。
花が空っぽなウサン草ってわけだ。
こいつらが沈殿した細かい汚れをさらに分解してくれると言うわけだ。
スライムはこいつらを巻き込むことがたまにあるが、ほとんど食わなかった。
因みに葉は茹でて食える。
3番目の処理槽には花空ウサン草に加えて、何と魚が住んでいた。
どこから来たのか知らないが、おこぼれを狙えばかなり食えるようだ。
「ここは臭くないしあまり寒くもない。魚もいるし見ごたえのある場所だ。前の職場の中庭にある池よりはずっと良いな!」
「ここにこれだけ魚がいるのは知らなかった。ハイカーン、これ何とか食えないかな?」
「実はミーズニーの奴が焼いたり、揚げたり、そのまま捌いたりして湯ダ課長に食わせてますよ。大丈夫じゃないですかね?」
メディーアがため息を付いていた。
「課長では話にならないではないか。妙な病気にならないと良いんだがな。だいたいこのトカゲも変な生き物だし、ユアセイラが毒味してくれ。危なかったら治してやる」
ここは誰かが犠牲になるしかなかった……。




