作業進捗状況41 湯けむり女皇陛下③
ダンジョンメンバー紹介
●イドホッタ・ガミズ・ガーデネイ
ユアセイラの護衛を勤める寡黙な男。
特技は隠形と暗殺術だと思われるが作者もよく知らない。
全く話さない上に気配も薄いため、よく地の文から消える。
作者の記憶から消えることもある凄腕の刺客だ!
女皇陛下がこの温泉テント村『ダンジョン』にお越しになると聞いて俺は慌てたものの、このチャンスを活かして婚約破棄の後ろ楯になっていただけるように『おもてなし』に全力を尽くすことにした。
各担当の仕事を決めたら、次にすべきことは設備の点検だった。
今この時期はお客様がまったく居ない。
居ないが掃除などをサボると傷んでくる場所もあるし、何よりこういうのは気分の問題というのもある。
特に気を付けたいのは各温泉の脱衣所と厠だ。
お越しになるのは陛下だけではない。
御付きの侍女たちや護衛も居るだろう。あれぐらいの御方になると護衛の必要も無いが、体面というものがある。
特に厠に関しては地下1階に30箇所:120室(1ヵ所に4室)あり、地下2階にも同じだけの数があった。
念の為の再点検と掃除が必要だ。
厠掃除は重労働だが、そこまで不衛生というわけでもなかった。
「よし、俺もやるぞ!」
「ダンマス、何もトイレの掃除までしていただかなくとも大丈夫ですよ」
「いや、今回は完全に俺の個人的な都合に全員を付き合わせているからな。それに『アレ』を使ってみる」
「まさかトイレ掃除に『アレ』を使うんですか!?」
接客対応の責任者であるココガー・アナ・バナンデス班長が俺を止めようとした。
だが俺はこの掃除を自分でもすべきだと思ったのでバナンデスに他の準備を任せて、改めてトイレに挑むことにした。
実は俺は陛下が来ることが分かった段階で主だった者たちに相談し、スキル『凄い加速』を取得していた。
理由はナロー異神群からポイントを得たからというのもある。
最初は土木工事の『作業進捗報告書』を迷宮造成システムに開いている『穴』に突っ込んでいた。
しかし今や工事は滞り、ダンジョンは温泉宿としてより充実した結果、毎日『テント村業務日報』を迷宮造成システムに食わせるハメになっていた。
俺が報告書の先頭にデカデカと『作業進捗状況 報告書』と書いているのは、最初の夢を諦めないのだという俺の決意表明でしかなかった。
俺の中では地道かつジワジワと、ここはダンジョンになっていっているのだ!
ある意味では危険な守護獣である湯ダ課長も来たしな。
そんな願いが通じたに違いない。
ナローの神々は俺に恩恵を与えることにしたようだった。
さて今から厠を掃除するわけだが、こういった掃除を舐めていると痛い目を見るのは古今東西を通じて違いがない。
ひょっとしたら異なる世界においてすら、そういった一面の真理はあるのやもしれなかった。
俺は珍しく、そこに1ザイト(≒1時間)ほど立ち尽くし精神を鎮め集中力を高めることにした。
掃除には『生活系理力術』を使う。舌をかまないようにな。
この系統の術は、ほとんどの知的種族が行使出来たし、使い勝手に関する種族間の差は小さかった。
ほとんどの者が火や水を少量出せたし、灯りの光球を出して夜を照らし、汚れを除去することが出来た。
今回は『清潔の術』を使う。
生身の体に使えたが、汚れ落ちは今一だった。垢というのは元々が体の一部であったし汚れとしての境界があいまいだったから、およその汚れしか落ちなかった。
風呂の需要が無くならない理由である。
しかし物体に対しては『驚きの洗浄力』を発揮した。
これで落ちない汚れでも、さらにブラシで擦るとほとんど落ちた。
トイレ掃除には必須の技能である。
因みに「スキルとは何か?」についてはまた後日に説明したい。
今はその効果が大事だった。今から『凄い加速』でトイレ掃除を行ってみることにしよう!
「いくぞ! 『凄い加速』! ソイヤァァァ」
別に叫ばなくても良いのだが、こういうのは気分の問題だろう。
俺は新たに獲得した能力を頼りにトイレに突撃した。
作業服にエプロン、バケツにブラシを突っ込んで一部の隙もない掃除夫と化した俺は、通常の掃除夫では到達し得ない速度でトイレに進入した。
とんでもない速度で移動しているのだろう。
流れる視界が鈍磨し、何もかもがゆっくりと動く中で俺だけが素早く動いた。
「ド・メストォォォォ」
やや汚れたトイレに俺の術が行使された。
俺の手からネットリとあふれでた理力の光が厠の便器にベッタリと張り付き、汚れを分解し始めた。
この『ド・メスト』は生体由来の汚れの分解だけでは無く、机や便器などの物体上にある『カビ』などの小さな生物に限っては殺すことが出来た。
もちろん知的種族などをはじめとする生物の皮膚や内臓へは効果が及ばないため、ある意味では安全に使用できる術でもある。
「アララララララララ~イ。どいてくれ~」
俺は今、一陣の風と化して地下1階のトイレ掃除に邁進していた。
スキルの使用により俺は急激に疲れているはずだが、このままの勢いで厠120室分の掃除が完了しそうだった。
「いける、いけるでー!」
俺はさらに地下2階にそのままの勢いで突入した。
俺の目は血走り、顔は真っ赤になっていて見ていてヤバかったと後で聞いたが、この時は高揚感でそれどころでは無かったのだろう。
しばらく進むと、どうも様子がおかしいことに気がついた。
見たことの無い格好の侍女たちが居て、しかもその奥にダディ義父上がいるではないか!
上着こそ着ていなかったが、パンツとシャツは実に上品で金がかかっており、ベストまで着てオシャレだった。
ついでにビールをジョッキで飲んでいた……
さらに進むとオンドゥルルラ義母上が居て、しかも『例のヤバい姿』で冷たいお茶を出しているシナイディに手刀を切っていた。
「ゥウットゥンドゥフ」
(ありがとう)
いま「ごっちゃんです」って言いましたよね? という突っ込みを入れる余裕も無く、俺はさらに進んでしまった。
その先にはクーデレとネイデスとガーデネイが居て、ガーデネイの奴は『文字が書かれた四角い板』を俺に向けて掲げていた。
【 陛下がお越しになられました 】
おもいっきりそう書いてあった。
やがてハーネラレティ陛下が左手を腰にあてて『フルーツ乳』をゴキュゴキュ飲んでいるのが見えた。バスローブ姿だった。ちょっと火照っていた。
そこで止まれなかった俺は、その加速状態のまま水風呂へ突入し、盛大な水しぶきをあげながら水風呂へ沈んだ。
「ワズグルッデ ウートボタジャボー」
(明日来るって、言うてたじゃろー)
俺は水を吐きながら叫んでいた。
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