作業進捗状況40 湯けむり女皇陛下②
今回は後半に『婚約破棄』を慎重に行う理由が書いてあります。
新登場の部下は以下の2名になります。
「慣れてないんで、痛くしないで」
「やるじゃんか、趣味ですか?」
では本編をお楽しみ下さい。
「それがなハーネラレティ陛下がこちらにお越しになるそうだ」
ダディ義父上から衝撃の情報がもたらされた。
しかし俺はメディーアとの『婚約解消』について、陛下にも後ろ楯になっていただくつもりだった。
母はそれほどまでに恐ろしい女だった。
そしてそんな母の持ってきた野心的とも言える婚約話を終わりにするというのは、勇気や根性だけでどうにかなるものでは無かった。
「『というわけ』で義父上。陛下がお越しになられるのは、いつ頃になりますか?」
「何が『というわけ』なのかよく分からんのだがな、婿殿。あー、何か適当に都合をつけて来るとか申しておられたが。下手すると明後日ではないかな」
『こちらの都合』という物を考えてくださる優しさの無い御方ではない、と信じたかったが陛下もお忙しいのだろう。
ここは行動あるのみである。俺は今回の高難易度ミッションを成功させるべく部下たちを召集した。
「あの、ダンマス? 僕に何か御用でしょうか?」
なんと言うか色んな意味で危険な男子がそこにいた。
背は魔族にしては低く168ダウメン(≒168㎝)しかなかったし、華奢な体つきで歳も部下の中で一番若かった。
顔はと言えば魔都で一番の『傾城』と張り合えるんじゃないかというぐらいの美貌と、伝説のエルフを足して2で割ったぐらいに整っていた。
豊かな金髪の間からのぞく2本の角は控えめで短く、赤色で頭の両脇からチョットだけ出ていた。
服装は俺とモンマニアとオッサンダロ、そしてバナンデスが頑張って悪ノリした結果、とんでもなく違法性が高くなっていたかもしれない。
シャツは貫頭衣のようなデザインで足の付け根までをかろうじて隠していた。
下はピッチピッチのホットパンツにヒラヒラの付いた長い靴下にしてあった。
この上からヒラヒラがたくさん付いたエプロンをしてもらうことにした。
「我ながらコレはまずいデザインだったかもしれない。陛下に怒られんかな?」
「あの……似合わないでしょうか?」
「いいや! そんなことは無いぞ! とにかく『そういうわけで』お前さんに今回は頑張ってもらわないといけないんだ」
「はい! 何が『そういうわけ』か分かりませんけど頑張ります!」
この危険な色香とカワイさを内包する少年は名を『ナレティーナ・インディターク・シナイディ』という。
彼自身も気にしているのだが、女性のような名前のこの少年は下級貴族の出身である。
シナイディはこういった外見であったから苦労も多かったに違いない。
この子は生涯のある時点でこういった外見に開き直ってしまった。
結果こうして俺のような『落ちこぼれ』の下で働いてくれている。
俺も貴族としては充分な能力を持っていなかったから、こういった生まれの不幸を背負って生きる辛さはよく分かった。
今ではあの手この手で良い稼ぎをするのに何かと役に立ってもらっている。
ここで温泉が出てからは、さらにお肌に磨きがかかった。
因みにシナイディだけは、俺や他の奴らと違って重労働で筋肉がつかなかった。
羞恥心を捨て、己の仕事に生きるこの少年を俺は大いに買っている。
次にバナンデスのフォローに入ってくれる奴を用意しないといけない。
これはすぐに見つかった。というか既に居た。
「『というわけ』で、今回は特に頑張ってもらわないといけないんだ。シュミディスカ」
「ダンマス、何が『というわけ』なのかは分かりませんが今回も頑張りますよ」
この頼もしい男は名を『ヤルージャ・ンカ・シュミディスカ』という。
動きやすいダボっとした制服の上下にエプロンというのは俺たちと一緒だ。
普段からバナンデスの補佐として、この『ダンジョン』を取り仕切る男である。
なかなかに手先が器用で、他の専門家たちと絡むことも多い。
他者を称賛する度量も失わぬこの男を俺は買っている。
「とにかく何でもお出し出来るようにしておいてほしい。陛下がここを気に入ってくだされば、俺たちの先行きは明るいぞ!」
「明るいって言いましても、本国は遠いですよ。それにここがこれ以上に繁盛したら、ダンマスが困らないですか?」
「婚約破棄の後ろ楯ってだけじゃ無いんだ。ダンジョンに関する秘術だってお持ちかもしれない」
「そりゃモンマニア調査長の領分だ。俺も少し興味はありますけど。おもてなしの方は取りあえずミーズニー料理長やドライフドにも相談してみます。バナンデス班長から聞きましたがシナイディが頑張るそうで」
ある程度の話は行き渡っているようで、俺はこの以心伝心と言って良いチームワークに安心した。
不思議に思われるナローの神々も居られるかもしれないので、俺が『婚約破棄』に関して異様に慎重なのはなぜか書いておかないといけないだろう。
祖国の貴族社会での『婚約』というのは、もちろん家や当主と当人たちが関わるのだが、特に家同士の約束というのは大事だ。
今回の件について軸になっているのは以下の御三方になる。
●クァーメンルァイダ侯爵妃
(クーデレの母上:オンドゥルルラ様)
●カーノントゥハァト侯爵妃
(メディーアの母上)
●ソレイエネイ伯爵
(俺の母親:女でも継承権があるため)
この方々は若い令嬢時代から、自身の力によって貴族社会を戦い抜いてきたところがあり、お互い認めるところがあるらしくひじょ~に仲が良かった。
すんなり変則的な婚約が決まったのは、こういった事情があった。
であるから婚約破棄に関して順番を間違え、3名のうちの誰かの顔に泥を塗った場合、俺は確実に消されることになる。
大事なコトなのでもう一回言うと、実家が相手の場合でも社会的にではなく実質的に消されることになるだろう。
全員がそれだけの力と性格を有していた。
俺が陛下にお願いしたいのは、この方々の体面を汚さないようにしつつ、この婚約騒動についての影響力を無しにしてもらうことだった。
当事者同士の話し合いはその後からだった。
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