作業進捗状況39 湯けむり女皇陛下①
スコッシホーレル山脈では寒い季節である『冬』が徐々に深まってきた。
冬も『ど真ん中』になると雪が大量に降ってくる。
こうなると屋外作業のほとんどは人間にとって危険だった。
その点は俺たち『魔族』の方が有利で、フィジカルの強さにおいては3種族の中で最も高かった。
これから俺たちは返事があり次第『分岐路』の敷設工事に入ることになる。
第2軍団の本線工事については、クーデレと湯ダ課長の手伝いにより大幅に進んだ。
来年の夏には開通しそうだった。軍団も俺たちも工事ばっかりしているわけではないから、もちろんまだ時間はかかる。
軍団にとっては中央の指示が絶対だった。地元と違って、中央は急いでいないのだった(戦争が無いから何でもやらされるのだ)。
軍団の工事も3年目が終わろうとしていた。
俺が関わるようになってからは、まだ1年しか経ってない。
今年中は『ダンジョン』を起点にして南北に10ザトーずつ伸ばすような工事だった。
イーランコート・イワントイティ間道はおよそ100ザトー(≒100㎞)の長さになりそうだった。
当初は南側から60ザトー(≒60㎞)の地点まで終えれば良かったのだが、今は約80ザトー(≒80㎞)の地点まで終わっていた。
来年からはノンデル・ンカ・ヒルマッカラが食糧の調達に本格的に動く。
今回の工期は何と2週間も余ったものだから、冬の真ん中まで日数の余裕があった。
クーデレの持つ特殊階級の理力の技が、如何に便利で強力か理解出来る成果だ。
ワロー軍団長と第2軍団の皆さんは、今年は早めに下山することにしたらしい。
「宿場長、今年の冬も世話になった。お陰でずいぶんと楽をさせてもらったぞ」
「お役に立てて何よりですよ、軍団長。冬の間もどうかご無事で」
「ゴルルゥ 異動というのはいつもせわしないものだ 栄転とは言うものの 行くのはいつも忙しいだけの場所でね 我々は篩にかけられているだけかもしれないな ゴェアァァァ」
「ハハハハハ、おヌシは不思議な生き物だな湯ダ課長。おヌシが異動することも無いと思うが、それは一面の真実かもしれん。来年の工事が終われば中央に戻るが、俺も篩から落ちないようにせねばな」
俺は釈然としない気分だったが何も言わなかった。
クーデレは軍団長の奥方であるワイローナ女史と別れを惜しんでいた。
「ワイローナ、何かあれば連絡をくださいね。何とか力になれるかもしれません。あと子供が出来たら遊びにきてちょうだい」
「クーデレ様……来年の工事が終わっても、必ず来ます」
すっかりお肌スベスベになってしまったワイローナ女史は最近は緊張で赤黒くなることも無くなったが、やはり嬉しそうに赤くなっていた。
こうしてニーバンメクライ王国正規軍 第2軍団の皆さんは越冬のために下山していった。
本格的な積雪に覆われるまでまだ少し暇があった。
ワーキミッチからの工事に関する返事がそろそろ届きそうだ、というその時にその報せはもたらされた。
「婿殿! 大変だぞ!」
「ダディ義父上! 今そこの温泉から出て来ませんでしたか!? いついらしたのかは聞きませんが、知らせぐらいは下さい!」
俺に声をかけたのは、バスローブ姿で片手にビールの空ジョッキを持ったクァーメンルァイダ侯爵である義父だった。
どのくらい大変なのかは非常に疑わしい格好だったが、俺は義父の話を聞くことにした。
「本当にすまんな。ここは居心地が良いもんだから。さっきまで温泉に入ってからビールを飲んで、上のテラスで涼んでからまた温泉に入って、今から別の銘柄のビールを飲もうと思ってたんだ。あそこにデカいトカゲがいるだろ? あいつに教えてもらったんだ」
途中に俺に対する『報せ』は一切入って無かったが、俺は努めて冷静に聞くことにした。
しかも聞き捨てならない台詞もあったが、それも今回は無視した。
「それで何が『大変』なのですか? 麦酒なら仰っていただければお運びします」
「何を言ってるんだ。カウンターに並んで買うのが良いんじゃないか? ここの醍醐味だぞ。婿殿は経営者として修行が足りてないな」
「これでも飲み物の種類を増やして努力しております。最近ではドナドナの乳に果実を潰した物を混ぜて出しています。受けが良いのですぞ。おーい、フルーツ乳を義父にお出ししてくれ」
俺の舅殿は出された『フルーツ乳』をゴキュゴキュ飲んで、口の周りを白くしてから言った。
「これ旨いな! しかも果実はそのまま入れてる奴と、干してから入れてる奴があるな。良い工夫だ」
実はこの商品の開発には部下のミーソニー・ツクダーニ・ミーズニー以外も参加して、かなり力の入った商品になっていた。
日持ちしないのがまことに残念でしょうがない。
乾物・干物についてはスペシャリストが部下の中にいるんだ、実はな。
名を『ホシター・シーオシオン・ドライフド』という。
郷里にいれば今頃は一流の生産者として名を成したであろうこの男が、なぜ俺のような『落ちこぼれ』の下にいてくれるのか本当によく分からなかった。
保存食の開発・製造にそそぐ情熱の絶えないこの男を俺は買っている。
義父の勢いに巻き込まれて忘れるところだったが、何か大変な『報せ』があったのではなかっただろうか?
「改めてお聞きしますが、何が『大変』なのです?」
「おお、それを言うところであったな。それがなハーネラレティ陛下がこちらにお越しになるそうだ」
ページの広告バナーの下に☆があります。
ログインユーザー様であれば☆をタップしてポイントを入れていただくことが出来ます。
入れていただいたポイントは作品内でストーリー進行に無理が無い程度に反映させていただきます。
作品に魅力を感じてくださった皆様方には是非ポイントの投入にご協力いただければと思います。
⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩




