作業進捗状況30 ワーキミッチへ行かないか①
俺は『ユアセイラ・ヒートコート・ヨケイジャロウェイ』。魔族だ。ダンマスをしている。
久しぶりなので名乗りから入ってみた。
スコッシホーレル山脈もいよいよ冬の到来を迎えていた。
騒がしい侯爵ズはとうとう帰って行った。
別れの際に義父とドゥーユ卿は抱き合いながら、今後うまい言い訳を考え付いたら絶対に教え合うことを誓って別れた。
ドゥーユ卿が祖父の著書を欲しがったので、不安だったが1冊づつ進呈した。
一番寒い時期だが天候は安定するので、本格的に冬が深まるまでの1ヶ月半程度の期間は安全だったりする。
それでこの短い期間に仕事しようというお客様も帰って来るし、懐かしの第2軍団の皆さんも帰ってくるわけである。
「久しいな、宿場長。我が家の風呂も良いんだがな、やっぱりこっちの広いヤツも忘れがたいのだ!」
もちろん新婚ホヤホヤのワロー・タナ・シェカラシカ軍団長も帰ってきて下された。
ついでに奥方のワイローナ女史もやって来ていて、とても幸せそうだった。
珍しくクーデレが出迎えに出た為に軍団の皆さんは一様に頭を垂れ、ワイローナ女史の手を握って嬉しそうにしているクーデレを見てウンウンと頷きあっていた。
因みに第2軍団の皆さんは結局のところ、俺のことを『ダンマス』とは呼んでくれず『宿場長』と呼ぶ者が多かった。
困ったことに『温泉施設長』と呼びたがる者もまだ居た。
彼らからすると俺はこの工事において軍団の輜重(補給のこと)に関わる幕僚であり、百人隊長相当であるらしかった。
取りあえずその件は置いておこう。
俺たちは人員と山ヨッコラをテントと厩舎に押し込んだ。
俺は食事の用意などを部下たちに任せて、ワロー軍団長夫妻の相手をクーデレと共に勤めることになった。
「お久しぶりですな、ワイローナ殿。以前に入れていただいたテントなのですが、受けが良いのでもう50程を仕入れたいのですがどうですかな?」
「テントは1張が3万デネイ(≒60万円)はしますよ。150万デネイ(≒3000万円)も払っていただけるのですか?」
「これでも『ダンジョン』の売り上げは良いのですぞ。もちろん即金で買いますとも」
俺は久しぶりに、酒保商人をまだやっているワイローナ女史に商談を持ちかけた。
こんな機会もあるとありがたい。必要な物資は早めに売ってくれる御人に頼むに限る。
しかしクーデレに窘められた。
「貴方、今日はシェカラシカ夫人はお客様なのですよ。ワイローナ、お茶をお持ちしますから寛いで待っていて下さい」
「奥方様、お気を遣われては困ります」
「まぁ、そう遠慮せずに。クーデレの好きなようにさせて下さい。実はご主人にも聞いていただきたい話があるのです」
ワロー軍団長が身を乗り出して聞いた。
「改まってどうしたのだ? まさかまたおヌシの副業の件ではあるまいな?」
「いえ、滅相もない。あれはもうやりません。今は特に危険ですから。今回は山間街道の敷設工事の件なのです」
「それか! 実は侯爵閣下から話は聞いている。奥方様とおヌシらでワーキミッチへの分岐路を作るそうだな。本格的な冬になったら我々はアナダラーケンまで引き上げて越冬する。おヌシらはその冬の間に分岐路を作るのだろう?」
「寒さについては人間より強いですから。ついでに腕力と理力で何とかなりそうではあるのです」
「分岐路が先に開通してしまうのも敵わんな。しかしまぁ好きにいたせ。辻褄合わせはもっと上がやるであろうよ」
そこでクーデレがお茶を持って戻って来た。
「主街道の工事もお手伝いいたします。軍団長殿はそれでよろしいですか? ムリスジー側が先で無ければお立場を失う御方もいらっしゃるかもしれませんし、祖国もその点は考えているようです」
「それは願ってもないお申し出ですな! 是非お頼み申す」
実は昨日に義父がやって来て、外交部から正式に依頼があったことを伝えた後で、温泉で酒を飲んで帰っていった。
自宅の物置小屋からここまで直通であるから別に問題は無いが、気がつくと普通に居そうで恐ろしかった。
地元の工事業者と、運営本部の許可は取ったことになる。
後は出口の地権者に話を通さねばならなかった。
「その件でクーデレとワーキミッチ伯爵にご挨拶にいってまいります。開通はムリスジー領の後でも良いと言っていただければ問題は何もないのですが……」
「宿場長は向こうの伯爵妃と知り合いなのであろう? 問題は無さそうだがな」
「ご主人の伯爵とは初対面なのですよ。祖国にとっては一応正式な外交ということにもなりますが、何しろ遠隔地ですから。圧力も何もありません」
「ユアセイラ、それは先方のご意見を伺ってからで良いではありませんか? それよりワイローナ、温泉に入ってからお食事にしませんか?」
「ではお言葉に甘えて、そうさせていただきます。ワロー、貴方はどうされます?」
「俺も風呂にと言いたいところだが、部下たちの面倒も見なくてはならん。宿場長、付き合ってくれ」
久方ぶりの大人数だった。
今回はテントの間で『焼き肉』をやることにした。
地下3階から焼き肉の道具を250セットも持ち上げてきた。
1セットを10人で囲むわけだが、食材もカットして出さないといけない。
ミーソニー・ツクダーニ・ミーズニーという男の職能が爆発していた。
「ミーズニー、何とかなりそうか?」
「ダンマス。もう、慣れたモンですからね。そこはご安心を」
「足りない物があったら、俺かバナンデスかネイデスかオッサンダロに言え。ガーデネイの場合は紙に書いてくれ」
「さすがにガーデネイには言いませんよ。それと奴は後ろにいますよ」
「…………」
俺はギョッとして振り向いた。冗談だったかと思いかけたが、本当にそこに居た。
俺の『気配察知』は万能では無いとは言え、流石はガーデネイだった。
「ガーデネイ、仕事サボってるよな……」
「………… (゜゜)(。。)(゜゜)(。。)」
「頼むからバナンデスのところに行って、食材配るの手伝ってきてくれ」
ガーデネイは何となく「失敗した」と顔に書いてあった気がしたが、頷くと素早く消えた。
どうしても移動先が見えなかった。
奴の親父もおっかない上に母の右腕だが、いずれ会いに行かないといけない。
「隊長! チョット イイデスカ?」
「バカ野郎! 厩舎の前でそれを言うな!」
「わー、何だお前らー!?」
多分新入りだと思う。
彼らはきっと山ヨッコラに押し潰されそうになりながら、一人前の兵士になるのだろう……。




