欠落王女の光
短いです。
リリーとリュークが結婚してから一年後、リリーが妊娠した。
彼女は、だんだんと大きくなっていくお腹を見て、子供が育っていくのを感じ取る。
お腹を蹴るほど動き回り、やがて落ち着いていき・・・
「おめでとうございます! 男の子ですよ!」
産婆がリリーに言い、外に待機していたリュークも入ってきて喜ぶ。
「ありがとうリリー、すごく元気な子じゃないか!」
リリーは、産まれたばかりの我が子を抱いて、じっと見る。
「リリー?」
「リューク、すごく嬉しい」
顔をあげたリリーの瞳は、キラキラと輝いていた。
表情は動いていないものの、目を見て嬉しいのだろうとすぐにわかった。
「目に光が! やったなリリー!」
その言葉に、子供が産まれた時と同じくらいの喜びが溢れた。
そして、それに感激して涙を流すのは、再結成された暗殺集団。
彼等は、城の暗部を誰にも気づかれずに制圧し、出産の場に影から立ち会っていた。
もちろん、リリーは気づいている。
「皆喜んでくれる。これからも頑張りましょう、リューク」
「リリー・・・もちろんだ! 女の子も欲しいからな」
次の懐妊はそう遠くないだろう。
「よし、間に合ったな」
「まさか魔の森まで行ってシルクスパイダーを狩りに行って、さらにベビー服を手作りすることになるとは・・・けど、これは最高の贈り物になりますね」
「仕方ないだろう、シルクスパイダーは魔の森にしかいない魔物だし、だが奴からとれる糸からは最高級品の布ができる。これでリリーの子供にいい品が出来たぞ」
「苦労したかいあったなリーダー!」
暗殺集団の仲間達は口々に言う。
彼等は、リリーが出産する前までにベビー服を作ろうと計画していた。
使う素材は、サーガナガラの隣国、つまりはリリーの故郷である、セントラール王国内にある魔の森に生息しているシルクスパイダーという珍しい魔物。
その魔物の糸を使う。
シルクスパイダーの糸からできた布は、耐久性、通気性、吸水性に優れ、見た目も美しい最高級品となる。
王族ですら、その布を使ったものは手に入りにくいと言われているものであった。
なので、リーダー達は、だったら狩りに行こうということで、上級冒険者ですら足踏みする魔の森の奥地へと入っていったのだった。
時間はかかったものの、なんとか入手することができた。
服飾のプロに依頼して布にして、ベビー服にしてもらったのだ。
色々下処理もあるため、できるまで、これまた長い時間がかかったが。
「よーし、冒険者ギルド経由で贈るぞ。それなら怪しまれまい」
そうして、いくつかの最高級品ベビー服を正規手順にて贈ったのだった。
「なぁリリー、この赤ちゃん服どうしたんだ? これ王家ですら入手が限られるほど貴重なシルクスパイダーの布で出来てると思うんだが」
「私を保護してくれた冒険者の人からです」
「あぁ、Aランクの・・・まぁ、高ランクの冒険者なら入手できる可能性はあるな」
「ほら、とても気持ちよさそう」
シルクスパイダーの糸で出来た服に身を包んだ赤ちゃんを見て、リリーは言った。
「その冒険者には、近いうちに礼をしなければな」
「これからもっと増えるだろうけど」
「なんか言ったか?」
「いいえ、きっと喜びます」
呟いた言葉は拾われずにリリーはごまかした。
その彼女の言葉通り、ギルドを通して贈り物が届けられる事になる。
基本アホばっかです。
奴らは影から見守り続けます。