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noblesse;oblige  作者: 夏桜羅(原案・設定協力)、雪羅(原作・執筆担当)
第3章 騎士 -oath of sword-
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騎士 -oath of sword- 09

「双剣……使い……」


 驚愕がつぶやきとなって、アルカンシェルの口から漏れた。

 会場の人間、それどころか、ザビーナですら知らなかったのか、そこかしこから驚愕し息を呑むのが聞こえる。

 しかし、それに言葉を返すシャルロットの声は平坦なものだった。


『いえ、それほど上等なものではありませんよ。私は、勝手に『二剣(にけん)』と呼んでいますが』

「……?」

『私は、ジェラルド様の『双剣』をものにできるほどの騎士ではありませんでしたから。これは、教えていただいた基礎を元に、作り上げた謂わば、贋作です』

「どういう意味だ?」

『本物を知る貴方なら、剣に尋けばすぐにわかることでしょう?』

「……だろうな」

『これが私の全力。ザビーナ様に挑むというなら! ジェラルド様の弟子であるのなら! 見事受けて見せなさい!』


 裂帛の気合いを込めて、吶喊する〈ファルシオン〉。アルカンシェルの〈エクエス〉も答えるように突っ込んでくる。ここで退かぬ精神(こころ)の強さ。アルカンシェルは確かに本物だ。

 〈エクエス〉が打ち出した騎士盾(ナイツガード)を、逆手に持った左の剣で受け流し右の剣を振るう。

 騎士剣(ナイツソード)同士がぶつかり、削れた刀身が悲鳴をあげる。

 だが、『二剣』はここでは止まらない。

 左で切り上げ、剣を弾く。続けて、しゃがみこむようにして右で中段に薙ぎ払い。盾に受け止められる。同時に〈エクエス〉の繰り出した剣を左の剣で弾く。さらに、弾いた勢いで回転しながら、剣で薙ぐ。

 幾度となく互いの位置を入れ替え、幾度となく剣をぶつけ合う。

 それはまさに、舞い踊る蝶の如き華麗な剣舞。シャルロットが舞台の主役(プリマ)なら、さしずめ、アルカンシェルは、共演者(バックダンサー)と言ったところか。

 〈ファルシオン〉の止まらない攻勢に、アルカンシェルの〈エクエス〉は徐々に対応が遅れ、打たれるたびに押し込まれていく。

 決着の予感に観客が沸き立つ中、攻め込まれるアルカンシェルと、攻め手を休めないシャルロットはあくまで冷静だった。


「なるほど。左は捌き手か」

『気付きましたか』

「もし、『双剣』なら、俺はすでに負けている」

『……でしょうね』


 そう、シャルロットの『二剣』は、二本の剣を使う点では、『双剣』と同様だが、その使い方が違う。『双剣』は反撃すら許さないまさに怒涛の如き剣戟の嵐であるが、『二剣』は違う。

 逆手に持つことで、グリップを固めた左手を捌き手として起き、右の剣は常に攻撃を行うことで、相手の反撃を的確に捌きつつ、形を変える水の如き変幻自在の攻めを可能とする。これが『二剣』。

 確かに、『双剣』ではない。だが、ジェラルド・カルティエという騎士が振るう剣技の血脈を確かに受け継いだ剣技である。


『ですが、『二剣』でしかない私でも、貴方を降すことはできる』


 会話をしつつも止まなかった剣舞が、対応の遅れた〈エクエス〉の盾を弾き飛ばす。


『終わりです』


 宙を舞った盾が地面に落ちるより早く、二剣が閃き、〈エクエス〉を斬り伏せる。しかし、〈エクエス〉は一本の剣で、二剣を同時に受けるという荒技で、それを凌いでいた。

 両手持ちにした騎士剣(ナイツソード)で、二剣を受け止める〈エクエス〉だが、ぎりぎりと押し込まれていく。ここにきて、第二世代機である〈エクエス〉と、最新鋭機である〈ファルシオン〉の出力差が顕著に表れていた。


『凌ぎますか……ですが、これで終わりです』

「どうだろうな?」

『……盾を失った今、一本では私の『二剣』は捌けない。勝ち目はありませんよ?』

「…………」


 アルカンシェルは答えなかった。ただ、獰猛に笑んだだけだった。

 剣を押し込む感触が不意に軽くなる。〈エクエス〉が力を緩めたのだ。

 諦めたのかと一瞬疑ったが、しゃがみこんだ〈エクエス〉が、剣の下に潜り込むようにして足払いをかけてきたのを見て考えを改める。

 〈ファルシオン〉が足払いを避けて飛び上がると同時に、二方向からの衝撃に耐えきれなくなった騎士剣(ナイツソード)が砕け散る。

 破片が飛び散る。その脇を〈エクエス〉が前転しながら走り抜けた。

 〈ファルシオン〉と〈エクエス〉が至近ですれ違う。その瞬間に、シャルロットは剣を振るう。だが、空中ではうまく力が入らず、肩の装甲を掠めただけに留まった。

 着地と同時に振り返り、武器を失った〈エクエス〉に切り込む。だが、いつの間にか、その手には騎士剣(ナイツソード)が握られている。腰に佩いたそれではない。

 だとすればその剣はーー


『まさか……誘導したというのですか……!』


 そう、あの攻防の時に投擲した剣だ。アルカンシェルは押されながらも、剣が落ちた場所まで戦域を誘導したのだ。剣の位置を把握する空間把握能力。そして、それを実行に移す胆力。どちらも驚異的だ。

 突き出した剣が、〈エクエス〉のそれに弾かれる。だが、『二剣』の有利は揺るがない。まだ、〈エクエス〉は片手にしか剣を持っていないのだから。

 いや、ならばなぜ、アルカンシェルはわざわざ剣を拾った?

 耐久に限度が来ていたのは事実だが、まだ腰に一本残していたにも関わらず、わざわざもう一本剣を拾った理由は?

 刹那の思考。だが、追撃の剣はもう出ている。もはや止めるには振りすぎている。

 そしてそれは一刀のもとに振り払われ、防がれた。抜きうちに(・・・・・)払われた(・・・・)左の剣(・・・)によってーー


『……!?』


 驚愕に息を飲んだシャルロットだったが、動きを止めなかった。思考停止はすなわち敗北を意味する。

 合計4本の剣が絡み合うようにして舞う。上段中段下段それぞれに剣が繰り出され、弾かれるのを繰り返す。わずか数秒。その間に、恐ろしいほどの手数を交換した二機は、〈ファルシオン〉が弾かれることで、距離を開けた。


『……双剣使い、ですか』


 ほんの数合打ち合っただけで分かった。自分のような偽物ではない。アルカンシェルのそれは本物の『双剣』だ。

 常に両の手の剣は動き続け、その手を休めることを知らない。剣の嵐に飲み込まれたかのような圧倒的密度の剣戟。まさに疾風怒濤。

 この剣こそ、かつて憧れを持って見た、真の『双剣』。そして、彼こそが、真の『双剣』の継承者。

 自分にはなれなかった、届かなかった存在が目の前に立っている。

 アルカンシェル駆る〈エクエス〉は、逆手のまま握られていた騎士剣(ナイツソード)を手首を返してくるりと回転させ、空中で順手に持ち替える。

 そして、アルカンシェルは薄く笑った。久方ぶりの強敵に気が高ぶっているのだろうか、どうも落ち着かない気分だった。

 もちろん、雑魚ばかりでは腕が錆びついてしまう。円卓の騎士(ナイツ・オブ・ラウンズ)に挑むには良い余興だろう。

 しかし、それだけではない。強敵と打ち合うこの精神(たましい)の昂り。彼の心を占めるのは純粋な闘志。そう、彼は楽しんでいた。珍しく、本当に珍しいことに、彼は楽しいと素直に思うことができた。


『…………』

「……決着だな」

『……そのようですね。もちろん、最後まで足掻くのをやめる気はありませんが』

「そうか。なら、あんたの言う弟弟子の強さ、しかと刻め」


 わずかな硬直を破り、二機が同時に駆け出す。交錯は一瞬。そのわずかな間に驚くほどの数の剣戟が交わされ、二本の騎士剣が宙を舞い、くるりくるりと妙にゆっくりと回転し、地面に突き立った。

 両手の剣を振り抜いた形で静止している二機だが、決定的な違いがあった。

 〈エクエス〉はその手に剣を握っているが、〈ファルシオン〉の手には握られていない。剣を弾かれたのは、〈ファルシオン〉の方だったのだ。


『……やはり、ですか』

「どうする?」


 厳密に言えば、剣を失っても負けではない。しかし、シャルロットは乾いた笑いを返しただけだった。


『完膚なきまでに敗北して剣を取るのは、今は無粋でしょう?』

「だろうな」

『私の負けです。鍛えなおさねばなりませんね。私も……』


 対戦結果が放送され、アルカンシェルが決勝に進出したことが大袈裟に告げられる。そんな中、互いの機体を降りた二人は握手を交わすでもなく、互いの健闘をねぎらうでもなく、視線をぶつけ合っていた。

 そして、ふと肩にの力を抜くと、アルカンシェルは背を向けた。


「じゃあな。シャルロット・フランソワ。なかなか楽しめた」

「ええ、ではいずれ、再び剣を交える日まで」

「ああ」


 シャルロットは、彼への敬意を込めて、騎士の礼をその背中に送った。


準決勝第一試合、決着。

戦闘シーンは可能な限り詳細かつ丁寧に描写しているつもりなんですが、どうでしょうか?


気が付いたら、50話突破、ユニークアクセス1000人突破。

まあこのサイト的には些細なレベルなんですが、ここまで続いたのが単純に嬉しいです。

どうも途中で止めてしまうパターンも多くて。

単純に大学生になって時間に余裕ができたとも言いますが。

いつも見てくださってる方、改めて応援ありがとうございます。

感想等あれば、待ってまーす。


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