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 この学校は真夜中に始まる。月明かりが照らす街中に、二つの動く影があった。


「おそよーう」

「おそよう」


 クロは学校への道で学友のソラに会い、挨拶を交わした。


「相変わらずキミは黒いねえ」

「相変わらずって何だよ。黒猫なんだから黒から変わりようがないだろ」

「ハハハ。そりゃそうだ」


 クロは呆れた顔をした。茶猫のソラはだいたいがこの調子で、話の内容はいつも適当だ。


「それより、最近あまり学校に来なかったがどうしていたんだ?」

「旅行に行ってたんだよ。家族が」


 ソラは家族がの部分に力を入れる。その態度にクロはすぐに気が付いた。


「ああ、置いて行かれたか」


 クロの予想は当たっていたようで、ソラの顔がぶすっと不満そうに変わる。


「一週間もホテルに預けられたよ。家族なんて聞こえはいいが、結局俺らは置いて行かれるんだよな」

「しかたがない。俺らは猫だ」

「そうだな、俺らは猫だ」


 二匹の猫は暗い夜道を歩く。周りは塀のある二階建ての一軒家が多く、十二時をとうに越えた今は、電気の付いている家もほとんどなく静まり返っていた。猫達の学校はこの住宅街の一画にある。


「あら、なあに? 辛気臭い顔しちゃって」


 塀の上から細い身体をしならせ軽やかに白猫が下りてきた。住宅街一の美人猫、モモだ。


「やあ、モモ。今日も可愛いね」

「ありがとう。久しぶりだけど、変わらず元気みたいね」


 慣れたソラの褒め言葉をスルリとかわし、モモはクロの隣に並ぶ。


「おそよう、クロ」

「おそよう。今日はレオンと一緒じゃないのか?」


 レオンはモモの隣の家で飼われている猫だ。茶と黒のまだら模様のブチ猫で、いつもモモと一緒に登校していた。


「家の悪ガキにイタズラされて、外に出られないって言っていたわ」

「またか」


 レオンの家には五才の男の子がいる。その男の子はイタズラが大好きで、よく標的にされるレオンは、イタズラの度に無残な姿にされ学校を休んでいた。


「哀れレオン。なーむー」

「ちょっと、ソラ! ふざけないでよ!」


 モモがソラに牙を見せて唸る。

 モモは美人だがケンカも強い。モモの気迫にソラがひゃあと首をすくめた。


「最近は寝ているところを狙われるから寝不足だって言っていたわ」


 牙をしまい、モモはクロと会話を続ける。


「寝ているところを狙うだなんて、とんでもない悪ガキだな」

「ホントにそうよ。だから今度、見張って弱みを見付けようと思っているの」


 モモは鼻息荒く宣言する。


「まあ、ほどほどに」


 モモなら悪ガキを泣かすまでやり返すに違いない。

 三匹で歩きながら話を続けていると、段々と他の猫達も集まり始めた。学校の場所までもうすぐだ。

 他の猫達と挨拶をしながら、信号のない小さな十字路を右に曲がる。ここから先は、雑居ビルが多い。左側には雑居ビルに挟まれた路地があり、そこに猫達は入って行く。子供一人がやっと通れそうな狭い道だ。路地に転がる空き缶や、紙袋のゴミをひょいひょいと避けながら、クロ達は奥へ進む。

 路地を抜けると、そこには雑草がところどころに生えた、広い空地が広がっていた。空地は窓の少ないビルに囲まれ、人間に見られる可能性は限りなく低く、猫が集まるにはうってつけの場所だった。

 空地にはすでに数十匹の猫達が集まっている。空地の中央に丸くなるように座っており、そこにクロ達も加わった。

 猫の顔ぶれはクロも知っている近所の猫から、今までに一度も見たことがない猫と様々だ。猫の学校は受けるも受けないも自由。誰が来てもいいし、旅の途中の猫が寄ることもある。多種多様な猫が集まるので、猫達は学校が始まるまで、知らない話を聞く為にお喋りを興じていた。

 しばらく、集まった猫達でガヤガヤとうるさく喋っていたが、どの声よりもはっきりと聞こえる一鳴きで、空地がシンと静まり返る。


「そろそろよろしいかな?」


 目が隠れるほどの長毛の太った白猫がいつの間にか現れ、皆の前に置かれた二段重ねの段ボールの上に、重さを感じさせない身軽さで上る。その猫が段ボール上でまた一鳴きすると、それに合わせて空地にいる全ての猫が鳴いた。

 猫の学校が始まる合図である。


「長老。今日は何の授業をするのですか?」


 一番前に座るまだ若いトラ猫が、興奮気味に質問をした。長老と呼ばれた白猫は、ゆっくりと腰を下ろしふうと息を吐く。


「今日はねだる授業をしようかの」


 猫達がザワザワと騒がしくなった。


「長老。ねだることなら僕達は毎日していますが」


 若いトラ猫が皆の戸惑いを代表して言葉にした。ねだるのは猫達の日常だ。


「……甘い!」


 一喝とともに長老の隠れていた目が現れ、カッと見開かれた。


「ねだるとは奥が深いものである! お主等のねだり方はまだまだ半人前じゃ!」


 長老の言葉にまた場が静まる。


「まあ、とりあえず、やってみようかの。あれをここへ」


 長老の合図に三匹の猫がマネキンを台車に乗せ、デコボコの地面の上をガタガタと騒がしく運んでくる。長老の横で止まり、台車からマネキンを三匹がかりで降ろす。降ろすというより、もはや倒すと言った方が正しいだろうか。広い台の上に横倒しにして台車から移すと、今度は三匹がかりでマネキンをヒイヒイ言いながら起こし、用意が終わった。

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