尊健の場合2
翌日、宣誓通り、健は最寄りの神社に向かっていた。
特に何が祀られているかは知らないが、助けてくれた同輩に伝言ぐらいお願いしようというわけで。
「いや~、昨日実はさあ」
自撮り棒を片手に街を歩く。
いわゆるダンジョンというものがこの世に現れたとき、多数の配信者があらゆる配信プラットホームで配信を行い、少なくとも8割が散っていった。現世から。
その現状を鑑みて、政府が既存フォーマットの協力を得て新たに配信プラットフォームを立ち上げた。
それがいま彼が使っている「探索者用配信サイト」である。
まあ、ネーミングセンスはお察しである。
「マジ、走馬灯なのか、わかんないんよね。パニックになっててどこからが現実かわからんくなっててさ」
昨日の出来事を冗談半分に話す。
多分現実ではあるとは思っているが、生きている以上、何かしらの走馬灯に近しい何かだと思ってしまう。
『左手首欠損してたんだろ? で、今どっちの腕で持ってるのさ』
「いやまあ、左手だけどさ」
高々10人くらいのうちの1人がコメントをして、応答する。
弱小配信者のさだめだ。
『今左手があって、生きてるならパニックによる幻覚だろ』
「それが安パイだよな」
この話題を繰り返しながら、神社へ到着した。
石なのか、コンクリートなのかわかりかねる色をした鳥居を、参道の端を通り、くぐった。
なぜか心臓が跳ねる。
近所の住宅地にあるがゆえにそれほど大きな神社ではなく、ほんの数十メートル歩くと本殿へ到着した。
何があったかわかりませんが、なんとなく神様のおかげで助かった気がします。
ありがとうございました。
二礼二拍一礼ののち、お礼を放つ。
しばらくそのまま目をつぶったまま、手を合わせている。
ふう、っと息をつくと財布を取り出し、千円札を賽銭箱に入れ込んだ。
昨日討伐した分の三分の二ほどだ。
命の対価としては少ないが、まあいいだろう、と健は思った。
「さ、用事は終わったから、配信はここまでね。よかったらチャンネル登録もよろしく!」
そうして配信を終了し、もう一度一息ついた。
すっきりした。
踵を返し、境内から出る。
思えば今日は快晴、気持ちのいい日だ。
鳥居を潜り抜け、両腕を上に伸ばしながら、背筋も伸ばす。
うぅ、っと声にならない言葉が出た。
突如として、体に、すさまじい衝撃が走る。
なにが、と周囲を見渡すと4tトラックが正気を失い、鳥居をめがけて突進をかましているところだった。
体が軋む、衝撃を受け、皮膚、筋肉、内臓、骨が次々に異常をきたすのが、まじまじとわかる。
こんなにも時間が遅く感じるものなのか、と健は思った。
はねられた体はやがて重力に再び縛られた。それと同時に口から何かがあふれ出す。まるで鉄を吐き出しているようだ。
あまりの痛みに叫び声さえ出ない。
のたうち回る、馬鹿野郎が、前見て運転しろよ!
携帯、嗚呼、自撮り棒事どこかへ吹っ飛んだか、くそが。
轟音を聞きつけて近隣の人が出てきた。何人かは電話でどこかへ電話をかけている。
誰も近寄らない、そんなひどいのか?
「大丈夫ですか!?」
少女が話しかけてくるが、もはや声も出せない。
ゴロゴロと嫌な音が胸から聞こえる。
スマートウォッチのSOSアラームも聞こえてきた。
かすむ目、嗚呼、ここで終わるのか、昨日は助かったのに。
少女の肩をつかむ、死にたくない。
かすむ視界では少女の必死な顔、ではなく恍惚としているのが見えた。
ふと、心臓が冷える、そんな気がした。
「折角、昨日は助かったのに、かわいそう」
その表情とは裏腹に、出てくる言葉は健を憐れんでいた。
視界がだんだんと狭くなる。
なんで昨日のことを……?
「ああ、助けたのは私じゃない。まあ、奇特なやつよ」
まるで心でも読んだかのように少女は表情を変えずに話す。
そう、恍惚に見えたのだが、顔は悲痛なままだった。
彼女の雰囲気がそうしたのか。
心が冷える感覚がした。




