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沖田総司は ひとつ 言うことをきく

屯所の道場

 沖田総司は今日も明るく振る舞いながら訓練をしていた。

剣を振る声も軽く、返事もいつも通り。

――ただ、その顔色だけが、少しおかしい。


微妙に青白く、血の気が薄い。

それを隠すように、沖田はいつもより大げさに笑っていた。


「おい、総司。おまえ、ちょっとやばそうだぞ」


原田左之助が眉をひそめる。


「えっ? そう? 元気だよ! 全然平気!」


勢いよく返事はしたが、無理があるのは誰の目にも明らかだった。


その直後だった。

沖田の体がふらりと傾き、足がもつれる。


「総司?」


永倉新八が声を上げた瞬間、沖田は膝をつき、そのまま地面に崩れ落ちた。

顔色は一気に蒼白になり、額に冷や汗が浮かぶ。


「総司!?」


原田が駆け寄り、支えようとするが、沖田は軽く手を振った。


「……へいき……」


笑おうとしたその表情は、どう見ても歪んでいた。


「おい」

永倉が肩を掴み、顔を覗き込む。

「あちゃー、またアレだろ。顔色、悪すぎだぞ」


沖田は小さく首を振り、次の瞬間、口元を押さえた。


「……気持ち悪い」


体が小さく震える。

原田はため息をついて、ひょいと沖田を抱え上げ、背中をさすった。


「バカかお前。 エネルギー切れだな。

どうした? 食べそびれたか?」


「うん……失敗した。

……まだ持つと思って……」


沖田総司は細身だが、鍛え抜かれた身体をしている。

ただし、燃費がとにかく悪い。

食事を抜くと、てきめんに体調を崩す体質だった。


「まったく、 稽古まえに、饅頭一つ 口にすりゃすむことだぞ。」


「吐き気が来る前に回復すればいいが……

その顔色だと、やばいな」


斎藤一が静かに言った。


「うう……」

沖田は力無く うつむく。

「ほんと、ごめん、」


斎藤は何も言わず、沖田の肩に手を置いた。


「今晩の巡察は、代わってやる」


短く、それだけ。


「無理するな」




その後、沖田は皆に運ばれて部屋へ戻され、布団に横になった。

顔色はまだ青白いが、呼吸は落ち着いてきている。


そこへ、はちみつ水を持った市川鉄之助が現れた。


斎藤は、沖田の背中を支え、 ゆっくりと飲ませてやる。


そして

「じゃあ、これ、もらってくぞ」


斎藤は手慣れた様子で引き出しを開け、何かを取り出した。


「うん……よろしく……ありがとう」


沖田は弱々しく笑った。



 翌朝 

朝食の給仕をしながら 鉄之助はきいてみた。


「斎藤さん、沖田さんからもらった“アレ”って、何なんですか?」


斎藤はニヤリと笑い、何も答えない。


代わりに、原田がこっそり教えた。


「これだよ。俺も持ってる。

今日は俺が巡察代わるからな」


紙切れには、こう書いてあった。


《沖田総司・しもべ券》


「これを出すとな、総司が一つだけ言うことを聞くんだよ。便利だぞ」


「……命令書、みたいなものですか?」


「そんな立派なもんじゃねえよ。

まあ、持ちつ持たれつってやつだ」


「俺が二日酔いのときとか、代わってもらったりな」


原田はニカッと笑った。


「土方さんには内緒だぞ」


二人は声を殺して笑った。

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