65話 酔っ払い。木を切る。
エリーは意識を取り戻した後、ひたすら報酬の額について値下げを申し出ていたが、お察しの通り聖奈さんは引き下がる事はない。
報酬が高すぎて揉める事ってあるんだね…
「わかりました…仲間にもなりますし、お金も受け取ります。しかし失敗した時は煮るなり焼くなり好きにして頂いて構いません!」
「そんな事しないよ〜けど覚悟は理解したよー」
欲しいモノが手に入りニヤニヤした聖奈さんがエリーに返事をしたが…
エリー。多分煮るなり焼くなりの方がマシなくらいの恥ずかしい事をさせられるから、その提案は引っ込めなさい。
「それにセイくんのお金だから、何かするならセイくんだよ?いいの?
あの人、エリーちゃんの事を好きにしちゃうよ?」
「し、しねーよ!」
な、なんて事を言うんだ…そりゃエリーはアニメから出てきた魔法少女みたいに可愛いが、俺は純愛派なんだ!
童◯なめんなよ!聖奈!
「セイさんですか…わかりました。覚悟は出来ています」
「やめろ!!いらん覚悟するな!!」
ミランとは違い、エリーは紳士協定には触れない年齢だけど…見た目がな…よくて高校生くらいなんだよな…
職質真っしぐらだ。
色んな言い争い?があったが、エリーが仲間に加わった。これで出来ることが増えたな。
ちなみにギルだと通じないと思って、聖奈さんが金貨の枚数で伝えたが、ギルでも通じるそうな。
この国でも時々ギルで買い物をする人がいるとの事。両替不要なのはいいな。宿代とかは国境である程度纏まった額を両替した物を使っている。
手数料がクソ安かったのはそのせいか。
この近辺の国は帝国以外で通貨協定が結ばれていて、金の含有量が定まっているとのことだ。
俺的にも財布の中がごちゃごちゃしなくてありがたい。
これからの事は、まずエリーに車を見てもらうしかない。
持ってこれるかも不明だが、エンジンなどの動力は外してから持ってこないとな。
そこはプロの整備士に相談だな。
よくよく考えたらどう見てもオーバーテクノロジーだよな…プラスチック盛り沢山の、電気系統もたくさん…
聖奈さんに相談してみよう。
そんな事を考えていると話が纏まりエリーの家にこれから行く事になった。
仲良く水都を歩くとエリーの家に着いた。
「どうぞ。散らかっていますが」
いや、あんた片付けていたやん?
エリーが扉を開くとみんなで中に入った。
えっ?昨日の今日でこんなに散らかしたのか?
とはならず、片付けられた部屋が俺達を出迎えた。
「綺麗ですね。物はたくさんありますが、整頓されています。部屋は人をあらわすと言いますのでエリーさんのキチンとした性格が部屋に現れていますね」
「うん!魔女っ子の部屋は汚いか綺麗かの2択しかないけど、エリーちゃんは後者だったね!」
二人ともそれは間違いだ。エリーは汚部屋に住み着くドジっ子魔法少女だ。
まぁ、わざわざ言わなくてもすぐに正体はバレるだろう。それまでは誇張された綺麗好きを頑張って演じてくれ。
「いえいえ。今、持ってきますね」
エリーは扇風機もどきを取りに行ったようだ。この部屋は椅子が二つしかないからな。
勧める席がない。
「エリーちゃんは話に聞いていたようなドジっ子じゃないんじゃない?部屋も綺麗に整頓されてるし」
「態々言う必要もないが…あまり期待するなよ。多分手のかかる末っ子タイプだ」
あれ?それって俺の事では???
「じゃあ、慣れてるから大丈夫だね!」
やはり俺の事か…
そんな事を話しているとすぐにエリーは戻ってきた。
手には扇風機と言うよりはサーキュレーターの様な箱型のモノが。
「こちらです。中にプロペラが入っていてそれが魔力の動力で回転して風を生み出します」
おい!この世界にプロペラなんて概念があるのか!?この翻訳はどうなっているんだよ。
「ホントだ。構造はシンプルだね」
「はい。動かしてみますか?」
そう言うとエリーは箱を机に置いて、ダイヤルのようなモノを回した。
『ぶぉぉおお』
「おお!結構風量が凄いな!」
「うん!これなら可能性高いよね!ダイヤルの部分をアクセルにしたらそれだけで単純には動かせそうだし!」
俺たちは興奮して風をモロに浴びる位置に来ているが、ミランは少し怖がっている?
「どうしたミラン?気持ちいいぞ。こっちにこいよ」
「い、いえ。魔導具は誤作動で爆発するって聞いたことがあるので…」
それを聞いて俺と聖奈さんはすぐにその場を離れた。
「大丈夫です。それはデマですね。魔導具が壊れる時は部品の寿命か、破損によるもの、もしくは欠陥商品の場合です。爆発はしません。
爆発する可能性があるのは、属性が異なる魔法がかけられている魔導具の場合のみです。
これはあくまでも動力として魔石から魔力を抽出しているので、爆発はしません。あっても組み立て不良で……」
そう言うとエリーはすぐに魔導具を止めた。
「どうした?爆発しないんだろ?」
「どうしたの?エリーちゃん?」
顔色が悪いエリーを心配して聖奈さんまでも問いかけた。
「…プロペラの接合部が仮止めのままでした…少し異音がすると思っていたら、それでしたか…」
「なっ?」
俺は得意げに聖奈さんにエリーの性格についてドヤ顔をした。
「ドジっ子魔法少女…」
おい!趣味に刺さってんじゃねーよ!
「あっ!そうでした」
「どうしたミラン?」
普段喋らないからミランが話すと気になるな。
「そろそろ木材が不足しそうだと言ってましたので追加に行きませんか?」
「それは大事なことだな。聖奈。エリーとの事は任せる。俺はミランと行ってくるよ」
俺は聖奈さんにエリーとの話し合いを任せて、ミランと共にエリーの家から転移した。
side聖奈
「どこに転移したんですか?」
きゃーフリフリのワンピースを着たドジっ子魔法少女が喋ってる!!
これは現実なのかな?夢なら覚めないで!!
あっ!私に話しかけているんだった。
「ミランちゃんのお父さんの仕事場だよ。家具を作っている工房で、材料の木材が少なくなってきていたから木材集めに行ったの」
「エンガード王国でしたよね?転移魔法って凄いんですね…」
「あれはセイくんの桁外れの魔力がなせる技だと思うよ?
エリーちゃんも転移魔法使えたんだよね?多分移動距離や運ぶ重量で、使う魔力の量が違うはずだよ。
セイくんにとっては微々たる量でわからないって言ってたけど、何も制約がないわけないからね」
聖くんをベースに考えて落ち込まないで!!エリーちゃんはとても凄い才能があるんだから!!
その後、私達は車について意見の交換を行ったんだけど…
やっぱり異世界人って急に言われても信じられないよね。って思ってた私はなんだったんだろう…
エリーちゃん。もう少し人を疑おうね。
side聖
「お疲れ様です」
俺は工房にいたバーンさんに声をかけた。丁度休憩中だったのかダンさんと一緒に談笑していた。
「おお!セイくん。ミランもよく来たな。材木の補充か?頼むよ」
「みんな作業が早くて丁寧でこっちの肩身が狭いぞ」
バーンさんはミランに会えて嬉しそうだ。もちろん頻繁に帰らせているから久しぶりではないんだけど、父娘とはそういうモノらしい(聖奈さん談)
ダンさんはこっちの職人の腕に舌を巻いているようだが、それがパフォーマンスな事は付き合いが短い俺でもわかる。
彼は口でそう言っても、心の中では燃えているタイプだ。
「それは勉強になって良かったのではないですか?
バーンさん。そうです。これからいつも通りに木材を運びますので、近寄らないように気をつけてくださいね」
ミランは工房には入らずに手を振っていただけだった。
俺たちは工房を出たら隠蔽工作をした川にほど近い場所に転移した。
「じゃあいつも通り始めるから、護衛兼見張りを頼むな」
「はい!ネズミ1匹見逃しません!」
いや、ネズミは見逃してあげてね。
なんかミランは俺と二人だと張り切るんだよな。
聖奈さんと二人の時もなのかな?
普段も会話に参加してくれたら良いんだけど。大勢だと途端に静かになるんだよな。
ミランの言葉に苦笑いで返した俺は森に生えている木に向かう。
転移した場所の周りはすでに収集済みで森にポッカリと穴が空いているような感じになっている。
「ウインドカッター」
俺が発動させた中級の魔法により大木が半分くらい切れた。
木こりの作業でウインドカッターを使いまくったお陰で、この魔法は呼吸するように使える。
数撃ったら、俺でも中級魔法なら簡単に覚える事が出来た。
「ウインドカッター」
もう一撃少し角度を変えて放つと、大木は轟音を上げて倒れた。
その作業を三十本程行った。
「じゃあこれから転移で運ぶから見張りよろしくな」
「はい!頑張ってください」
その言葉通り、これからが苦行だ。
流石に一度で運べるのは1本、良くて2本の為、かなりの数を転移しなくてはならない。
詠唱だけで1時間以上…苦行が始まった。




