64話 エリー買収計画。
俺はエリーを誘うつもりはなかったんだけどな。何せほとんど知らないのはこちらも同じだし。
まぁ、悪い子ではないと思うが。
ミランの時も急だったし、聖奈さんは直感で決めるところがあるよな。
間違えたこともないから今回も大丈夫だろうとは思うけど…
「…」
「まぁ、悩むよな。とりあえず時間はある事だし、保留でいいんじゃないか?」
「そうですね…。では明日の朝にまた来ます」
「あれ?エリーちゃんはデザート食べないの?」
エリーは聖奈さんの言葉に目を見開いた。
「今日はミランちゃんの好きなプリンアラモードだよ」
「ホントですか!?やったぁ!!」
俺達の心のリーダーミランが幼児退行してしまった。
「ぷりんあら?なんですかそれは?」
「甘くて滑らかで美味しいよ!食べるでしょ?」
聖奈さんの説明にエリーは首が千切れんばかりに頷いた。
転移で家から買い置きのデザートを持って戻って来た。
「な、なんですか、これは…」
エリーは見た目に慄いていた。恐らくゼリーすらも存在しないこの世界の人がプリンアラモードをみたら不思議に思うだろうな。
「さっ!食べて食べて!」
聖奈さんは餌付けに夢中だ。これでエリーも断れないだろうな。
女性にとって甘味の魅力は抗えないって聞くし。
賑やかな女性陣の横で酒の魅力に抗えず、晩酌をしている俺は、エリーの気持ちを理解できているはずだ!
欲しいものは欲しい!エリーアキラメロン!
翌朝、宿の朝食の時間にはきっちりエリーが来ていた。
朝のデザートに釣られたな…しかも初めて見るブリブリの魔法少女の格好だ。
エリーさん。プライドはどこに忘れて来たんだい?
聖奈さんに写真を撮られまくってるけど、何をされているのか知らないからそんな顔が出来るんだ…
きっと後で後悔するぞ…
「こ、これが金鍔なる、お菓子ですか…」
エリーの朝食代を追加で支払い、四人で頂いた後、部屋へ戻り聖奈さんが淹れてくれた緑茶と共に金鍔を食す事に。
「私も初めて見ますね。これはどうやっていただくものですか?」
ミランさんはデザートの研究に余念が無い。
「袋をこうやって破いて、袋ごと持って手で食べるんだよ」
幼稚園の先生みたいに聖奈さんが見える…
うちの園児達は口を開けたまま聖奈さんの動きをトレースしていく。
ミラン。涎が落ちたのは見なかった事にしとくよ。
「なんれすっ!?これ?!」モグモグ
「くりょいのに、あまいれす!」もぐもぐ
食レポがしっかりしているのがミランだ。二人は初めて食べるお菓子に夢中で、目を輝かせている。
聖奈さん。動画を撮るのはやめてあげて…
「美味しかったです!昨日のとは趣きが違いますね!この緑の飲み物と合います!」
「エリーさん。これは緑茶というお茶の一種らしいですよ」
「これがお茶…紅茶以外にもあるんですね」
どうやらエリーはお茶と和菓子のコンビを気に入ったようだ。
園児達は二個づつ金鍔を食べた。保護者は一つづつだ。
「それで聖奈はこの後どうするんだ?」
俺はこれまで通りエリーで魔法の実験かな。
「実はどうするかまだ決めてないの。まずはエリーちゃんに話を聞いてからと思って」
「ん?何を聞くんだ?」
「学園の事だよ。部外者でも入れるのかとかかな」
ああ。すっかり忘れてたわ。
聖奈さんの異世界好きは筋金入りだなぁ。
「学園ですか?私はそこの卒業生ですから答えられる事には答えますよ?
まず部外者は入れません」
エリーは卒業生だったのか。もしかして
「学園を卒業しないと魔導士になれないのか?」
「100%そうではないですが、概ねその認識で間違いはないです。例外は他国からの優秀な魔法使いの引き抜きとか、ごく稀に出てくる検査を受けなかった大人の方とかです」
ちなみに部外者は入れないと言われて聖奈さんはフリーズしている。
「検査?」
「はい。この国では10歳になると『魔力検査』があります。
具体的な仕組みはわかりませんが、二本の線を左右の手で握ると自身の魔力量が測れるものです。
その検査で国、魔導士協会の定める数値以上の魔力量を持っている人は無償で学園に入れます」
「数値ってそんなに具体的に測れるのか?」
この世界にそこまでの物があるのか?
「はい。国をあげての長年の研究の成果らしいです。門外不出の技術らしく詳細は魔導士協会会長でも知らないとの噂です」
「なるほど。どれだけこの国が魔法使いに固執しているのか、わかった気がするよ」
ナターリア王国、通称魔導王国。この国は威信を掛けて魔法に力を入れているのは情報通りだったわけだ。
「ちなみにその検査ではエリーはどれくらいの成績だったんだ?」
「よく聞いてくださいました!私は同学年で最も魔力量が多かったのです!」えっへん!
無い胸を逸らしながら大層自慢げに答えたが…
俺の方が遥かに多いのはまだ話さないでおこう…
折角の自信がなくなったら仲間にならないかもしれない。そうなると聖奈さんが面倒臭い。
「それはさぞ優秀だったんだろうな」
褒めづらいから濁した褒め方になったが…エリーの表情は浮かない。
あれ?間違えた?
「私、少しおっちょこちょいなんです」
いや、十分ドジっ子魔法少女だ。これ以上属性はいらないぞ?
「学園での授業の成績は…聞かないでください…」
多分魔力量が多くて、他の生徒や教師の言うことが理解しづらかったのかもしれないな。
俺も多いからわかるぞ!
後、ドジだし…
「気にするな。学生の時は失敗出来るのが学生の良いところだろ?
これからそれを教訓にすればいい」
「また良い事言ってるし…」ボソッ
聖奈さんが意識を取り戻して何事か呟いていたけど、俺は難聴系主人公だから聞こえなかった。
「それで聖奈の方はどうだった?」
「うーん。それがあんまり芳しくないの…良い魔導具職人さんがいたらいいんだけどね」
「魔導具職人さんですか?どう言ったご相談です?」
あれ?順調そうだったのにな…
しかしエリーがいるから情報には困りそうに無いな。
ドジだが勤勉そうだしな。
「魔導具で動力源を作って欲しいの。かなりの力が出せて、それでいて出力の調整が可能なやつなんだけどね」
「うーん。強い力ですか…弱い物であれば…」
「えっ?何か知っているのか?」
何かヒントが出そうだった為、思わず口を出してしまった。
「私が以前作った物が風を送る道具なんですけど、力が弱いんですよね。調整出来て、暑い夏には売れると思ったんですけど…」
それはまさか…
俺が聞く前に聖奈さんが
「それってプロペラを回すものかな?」
「そうですそうです!あれ?ご存知でしたか?試作品と合わせて三つしか作ってなかったんですけど…」
扇風機や…でもなんで売れないんだ?この国は割と暑い方なのにな。
「どうして売れなかったのかな?」
「すでに既存の風魔法の魔導具があるので、二番煎じじゃ売れないようです。
結構お金かけたのに…」
調整が出来る扇風機ならもしかしなくとも…
「エリーちゃん。いえ、エリー先生!」
「は、はいっ!?」
「是非仲間になってください!」
うちにとって初めてのエンジニアだ。電気ではなく魔力だけど。
この世界の人がエリーの才能を活かせなくとも、俺たちならエリーの才能を活かせる可能性がある。
「あの…実はその話はお断りしようと思っています」
「えっ!?なんで!?」
「やはり多額のお金を仲間とは言え、無償で出してもらうのは違うと思うんです。
ごめんなさい」
エリーはそう言って頭を下げたが…もう遅いぞ…
聖奈さんから逃げられると思うなよ。
俺もミランも逃げられなかったんだぞ!後、ミランパパも…
「じゃあこうしよ!エリーちゃんは仲間ね!」
いや、端折りすぎっ!!
「で、ですから…」
「お金は払うよ」
「いえ、貰えません!」
「技術者としての給料だよ?それでもダメなの?」
狼が獲物を追い込んでいくような錯覚が…
狼は群れだけど…それくらい言葉の数に差が…
「えっ…技術者…?」
「そう。私達がして欲しい研究をエリーちゃんにしてもらって、それでお金を払うの。だからあげるとか貰うとかじゃないよ。
こっちは払わないといけないし、エリーちゃんは給金を受け取らないとダメだよね?」
「しかし…失敗が多いので…予算どころか生活費もないですし…」
「失敗しても払うよ?当たり前でしょ?それにこっちはエリーちゃんの技術者の能力を買うんだから、予算もきっちり出します」
エリー。残念だけど逃げ場はないぞ。
俺はエリーから向けられた視線をそっと外した。
ミランも…
「わ、わかりました…先立つ物がないのでとりあえず大銀貨3枚ほど預かりますが良いですか?」
ようやく逃げられない事を悟ったようだ。
人生諦めも大事だぞ。
「何言ってるの?セイくん」
「はい!」
呼ばれた俺は魔法の鞄から袋を取り出して、聖奈さんに渡した。
「とりあえずエリーちゃんに作って貰いたいのはさっき言ったからわかるよね?
それの製作費と研究費が金貨10枚ね」
そう言って金貨を10枚エリーに手渡す。
エリーは震えながら受け取った。
「それとこれは成功しても失敗しても渡す契約金ね。詳しくはこれから話すけど、頑張ってね!」
そう言って金貨袋ごとエリーに手渡した。
あの中身は前回の取引額、5,000,000ギル。つまり金貨で50枚くらい入っていたはずだ。
「えっ?はっ?う?」
「ぷぷっ。どうしたの?何か面白いよ?」
エリーが中身を見て、聖奈さんを見てと繰り返している。
しばらくの間、エリーは動けなかった。




