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09 王都→路地裏

「ふぅ……危なかった」


 その後数匹の襲撃に遭ったものの、一匹ずつだったので回避は大して苦ではなかった。むしろ俺のスピードなら余裕を持って回避できた。


 草原から脱出して一息つく。この辺まで来れば大丈夫だろう。改めて王都へと戻ってきた。


 さて、三つ目のクエストを受ける前に念願の装備を整えるとしようか。町中を見回すと、全身鎧を着た人や魔法の杖っぽい物を担いだ人など様々だ。やっぱり装備の店みたいなのがあるんだろうか?


 マップ機能ではそこまで細かい表示はされない。自分で歩き回って探すか、誰かに聞くかだが……。


「あのー、すみません」

「え?」

「装備売ってる店ってどの辺にありますか?」

「あー、向こうの通りを右行って、次に左行って真っ直ぐですよ」

「ありがとうございます!」


 通りがかった知らない人に聞いてみた。選択肢など最初からない、聞いてわかるなら迷わず聞く。一番速いからな。


 聞いた通りに道を行くと、開けた通りに出た。さっきまでいた通りもかなり人が多かったが、ここはそれ以上の混雑だ。


 フリーマーケットのように地面に品物を置いて商売している人があちこちに居る。アクセサリーやカバンや武器など。大半がプレイヤーらしい。どうやらこの辺はそういう商人が密集しているらしい。


 せっかくだから色々見て周ろう……と言いたいところだが、俺は早いとこ装備を整えてクエストを進めたい。必要な装備は三つ。頭部、脚部、装飾……つまり帽子、ズボン、アクセサリーだ。一軒ずつパッと見て、目当ての物が無さそうならまた次の店へ。それを素早く繰り返す。


「んー……目がチカチカするな」


 しばらく見て回ったが、どうやら割合は武器の店が大半のようだった。二十軒くらい見てたら少し疲れてきた。ちょっとその辺で休もうか……と思い、大通りから一本外れた道に入ったその時だった。


「……ん?」


 薄暗くて狭い道の奥に、一瞬だけ人影が見えた。無人だと思ったので少々意外だった。こんなところで何を……?


 恐る恐る近づいて行くと、徐々に全貌が見えてくる。大通りに出てる露店のように、誰かが敷物を敷いて座っている。そして声も聞こえてきた。


「ん、ごくっ、ごくっ、ぷはぁ〜! やっぱこれよ、これ! いやー、ほんとにワード始めて正解だったわぁ。こんな美味しいのが安く飲めるなんてね!」


 座っていたのは一人の女性だった。燃えるような赤い髪を無造作に垂らしており、座っていると地面に着くくらい長い。白いカッターシャツに黒いスラックス、その上に黒いベストを羽織っているがキッチリと言うより着崩しており、座り方も合わせてどこかだらしなく見える。あの格好、なんとなくスーツ職人のような印象を受けるな……。


「いやー、いい買い物しちゃった! こっちなら肝臓への負担も無いし、最高よね! いちいちアタシのこと見て胡散臭そうにする店員もいないし、身分証出せとかうるさいこと言われないし! しかも現実に戻れば二日酔いもないし、本当に始めてよ、かっ、た……?」


 緑色の小さなビール瓶のような物を飲みながらテンション高そうな独り言をペラペラ話していた女性だったが、ふと見た瞬間こっちに気付いたようで目が合った。最後はカタコトになりつつ、笑顔のまま固まっている。


「……………………コホン! あら、何かご用? こんなところまでわざわざ物好きね」

「それ酒か? 続き飲んでていいぞ」

「うるさいわね!」


 つい口が滑った。なかったことにして取り繕おうとしているようだったし、言わなきゃよかったな。


「はぁ〜……失敗しちゃった……。よりによってこのタイミングで人が来るなんてね」

「あんた、何者だ? ここで何してる?」

「見てわかるでしょ、露店よ露店。あんたのアバター年下っぽいし、敬語使いなさいよ」

「なんか使う気がしない」

「なんでよ!?」


 半分は冗談だが、なんかポンコツな香りがするので、つい言ってしまった。今更直すのもあれだし、いいだろう。


「まぁいいけど。アタシの名前は【アペリティフ】……アピィでいいわ。で、あんたは……ヨミジちゃんね。覚えたから。それで? 何か欲しいの?」

「いや何かって……」


 アペリティフと名乗った彼女は、取り繕うのを諦めたようだった。気だるげな態度のまま、敷物の上を指し示す。が、そこにあるのはどう見てもぐるぐる巻きにされた布。色んな柄と模様のそれが何本か並べてある。おそらく生地屋とかで売ってる、服の材料だった。


「ここは生地を売ってるのか?」

「いいえ、ちょっと違うわ。強いて言うならオーダーメイドね。布を選んで貰って、それを基にアタシが服を作るの」


 なるほど、オーダーメイドか。


「露店にしては変わったタイプの店だな……?」

「そうでもないわ。売れるかわからない物を作るよりも、最初からお客の欲しい物を作った方がアタシもお客も損しなくて済むでしょ?」


 一理ある。注文、つまり客の要望をきちんと把握すれば無駄が無くてスピーディーな仕事が可能ってことか。俺のポリシーと通じるところがあるな。一見だらしなさそうに見えるが、ちゃんと考えてるタイプだな。面白い。


「で、どうするの?」


 普通に考えたら表通りの信用できそうな店で頼むのが堅実だろうが……せっかく遭遇したんだし、なんとなく試してみたくなってきた。


「そうだな……帽子とズボンは作れるか?」

「もちろん。アタシの職業は裁縫師だもの。帽子作りは基本中の基本よ」


 基本なのかどうかわからないが、帽子は得意らしい。


「じゃあ帽子とズボン一着ずつ頼む。……値段はどのくらいなんだ?」

「そうねぇ……二つ合わせて五万Gってところかしらね」

「なん……だと……」


 正直高い。ゲーム開始時に貰える初期の所持金が一万G。そこからクエストをこなしたとはいえ、報酬は微々たるもの。五万には程遠く、とてもじゃないが手が出ない。


 どうする……? スパっと見切りをつけて他の店に行くか? でもそっちの方が高い可能性もあるな。そもそも品質の問題がある。


「なんか見本とか無いのか? 実力が知りたいな」


 俺がそう言うと、アピィはニヤリと笑った。そのまま背中に手を回し、何かを取り出す。


「はい。これでどう?」


 差し出されて反射的に受け取ったのは、コートだった。全体的に黒っぽく、手触りが良かった。


「どう、鑑定してみたらわかるんじゃない?」

「俺は鑑定スキル持ってないけど」

「嘘でしょ!?」


 目を丸くして驚かれた。


「普通持ってるでしょ……? モンスターとか見つけたら、調べたくならない?」

「ならない。俺の目的は走ることだからな」


 そこはブレてない。色々スキル取ったり職業就いたりしてるけど、全ては色んな場所を速く走る為。同じ場所ばかり走ってると、飽きるからな。そんなことを説明してやったら、感心したような呆れたような顔をされた。


「はー……なんていうか、変な子ね」

「誰が変な子だ、この酔っ払い」

「誰が酔っ払いよ、この変人」

「ぐぬぬ……」

「うふふ……」


 しばらく額を突き合わせて睨み合っていた。

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