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10 露店→交渉

 ヒートアップしていたものの、少ししたら二人とも段々落ち着いてきた。作品の良し悪しは俺にはよくわからなかったが、自信満々に出してくるってことは多分いい物なんだろう。


 仕方ない、なんとか値切るか分割払いにしてもらえるよう交渉するか。


「はぁ……まぁいいわ。結局、帽子とボトムスを作るってことでいいの?」

「ああ、速度が上がるやつがいいな」


 今使ってる装備のように、とにかく速くなるのが欲しいな。そう思ってのリクエストだった。しかし、俺の希望に対しアピィは渋い顔で返してきた。


「うーん………そうねぇ………」

「何かマズいのか?」

「作ること自体はできるんだけど……素材が手元に無いのよ」

「素材……? ここにあるのは?」


 目の前に何種類か生地が並べてあるし、これじゃダメなんだろうか?


「残念だけど、手元には速度上昇系の生地が無くてね」

「ん? 生地の種類が関係あるのか?」

「その反応、もしかしてあんまりこのゲームには詳しくないの?」

「まぁな。今日始めたばかりだからな」


 ぶっちゃけRPG自体もセオリーとか詳しくないんだが、それは別に言わなくてもいいだろう。


「なるほどね。じゃあ簡単に教えてあげるわ。まず、作った服にどういう効果を持たせるかは素材によって決まるの。腕力強化ならこの毛皮、魔力強化ならこの羽根って言う風にね」


 素材で方向性が決まる……料理みたいな感じだな。


「そしてどの位大きな効果が出るのかは、職人の腕次第ってことよ」

「ほう……で、速度上昇系の生地が無いと。どんな素材なんだ?」

「ええ、【渦蜘蛛の粘糸】って素材で織られた生地が必要なんだけどね」

「無いなら取って来ればいいじゃないか」

「あのねぇ……何度も言うけど、アタシは裁縫師よ? 生産職なんだから戦うのは専門外なの」


 アピィはやれやれと頭を振りながら、瓶の中身をグビッと一口飲む。


「つまり、モンスターから取れる素材なのか?」

「ええ。スパイラルスパイダーってモンスターを倒した時に、ドロップする糸よ」


 モンスターを倒さないと手に入らない素材か……俺にとっては少々まずいな。


「それならどこかで買ってくるとか」

「あんまり市場に出回ってないのよ。取りに行くプレイヤーが少ないからでしょうね」

「なんで少ないんだ?」

「今日始めたばかりなら知らないでしょう? このゲーム発売してからもうすぐ二ヶ月経つんだけど、大抵のプレイヤーはこの最初の国から他の国に移動を始めてるのよ」


 それは聞いたことない話だった。というか、俺が全然興味持ってなかったせいでもあるんだが……どうやら今俺達が居る最初の国に隣接するようにしていくつかの国が存在しているらしい。


「まぁあんたもそうでしょうけど、新規プレイヤーは増え続けてるし、まだまだこの国に留まってるプレイヤーも一定数いるわ。アタシみたいにね。でもやっぱり皆、未知のエリアに探索に行きたい! って考えるものよ」

「ということは、もしかして……」

「ええ。スパイラルスパイダーの生息場所はこの最初の国の、南のダンジョンの奥よ」


 なるほど、皆どんどん新しいエリアに進みたがるから、この国で探索する人が減ってるってことか。それはまずいな。


「取りに行けないし、売ってない。八方塞がりじゃないか……」

「そういうことよ。悪いけど他の効果の装備にしてくれる?」


 くっ……せっかく速度を更に上げることができると思ったのに。どうする? 他の効果で妥協するか? いやそれは気が進まない。少ない所持金を使うなら尚更妥協したくない。


 自分で市場に行って探すか? しかしあんまり出回らないと言っていた。運良く見つけられる可能性は低いだろう。


 なら素材を取りに行くか? ……ダンジョンの奥まで行けるかどうかわからないな。詳しくない俺でもなんとなくはわかる。ろくに戦闘できない俺が一人でダンジョンの奥まで行くのは無理だ。辿り着けてもスパイラルスパイダーを倒せるかわからない。いや、待てよ?


「アピィ」

「な、何?」


 改まって呼んだことで、たじろいでいるようだった。


「確認するけど、素材があれば速度上昇の装備を作れるんだな?」

「え、ええ。作れるわ」

「なら俺が素材を取ってくる」

「あんたが……? 戦闘職なの? 格好からはそうは見えないけど」

「いや戦闘は苦手だ。だけど当てはある」

「ふぅん……いいわ。素材を持って来てくれたら作りましょう」


 ここまでは予想通り。問題はここからだ。


「その代わり提案がある。素材持ち込みの代わりに、割引してくれ」

「割引? そうねぇ……」


 アピィは視線をキョロキョロ動かし、瓶を手でいじりながらしばらく考え込んでいた。が、ほんの数分でこちらに向き直る。


「わかったわ、割引してあげる。でもこっちからも条件があるわ」


 一体何を言われるのか。反射的に身構えてしまう。アピィはそれを見て苦笑していた。


「そんな怯えないでよ……単純に渦蜘蛛の粘糸を余分に持ってきて欲しいの。簡単な話でしょ?」

「よし、乗った」

「決断早いわね……まぁいいけど」


 早すぎて逆に怪しんでるようだが、そこは気にしない。


「よし、交渉成立だな」

「とりあえずフレンド登録しときましょ。手に入ったら連絡ちょうだい」


 登録したところで、プランを考えながら歩き出す。チラッと振り返ったが、アピィは美味しそうに飲み続けていた。



★★★



「……ってことがあったんだよ」

「なんかキャラの濃い人と知り合ってるね……」

「引かないで」


 一部始終を話すと天日は苦笑いを浮かべていた。時刻は夜十時、場所は俺の部屋。今日のプレイ感想を話していたところだ。


 一般的にはこんな時間に男の部屋にお邪魔するのはどうかと思うが、なぜか俺の両親も天日の両親も公認している。信頼されていると思っていいのか。互いの部屋のベランダを渡って来られるので玄関を通らず済む為、既にお互い寝間着に着替えている。


「まぁ悪い奴じゃ無さそうだし、装備作り頼んでみようと思ってる」

「本人がいいならいいけど……でも大丈夫なの?」

「何がだ?」

「私もスパイラルスパイダーなら知ってるけど、辿り着くのに夜くん一人じゃ厳しくない?」


 確かに自分でもそうだと思う。


「何言ってるんだ、だから今この話してるんだぞ?」

「えっ? ………………まさか?」

「その、まさかだ。天ちゃん、協力してくれ」

「私を当てにしてたんだね……」


 少なくとも俺より戦闘慣れしてるとは思ったのでな。


「まぁ夜くんの頼みだし……最初の国だったら私一人でもなんとかなると思うけど……」

「頼む、この通り!」

「うーん……わかった。手伝ってあげる」

「さすが天ちゃん、助かる」


 なんとか天日の協力を取り付けたので、とりあえず明日の午後、王都で待ち合わせすることになった。本当は朝からプレイしたかったが、夏休みの宿題もあるしな。宿題を終わらせるのも『速く』だ。

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