最終話 光求めて
そんな日々を送って、あれからかなりの時間が立ちました。
魔獣になってから何日経ったのかちゃんと覚えていませんが、50日以上は過ぎているような気がします。
起きたら色々な実験やテストを繰り返してごはんを食べて寝る。
変わりばえのないそんな毎日でした。
ところが、そんな日々に変化がありました。
ある日から毎日一度は顔を見せるバウムさんが、パタリとあたしの前に姿を見せなくなったのです。
「ピ、ピエ、ピエーン?」(あ、あの、バウムさんは?)
「うーん。いつもながら、何を言ってるかさっぱりわからん!」
色々試しましたが、相変わらずあたしは喋ることが出来ませんでした。
これから先もきっとそうなのでしょう。
あたしの鳴き声から頑張ってその意味を読み取ろうとしてくれるのはバウムさんだけだったのです。
魔獣を研究する実験に協力するとは言ったものの、この時はもう毎日の同じルーチンに飽きてきていました。
あれから一度も地上の陽の光は浴びておらず、ずっとこの地下研究施設の中なのです。
もちろん今後も魔獣となったあたしを外に出してくれそうにはありません。
そう考えると、急に地上が、故郷が恋しくなりました。
朝日を浴びて外を駆け回りたい。そんな思いが強くなっていたのです。
「ピエーン……」(おうちに帰りたい……)
バウムさんと会えなくなって数日たった夜――
その日も同じ頃にいつもどおり消灯され真っ暗でしたが、なぜか胸騒ぎがして眠れませんでした。
また孤独で長い夜になるのかと憂鬱になっているところに、部屋全体が揺れる強い振動を感じたのです。
「ピェッ!?」(地震!?)
ここは地下深くの研究施設のはずですが、たまに明るい時間に振動を感じることはありましたが、夜中にこんなに揺れるなんて初めてのことです。
その揺れは地震とは明らかに違いました。
ぐらぐらと揺れるではなく、たまに強い衝撃が何かにぶつかっているような、そんな揺れだったのです。
その衝撃はあまりにも強く、次第に壁に亀裂が入って軋んでいるのが音でわかりました。
あたしの耳は魔獣になった事でよく聞こえるようになりました。
部屋の外の音は普段聞こえてはこないのですが、この時外から何かしゃべり声が聞こえてきました。
「こんにゃろー! やっと出られたにゃろー」
(この声は猫さん!?)
どうやら外で何かあったようです。
聞き耳を立てていると、少しして他にも声が聞こえてきました。
「うむ。急ぐぞわん公! ここはもう崩れるの」
「ピエー!?」(えー!?)
なにそれ恐い。
あたしはそれを聞いて焦っていると、さらに部屋に大きな衝撃が走り、体ごと壁際に飛ばされました。
「ピェェー」
そして態勢を崩した体をおこそうとした時、普段絶対に開くことのなかった扉が少し開いているのに気づきました。
その隙間から漏れ出していた光はなにかとても暖かく、昼間点いている天井の明かりとは違っていたのです。
「システム アナウンス バクハツマデ アト ダイタイ サンビャクビョウ デス!」
「うむ。まずいぞ、自爆装置が作動したの」
「ちくしょう! マジかよ」
「ピエ!?」(自爆!? あと時間適当なの!?)
やばいやばい、逃げなきゃ。ここから出なきゃ。
あたしは焦りまくって、逃げるべくその扉を押して外に出ようとしました。
「ピエン」(出れた)
「なんだお前。変な鳴き声のうさぎだな」
太陽のように暖かくて眩い光の正体は「ちょうちんの付いたわんちゃん」でした。
「ピ……ピエエ」(お……おかしなわんちゃん)
「うむ。何やっているわん公」
「こっちに飛行船があるんだな? 急ごう」
「ピェ! ピエピエェー!」(待って! あたしもいくー!)
その光を追って、この時からあたしの新しい人生が始まったのです。
この物語は拙作「ちょうちんわん公がゆく」の外伝にあたる物語となっています。
この後のエクレアがどうなったのかは
「ちょうちんわん公がゆく」の方でご覧いただければ幸いです。
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この作品を最後まで読んでいただきありがとうございました。