六
突然の他種族の来訪。
レイカはとっさにナイフを取り出し僕の前に躍り出た。
「村長様……どういうつもりですか? ここはエンド様の世界。入り口は外とつながっているとはいえ、勝手な真似は許しません」
「れ、レイカ!?」
彼女の突然の行動に、僕も咄嗟に対応できない。
対する村長さんは、すぐさまその頭を地面にこすりつけた。
「申し訳ございません! ですが! 無下に追い返すこともできず――」
まさに一触即発。
そんな中、渦中の男、おそらくは蝙蝠の獣人だと思うが、彼も同じように膝をつき頭を下げる。
「申し訳ありません。決して狐人族の長が私を招き入れたわけではないのです。私が、この場所を突き止めここの主であるエンド様にお願いをしたいと思いやってまいりました」
「お願い?」
「ここを突き止めた?」
僕とレイカは別々の疑問を投げかけたが、彼は頭を下げたまま淡々と語る。
「ここを突き止めたのは蝙蝠族の特性を使ってのことでございます。我々はそれほど目はよくありませんが、音の力を使って者の形や場所がわかるのです。森の中を探していたところ、魔力で封じられていたこの場所をかろうじて見つけることができました」
「そういうことですか……。でもまさか、見つかるなんて」
「おそらく、私が一族の中でも探索に秀でていたからでしょう。私以外では見つけられたかどうかはわかりません」
そこまで聞くと、レイカは理解はしたのかそのまま黙り込んだ。納得はしていなそうだけど。
それで、次は僕の番かな?
「わかったよ。別に勝手に入ってきたことはしょうがないとおもうから。それで、お願いっていうのは?」
「はい。お願いというのは、私達蝙蝠族も、エンド様の庇護下に置いていただけないか、ということです」
「庇護下?」
「弧人族と同じように、配下になるということですよ」
レイカの補足があり理解できた。
つまり、きっと彼らも外での生活がつらいのだろう。
おそらく、獣人達は常に魔物の襲来におびえ、人間と出会うことに怯え。
そんな生活に疲れてしまっているんだろう。
頭を下げ、気丈にふるまう彼をみて、僕は悩む。
僕には、できることがあるから。
けど、突然やってきたこの申し出を受けるべきか。それは今の僕にはわからない。
そう考える僕に、彼はさらに言葉を続けた。
「エンド様……そして庇護下に入りたいと願っている種族は我々だけではありません。犬人族、猫人族、鼠人族、熊人族、あとは、いくつかの少数民族があなたに助けを請うているのです。我らは魔物の脅威にさらされ、人間の世界に入り込むこともできず危機に瀕しています。何卒、我らの願いを聞き入れていただければと思っております」
「他の獣人も!?」
僕はその事実にさらに驚いた。
彼らだけならいざ知らず、ほかの獣人もだなんて思ってもみなかったのだ。
もし、それらすべての人たちの家を建てるとしたら……。
想像しただけで眩暈がした。
「いいでしょ――んんっ」
「ちょっとまって!? レイカ!!??」
僕の隣で聞いていたレイカが、まさかの承諾。
僕は慌てて彼女の口をふさぐ。
そしてそのまま彼女を抱き上げると、村長さんや蝙蝠族の人から少し距離をとった。
「何言ってるの!? そんなたくさんの人のお世話をするなんて僕には無理だよ! 狐人族だけでもこんなに困ってるのに!」
必死で訴えるも、レイカは涼し気な笑みを浮かべるだけだ。
「エンド様こそ落ち着いてください。たしかに狐人族は家を建てる支援が必要です。しかし……ほかの種族は違うでしょう。男手もいれば、彼らだけで生きていたのですから技術をもったものたちも多くいるかもしれません。確実に、今よりもこの世界は発展します。疑いようがありません」
レイカの言葉がすぐには飲み込めなかった僕は、ゆっくり考える。
つまり……。
「もしかして、家を買わなくても、僕らで一から建てられるってこと?」
「費用も少なくすむでしょう」
それならいいのかも?
と思うが、それ以前に、僕が彼らを庇護するということが、一応僕が上の立場ということだろう。
さすがにそれはどうかと思うんだけど。
「でもレイカ。やっぱり自信はないよ。だって、最近はようやく冒険者としてやれてるけど、元々孤児だしやれることなんてないんだから」
「何を言いますか。この世界を生み出しているエンド様は私達にとって神様のようなものです。もっと自信を持ってください。それに……」
レイカはそういって、僕の耳元でそっと囁いた。
「エンド様の足りないところは私が埋めて差し上げます」
そういって妖艶な笑みを浮かべた。
その色香に僕の思考は停止する。
「よろしいですか?」
その返答にも、人形みたいに首を縦に振ることしかできなかった。
僕は、颯爽とあるくレイカの後ろに着いていくことしかできない。
「蝙蝠族の方。今エンド様と話をして、そちらの要求を受け入れることにいたしました」
レイカの言葉に、村長さんも蝙蝠族の人も勢いよく顔をあげた。
「本当ですか! では――」
「ただし」
喜ぶ彼らをレイカは掌で制した。
そして、熱を持たない言葉で告げる。
「各種族共々、エンド様に捧げる対価を用意しなさい。エンド様はあなた方をこの世界で守り、危険があれば助けることを約束いたします。その対価として何を差し出すのか……それによって、この地で受け入れるかどうかを決めます。よろしいですか?」
それって、対価を用意できない種族は庇護下に置かないってことかな?
だとしたら結構厳しいことを言うよな、レイカは。
けど必要なことなのだろう。
すべてを受け入れることはできない。互いに助け合っていくこと大事なのだろうと僕は僕なりに考えをまとめた。
蝙蝠族の人はきっと予想はしていたのだろう。
表情を引き締めると、再び頭を下げ言葉を連ねる。
「エンド様。我ら蝙蝠族は長い距離ではありませんが空を飛ぶことができます。そして目に見えないものを見つけ、夜の闇にまぎれることができます……。夜行に特化した飛行能力が我らの特性。狩人にも斥候にもなりましょう。エンド様の気のすむようお使いいただければと思います」
「使うだなんてそんな……」
「そして、土産替わりに一つお伝えしたいことが」
蝙蝠族の人は顔をあげて僕をじっと見据えた。
「エンド様が取引をしている商人ですが……エンド様を騙しているようなのです」
その言葉に、僕は目を見開いた。




