五
「なんと! それは本当ですかな、エンド様!」
「うん! 持っていったお金でさっそく家を作り始めてくれるって話みたい」
「それは吉報ですな!! ですが……」
「えっと、どうしたの?」
せっかく家が作れるって話なのに。
どうして村長さんの顔が曇るんだろうか。
不思議に思っていると、レイカが助け船を出してくれる。
「この世界に人間が来ることが怖いですか?」
「そうですな……やはり、長年迫害されていた歴史があるからの。もちろん、エンド様とレイカ殿には感謝しているし怖くはないが……」
「そっか、そうだよね」
またもや問題発生だ。
いや、僕の考えが浅すぎたというのもあるだろう。
せっかく安全なところに住むことができているのに、僕自身が彼らの脅威を運び込むのはたしかに違う気がする。
僕は至らなさに申し訳なくなってしまった。
「ごめん。僕の考えが足りなかったね」
「いいえ! 儂らはうれしいのです! エンド様に色々と便宜を図ってもらえて」
「でも! 大工さんを呼ばないと家が――」
「その点はご安心ください、エンド様」
「え?」
僕が村長さんに謝っていると、レイカはどこか自信満々な表情で僕の肩に手を置いた。
「大工さんに相談してみたんですが、立てる作業は別にして、すぐに組み立てられるような材木を用意できないか相談してみたんです。そうしたら、なんとかできると。初めてのことだから不安はありそうでしたが、一緒に設計を考えましたのでおそらくは可能かと」
「つまり、組み立てはこっちでってこと?」
「はい。男手はあったほうがいいですが……、私達だけでも協力すればなんとかできるのではないかと思っています」
レイカの提案に、村長さんも乗り気のようだ。
「それならばできそうです! それに最近、調子がいいのですよ! こっちの世界の気候や食べ物がいいからですかな。すっかり痛かった腰も治ってしまいまして」
「それはよかったです」
「他の者たちも元気になったと言っているものは多いですからの。それもこれも、エンド様の陰ですじゃ」
そう言って笑う村長さんはとても嬉しそうだ。
これで、とりあえず家をたてる算段は整いそうだ。
ちかいうちにこうやって木陰で相談することもなくなるのかな。
そう思うとなにやら感慨深い。
心地よいそよ風を感じていると、突然背中になにかが飛びついてきた。
振り返ると、ルルルだった。
僕らがここに来る度に、彼女は僕にちょっかいを出しに来る。
「エンド! 話終わったか!? 遊べるか!?」
「うん、いいよ」
「いっつもあっちに帰らないで、今日は泊ってけばいい! な! レイカ!」
「そうですね。たまにはいいですね」
ルルルと話すときはレイカの表情も柔らかい。
僕はルルルに連れられて、子供達が集まっているところに向かっていく。
どんな遊びをするかと思ったら、鬼ごっこだ。
小さい子から大きい子も交えてのようだ。
「じゃあ、エンドが鬼ね! よーい、どん!」
「よし! 絶対みんなつかまえてやるからなぁ!!」
夜が更けるまで遊び続けると、今度は食事だ。
最近は、果物や木の実の群生地、狩りにむいている場所など徐々にわかってきているらしい。
とても家のない生活とはおもえないくらい豪華な食事を囲みながら、僕らは村の皆で食事をとった。
「エンド様がここに住まわせてくれているお陰で、安心して生活できます。本当にありがとうございます」
「そうだねぇ。あたしら老人も元気が湧きでてくるようでね」
「この前、おばあちゃん、こんなおっきい獲物を捕まえたんだよ! 本当にすごかったんだから!」
「病気もしないし、本当にここの食べ物は体にいいかもしれんねぇ」
「それより、むこうのじっさんもすごくなかったかぁ? あんな大型の獣、現役時代よりでも取れなかったしなぁ!」
「それよりもあたしは、突然じいさまが元気になってこっちの身がもたないよ!」
みんなが僕に話してくれることを一つ一つ聞いていく。
ちょっぴり大人な話もあったけど、おおむねみんな元気でいてくれているらしい。
子供達もあんなに元気に過ごしてる。
まあ、すばしっこさはレベルがあがった僕のステータスでもなかなか捕まえるのが難しかった。
っていうか、久しぶりにステータスをみたら、あんなにあがってたんだなってびっくりした。
こういう時お酒とかあると盛り上がるのかな? 今度、村長さんに相談してみよう。
そんなことを思っていると、レイカとルルルが僕に近づいて隣に座ってくる。
僕が視線を向けると、それに応えるようにほほ笑んでくれた
「レイカもルルルも楽しんでる?」
「はい。今日はあちらの方々に色々話を聞いていました」
「うん! おばちゃんたち、楽しそうだったよ!」
そちらをみると、ご婦人方が楽しそうに盛り上がっている。
ちょっと僕には入り込めない雰囲気だけど。
「エンド様。皆、笑っていますね」
「うん。よかったよ……でも、もっと、過ごしやすくなるといいんだけどね」
「焦らなくていいんですよ。今でもエンド様は十分にやってますから」
「そっかな」
「そうですよ」
レイカにそう言ってもらえると、元気が出てくる。
うん。
このまま家が建って、もっとみんなが過ごしやすくなればいい。
「ねぇ、エンド」
「どうした? ルルル」
「ルルルね。エンドのために何かしたいんだ」
「何か?」
その言葉に僕は驚いた。
まさかそんなことを考えてくれてるなんて。
こんな僕に……って思うのは、もう失礼なんだろうな。
「どうしてそう思ったの?」
「みんな言ってるよ! エンドのために何かしたい。けど、何もできないのがつらいって。じいちゃん達もばあちゃん達もお母さんも、みんなエンドが好きなんだ。役に立ちたいんだって」
「先ほどのご婦人方もおっしゃっていましたよ? もらうばかりじゃ嫌だって。何人か、エンド様の愛人になりたいと思っておりましたがいかがなされます?」
「ばっ、愛人ってっ! レイカ! 変なこと言わないでよ!」
「ふふ。それだけ慕われてるってことですよ」
みんながそう思ってくれてるって知ることができて、暖かい気持ちになる。
そうなると、なんでも僕がやるのは違うのかもしれないな。
「そっかぁ。そうだね。例えばルルルは何をしたいの?」
「ルルル? えっとねぇ、ルルルはねー」
楽しそうに体をくねくねさせたルルルは、何かを思いついたのか、大きい目をぱっちり開いて僕に顔を近づけた。
「エンドと同じ、冒険者になりたい!」
「冒険者に?」
「うん! それで、お母さんを守るんだ!」
剣か何かで斬りつける真似をしながらルルルは、またどこかに遊びに行ってしまった。
「ルルルが冒険者ね」
「いいと思いますけどね。今日の身のこなしを見ていれば、きっとうまくやるのではないでしょうか」
「たしかに。ここの子達の動きは正直びっくりしたから」
「獣人の元々の能力を考えても……たしかに普通じゃないかも?」
そんな話をしていると、徐々に夜も更けてくる。
そろそろ寝る準備をしないとな。
そんなことを考え始めたころ、村長さんがやってきた。
なにやら隣には若い男性を引き連れて。
「エンド様……少し時間をよろしいですかな?」
「あ、村長さん。それはいいんだけど……」
「そちらの方は……」
一緒に来ていた男をみると、見覚えのない人だった。
そして、彼の身体の一部。
ついそこに視線が集中するのは仕方のないことなのだろう。
「こう……もり?」
そう。
彼の背中からは黒い翼が生えていたのだ。




