十一
「まさか……こんなに大きいなんて」
「あ、あわ……あわ」
そんな呟きが耳に入る。
二人とも、オークキングに気圧されているのだろう。
確かに、見た目は凶悪だ。
通常のオークでされ、僕の倍くらいの身長がある。
だが、このオークキングは何倍だ? 軽く見上げるくらいはあるだろう。
体が大きいということは、それだけ有している力も大きいということだ。腕の太さを見る限り、力比べで僕は全く太刀打ちはできない。
オークキングは、周囲を見て現状を理解したのだろう。
途端に唸り声をあげながら中腰になり持っていた丸太を構える。そして、その丸太を無造作に振り回した。
「ぐもおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
「きゃぁ!」
「ルルルさん――」
その風圧で、遠くにいたルルルが吹き飛ばされた。
あれに直撃したらまずい。
僕なんかではすぐに肉塊になるだろう。
「くっ――!」
「エンド様!」
「レイカはルルルを! 僕は大丈夫!!」
と、うそぶくも余裕は全くない。
当たったら即死。そんな攻撃を避け続けなきゃならないのだから。
その後、何度も振り下ろされる丸太を避けながら僕は考える。
Aランクの魔物。
強靭な体、そこから繰り出される繰り出される強力かつすさまじい速度の攻撃。
発せられる殺気。
普通ならば、それを間近に見ただけで動けなくなるほどの領域。
それを目の前にして、僕は――。
なぜだか驚きしか感じられなかった。
それは、オークキングに対する驚きじゃない。自分自身に対する驚きだ。
今、僕はこの状況を怖がっていない。
オークを、理不尽を消し去ろうといった気概は十全に残っている。
つまり、僕は――。
「お前を脅威とは思っていないんだ」
「ぐもおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
僕の言葉を理解しているとは思えないが、なにやら怒りを買ったらしい。
僕は、ひとまず距離を取ると、オークの血で汚れたアダマンタイトの剣を何度か古い血を落とす。
そして、視線の先にいる元凶を見据えてルルルへと話しかけた。
「ルルル!」
「へ?」
気の抜けた返事を不思議に思い視線を向けると、耳をピンとさせて尻尾が太くなっているルルルがそこにいた。
彼女は、潤んだ目で僕を見ている。
「聞いておきたいんだけど」
「う、うん! なんだ!?」
「もしかしたら……結末を見てしまったら、ルルルは目の前のモンスターに恨みを持つかもしれない。もし、止めを刺しておきたいなら取っておくけど?」
これだけの数のオーク。
攫われた人がどのようなひどい結末になっているか、それは僕にはわからない。
けれど、最悪を想像するならば、と思ったうえでの発言だった。しかし、それは無用な心配だったようだ。
「エンドに任せる。それで、いい」
「そうか、わかった」
僕はそれだけを確認すると、すぐさま意識を戦いへと引き戻した。
怖くない。けれど、簡単じゃない。
非力な僕では、オークキングの分厚い肉を貫けるかわからなかったからだ。
手数を増やす?
それともほかに方法が?
僕は、考えもまとまらないままとにかく飛び出した。
僕は地面を蹴ると、オークキングに向かって剣を突き出す。
が、真上からの重圧。
すぐさま右手に飛びのくと、僕が通るはずだった場所には丸太が叩きつけられていた。
その衝撃に吹き飛ぶが、すぐたま切り返しオークキングの背後に回った。
首元を斬りつける。
だが、浅い。
やっぱり固いか。
すかさずオークキングの裏拳が飛んできたが、僕は下がらず前に踏み出した。
躱すだけなら何度でもできる。
でも、だんだんと体力を失えば、非力な僕はオークキングを倒す術がなくなるだろう。
狙いは短期決戦。
そのために、僕は決死の想いで懐に飛び込んだ。
濃厚な殺気。
その空間に飛び込むと、途端に体が重く感じる。
何をされているわけでもない。
けれど、今までの戦いとは一線をかす領域に、僕は踏み込んだ。
体重を乗せ、力いっぱい太腿に剣を振り下ろす。
また浅い。
しかし、今度はオークキングの体勢がぐらついた。
そして、僕のほうに倒れ込んでくる。
まずい! 逃げ場がない!
――否!
オークキングの巨体は僕のほうに倒れ込んできた。そのままつぶれされれば僕も無事では済まない。
けれど、その巨体が倒れ込んでくるのだ。
ならば、僕はその力を利用して――。
僕も地面を力いっぱい蹴り飛び上がる。
ここだ。
ここしかない!!
僕は、飛び出した勢いを殺さず、そのままオークキングの心臓に剣を突き刺した。
深々とささった剣はすぐに引き抜くことができず、潰されそうになった僕は剣を置き去りにしてその場から飛びのいた。
「エンド様!!」
「エンド!」
二人の声が聞こえた。
目の前には心臓を刺されてもなお、憎しみの視線を僕に向けるオークキングがいた。
だが、その力強さも徐々に失われていき、しばらくすると屍となる。
それを見ていた二人は、ようやく僕に近づいてくる。
「エンド様! さすがです!」
「エンド、すっごい強いね!! オークキングなんて目じゃないんだ!」
嬉しそうな二人を後目に、僕はオークキングを見下ろしそして想像する。
――王である自分が守る民を踏みにじられた気持ちはどんなものなんだろうな……。
そんなことを思いながら、僕は二人にぎこちないだろう笑顔を向けたのだった。




