四
「あぁ? ここはお前なんかに売る武器も防具もありゃしねぇよ」
僕らが鍛冶屋に行くと、帰ってきた言葉は辛辣なものだった。
向かった先は、この街一番の鍛冶屋だ。
彼はドワーフという種族であり、昔から鉄を扱って生きてきたらしい。だからこそ、武器を作ったりすることに長けているらしい。
顔は毛むくじゃらで、髭がすごい。
男らしい……のか?
「どうして売ってくれないんですか?」
「決まってんだろ! お前みてぇにお供を連れて道楽でやってる輩に俺の武器を使ってほしくねぇんだよ!」
「道楽……?」
何かを勘違いしているのか、ドワーフのおじさんは怒っている。
道楽、じゃないんだけどな。
僕は、僕の守りたいものがあるからやってるだけなんだけど……。
そんなことを思っていたら、隣からピキピキといった不穏な音が聞こえてきた。
「エンド様」
「な、なにかな?」
顔を向けると、冷気をまとったレイカがそこにいた。
顔は笑っているはずなのに、どうしてこんなに恐ろしいのだろう。
「こんな武器屋、やめましょう。使い手の実力を見抜けないような鍛冶師なんてエンド様にふさわしくありません」
「ちょ、ちょっとレイカ!」
「あんだと? なんて言いやがった、姉ちゃん」
やっぱり怒りはじめたよ!
何言ってくれちゃってんだよ、レイカ!
「その目は節穴かって言ってるんです」
「なら、その小僧が実力者だっていいたいのか? あぁ?」
「もし知りたいのなら教えてあげましょうか――」
そういうと、レイカは自分の武器――太腿に隠しているナイフを取り出して、ドワーフのおじさんに投げる。
って、嘘ぉ!?
そのコースは間違いなく鍛冶屋のおじさんの顔を貫くだろう。
僕は、レイカに人殺しをさせたくない。
慌てて剣を抜くと、僕はレイカの投げたナイフに回り込み剣で叩き落した。
甲高い金属音が響き渡り、床にナイフが転がっていく。
あ、あぶない。ギリギリだ。
「レイカ! 何してるんだ!」
「この男が無礼だからです。エンド様の実力を見ようともしないで!」
「だからって人を傷つけるのはだめだ! もし僕が止めなかったら、おじさんは怪我じゃすまなかったよ!」
「エンド様なら止めてくれると思ったんですよ」
つまり、僕がとめるって思ったうえでナイフで攻撃したってこと?
たしかに、それなら僕の力を見せれるとは思うけど、さすがに無茶が過ぎる。
「……次はこんなことしないでね。心臓に悪い」
「はい。わかりました。申し訳ありませんでした」
そういって頭を下げるレイカ。
レイカは僕の世話を進んでしてくれるけど、ちょっぴり信頼の度が過ぎているところがある。
もう少し、他の人にも意識を向けてくれるといいんだけど。
ナイフを拾いながらため息を吐く。
疲れたから帰ろうと思ったら、後ろからドスの聞いた声が響いた。
「す、すまなかった。小僧、お前さん、なかなかやるな」
振り向くと、そこには汗をかいたおじさんがいた。
顔は険しい。
「俺が悪かった。お前さんの力がありゃ申し分ない。ぜひ、作らせてくれねぇか?」
「ようやくエンド様の力が分かったのですね。どうしますか? エンド様」
二人の視線がこちらへ向く。
まあ、腕はきっといいんだろうし作ってくれるならぜひお願いしたい。
それに、こっちがお願いしてたんだし、断る理由なんてない。
「ならお願いしたいかな。大丈夫ですか?」
「ああ。俺は、ガーフだ。武器を作るとあっちゃ妥協はしねぇ。お前さんの希望を教えてくれるか?」
「うん。今日は時間があるし、大丈夫だよね? レイカ」
「はい。せっかくですから、最高の武器を作ってもらいましょうね」
そういって笑顔で頷くレイカだが、その視線はガーフさんに向いている。
あきらかに圧力をかけているだろうけど、僕はあえてそれを見て見ないふりをした。
とりあえず、無事に武器を作ってもらうことになってよかった。
頭の片隅で依頼について考えながら、僕はガーフさんに聞かれることに一つずつ答えていった。
◆
俺はガーフ。鍛冶師だ。
これでも、それなりに鍛冶に打ち込んできて、街の中ではそれなりだと自分でも思っている。
だからこそ、納得がいく相手にしか武器は作りたくねぇ。
俺の作った武器だからって使い手がへなちょことだと命を守っちゃくれねぇ。
武器の性能に奢って命を落としてきたやつをこれでもかとみてきたんだ。だからこそ、持ち主の力にはそれなりを求めてるってわけだ。
その中でも一番好きじゃねぇのは、金の力でどうにかしようとする奴だ。
貴族の坊ちゃんとかなんともいけすかねぇ。態度ばっかりでかくて、中身はすっからかんのやつが多すぎる。
今日も、やってきた客はべっぴんなメイドを連れた小僧だ。
なりは汚ねぇし、一見、駆け出し冒険者って感じだが、あの連れをみるとどうせ貴族の輩だろう。
そう思った俺は、そいつを追い返そうとした。
「あぁ? ここはお前なんかに売る武器も防具もありゃしねぇよ」
それを聞いて、二人とも目を見開いてやがる。
これくらいでビビるなら、最初からくるなってんだ。
「どうして売ってくれないんですか?」
「決まってんだろ! お前みてぇにお供を連れて道楽でやってる輩に俺の武器を使ってほしくねぇんだよ!」
「道楽……?」
ふん。
どうせ図星を突かれて何も言えねえんだろうが。
さっさと帰っちまえ、と適当にやってたらお付きの女がとんでもねぇことを言いやがった。
「こんな武器屋、やめましょう。使い手の実力を見抜けないような鍛冶師なんてエンド様にふさわしくありません」
「あんだと? なんて言いやがった、姉ちゃん」
「その目は節穴かって言ってるんです」
「なら、その小僧が実力者だっていいたいのか? あぁ?」
「もし知りたいのなら教えてあげましょうか――」
俺が使い手の実力を見抜けねぇって言いたいのか?
節穴だなんて、てめぇの何倍俺が生きてっと思ってんだ!
カチンと来て放り出そうとしたその時、女は俺に向かってナイフを投げた。
いや、投げたように感じた、といったほうが正しいのかもしれない。
なぜって、俺にはその動きはまったく追えなかったからだ。
唐突にやってくる死という感覚。
頭では考えられない速度に、感覚だけが死を濃密に悟っていた。
そんな絶望感に襲われたその瞬間。俺に迫る死は、小僧に撃ち落されて床に転がった。
「レイカ! 何してるんだ!」
「この男が無礼だからです。エンド様の実力を見ようともしないで!」
「だからって人を傷つけるのはだめだ! もし僕が止めなかったら、おじさんは怪我じゃすまなかったよ!」
「エンド様なら止めてくれると思ったんですよ」
俺は、これでも昔、冒険者まがいのことをやってたことがある。
腕っぷしには自信があったから、それなりの修羅場もくぐってきた。その俺が目で追えない攻撃を、いとも簡単に撃ち落したんだ。
なんだ、この小僧は。
いでたちからは全く覇気は感じられない。
だが、今のやり取りだけでわかる。
この女は強い。だが、それ以上に、この小僧のほうがもっと――。
「す、すまなかった。小僧、お前さん、なかなかやるな」
驕っていたのは俺のほうだった。
名前が売れてきて、それなりに成れた俺の驕りは確かに目を曇らせていた。
こんなすげぇ腕前を持ってる男を追いかえそうとしたんだからな。
もし武器を作らせてもらえるなら、全てを懸けてやろう。
そうしないと、目の前の男を見くびった非礼は返せない。
俺は、小僧……否。目の前の男の要望を聞きながら、最高の武器を作ろうと心に決めた。
驕っていた、曇っていた俺の目を覚まさせてくれた、大きくなるだろう男のために。




