前世の記憶
よろしくお願いします。
殺せ、早く殺せ。その声は、空気をビリビリと振動させた。
その男の顔を、わたしは、今もなお覚えている。
わからないのか。己がどれほど醜悪に、他人の死を望んでいるのか。
気づかないのか。隣の者がどれほど滑稽に、おまえの醜態に怯えているのか。
────これで終わりならば最高だ。
悔やめばいい。恐れればいい。思い知るがいい。
振り下ろされた刃の一閃が、わたしの救いだったと。
わたしが死ねば、こいつらの心を囚えられる。
転がった己の目と、視線が交わった気がした。
ブツッ
電源が雑に切られたような音で、シャロンは我に返った。
うっすらと浮かんだ額の汗を拭い、努めてゆっくりと深呼吸を繰り返す。
見慣れた離宮の一室、窓には鉄格子。
幼い自分の身体は、五歳くらいだろうか。部屋の中には、全身鎧の監視と、目元以外を布で隠した侍女。
己の正しい年齢すら知らないシャロンは、生まれた時からこの部屋と中庭だけで生きてきた。
今思い出した前世の記憶は、レミア・ルノー侯爵令嬢だった頃のもの。
本能の根っこのようなところで、彼女と自分が複雑に入り交じって共存している。
濁流のように流れ込む前世と今世の知識と記憶に溺れそうになり、思わずベッドに倒れ込んだ。
「……むじょう……」
ごうんごうんと脳に響く痛みに耐えきれず、小さなシャロンは意識を閉ざした。




