第156話 岩山地帯の山道
スレーム・ガング一同はラギアサタのギルド前にやって来ている。ギルドには泉の中心にある島へ架かる西側の橋を渡り、島に建っている建物を迂回して東側の正面に行くというやや面倒な順路で到着した。
「今更だけど裏の出入口から入っちゃダメなの?」
「西側の出入口はこの建物で働く人の通用口なのですよ。
私たちが裏から入るのはどうかと」
「ここまでは馬車で来れたし何の問題もないだろ?
それにロガンズとの待ち合わせ場所はギルドの正面玄関だからな」
「そうだったわ。結局正面に行くのは変わらないか」
馬車を降りてギルドの正面玄関まで行くと、ローザ率いるロガンズの面々が待っていた。
『おはようございまーす』
「ローザ、おはよ! サソリ討伐されたかもう見て来た?」
「私たちも先ほど到着したばかりなのでまだ確認しておりませんわ。
一緒に中へ入りましょう」
「よーし、じゃ行くわよ! 折角サソリ対策考えたんだから残っててよ~!」
「セキトモさん、サソリ倒されてたほうがよくないですか?」
「わはは、ロッカは自分で倒したいんだろうな」
ギルドは上層を支える柱が何本も立っているバカ広いフロアだった。討伐者もそれなりに多い。
「広いな~、まずはどこに行ったら?って感じですね?」
「2階はギルドじゃないって話だけど、今までで一番大きいギルドかもしれないな」
ローザの説明によると、クエストは主に人間の住む地域の近郊クエスト、人間がほとんど住んでいない地域の郊外クエストに別れているそうだ。近場か遠出かの違いのようなものだ。郊外クエストは準備に時間がかかるのでギルドの奥側、郊内クエストはすぐにでも出られるように手前側に設置してあるそうだ。
「サソリの場合は移動型でギルドからの依頼です。そういう特殊なクエストは中央の大きな柱周りの掲示板に設置してあります。まあ、人の混雑を避けるように目的別に分けてあるといったところですね」
「へえ~」
当然ながら近場の近郊クエストは人気があるようで人が大勢いるようだ。昨夜、遅くから朝方まで多少雨が降ったこともありクエストの出待ちをしている討伐者が多くいるのだろう。とりあえず、サソリが討伐されているのかの確認が先なので一同は中央の柱へと向かった。
「あった! 1枚剥がされてるけどまだ残ってるわ」
「微妙っすね」
「先越されたら無駄骨って事もあるやつだ」
依頼書には遅効性の毒を持つサソリ5体としっかり情報が追記されている。難易度はBのままだ。毒による死者3名とも。
「依頼書を剥がした討伐者がこれを見て向かっているのなら毒対策は当然しているでしょうね」
「ん~~~、益々微妙・・・」
「あいつらじゃ多分無理だと思うぜ」
声をかけてきたのはロガンズと共にサソリ討伐に出たボトルロックのブランだ。
「クエストに出たのは昨日の昼過ぎあたりだったかな?
順調ならそろそろサソリと遭遇している頃だろうが・・・逃げ帰った俺たちが言うのも何だが毒対策をして向かったとしても相手は難易度Bだ。向かったやつらは難易度Cくらいなら倒せるって程度の力量だった。俺は止めたんだがな・・・」
「ブランさん、もう活動再開したのですね」
「ああ、あの時は色々助けて貰ったな、礼を言わせてくれ。有難う」
「いいえ、3人を助けられなかった事が今でも悔やまれます」
「気にするな、俺たちは討伐者だ。いつまでも仲間の死を引きずって過ごしているわけにもいかないだろ?」
ボトルロックはサソリ討伐に参加した他のパーティー、マズハビル、ワインオンリの3組で「アルコル」というクランを結成したらしい。飲み仲間らしいのでおそらくアルコールを縮めただけの名だろう。
「まだ準備段階だが、もしあのサソリたちが都市近辺まで来るような事があれば俺たちは再び立ち上がるぜ」
「その必要はないわ、私たちが倒してくるから」
「なんだ? こいつら。ローザ嬢の知り合いなのか?」
「すみません、紹介が遅れました。この方々はメルクベルを拠点とする討伐者パーティーでスレーム・ガングの皆さんです。メルクベルでは難易度Bのクエストまで達成されたと伺っております」
「ほう、それは頼もしい。本当に討伐できるかお手並み拝見といったところだな」
「私たちに任せてよ!」
「・・・本当に大丈夫なのか?」
ロッカとバンが小さい事もあり、不審な表情を浮かべるブランだった。
◇◇
スレーム・ガングとロガンズは岩山地帯の山道入り口までやって来ている。ローザの話では少なくともサソリがいた地点までは馬車で行けるそうなので途中までは馬車で移動する事にした。山道は両側が崖のようになっていて現地点では馬車10台ほど並走できそうな幅広い道だ。山道の先は蛇行しているようで落石したような大きな岩も確認できる。視界良好とは言えないだろう。この山道は太古の昔にいたとされる巨人族が岩山を打ち砕いて作ったという奇想天外な伝説があるそうだ。
話を聞いたセキトモとバンは改めて山道を眺めた。
「この山道にはそんな伝説があるのか。どうしてこの山道を作ったんだろうな?
そう思ってみるとなんだか興味深い」
「そうですね」
「ここからは我々ロガンズが先導しよう」
山道は一本道、モンスターをいち早く発見できる馬次郎がいることを考えればロガンズをここに残しスレーム・ガングの馬車だけで向かっても特に問題ないだろう。しかし、ロガンズの皆が張り切ってるのを見て誰も水を差すような事は言えなかった。
それにローザがローゼル商会の伝手でなんとか解毒ポーションを2瓶手に入れて来ている。スレーム・ガングの3瓶と合わせて5瓶。サソリの毒を浴びても5人までは解毒できるようになったのは大きい。入手困難になった解毒ポーションをスレーム・ガングに譲ってくれとは言えないので同行して貰うのはありだろう。
山道に出るモンスターは主に小型の蟻、鼠、蛇、トカゲなど。変わったところだと中型のアナグマ、大型のカモシカが稀に出るらしい。カモシカは突然崖の上から駆け降りて来るそうだ。宣言通り道中に出くわした雑魚ともいえるモンスターにはロガンズが対処している。特に手を貸す必要はなさそうだ。ロガンズのリーダー、モスバルは熟練者といって申し分ない強さ。そして柔らかな身のこなしで的確に短剣でモンスターを仕留めていくローザ。ローザは相手によってブーストも使っているようだ。
「ローザさんって後方支援かと思ってましたよ。
ブーストの使い方、俺より上手いかも」
「オドブレイクであんたらに出会った後からかな?
あの力をモンスターにも試してみたいと短剣で戦うようになってからどんどん強くなっているんだ。俺たちなんてあっという間に抜かれたよ」
「そうそう、今じゃ率先して行っちゃうし。
余程の相手じゃなきゃもう護衛なんて必要ないよな?」
「だよな~。俺たちが必要なときがあるとするならお嬢の盾になって逃がすときだけかも」
ザイルとパーソンはローザの戦いを見ながら何度も頷いている。
「二人とも見てるだけになってませんか?」
「ははは、バレた?」
「いやいや、サボってるわけじゃないぞ。俺たちは不意打ちで襲って来るモンスターがいないか周辺警戒しているんだから。役割分担ってやつだ」
一番驚いたのは太っちょのゴルの戦闘だ。持っている武器はハンマータイプ、片方は平、もう片方は尖っている。小型のモンスターは一撃で叩き潰すし、振り回せばモンスターが吹き飛ぶ力強さだ。抗魔玉の力をのせなくともモンスターの核を破壊しているかもしれない。倒したあとは鼻息を荒くしている。
「ゴルは持ち前の力を持て余してたからな。
お嬢に刺激されたのかこっちに来てから新しい武器を試してるんだ」
「あの大きなハンマー振り回すって凄いですね」
「レオほどじゃないにしても僕より力は強いかもしれないな」
「しかし、あの武器重いんだよな~、二頭立ての馬車じゃなきゃ持って行けないのが難点ってところだ。下手に持ち歩くとゴルのほうがヘバる」
「ゴルのスタミナがねえのが難点じゃね?」
「そうとも言う」
「「わはは!!」」
ロッカはうずうずしているようだが今のところ順調と言っていいだろう。




