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誓約の騎士と霧の女王  作者: OWL
第一部 第二章 妖精王子の留学
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第25話 学院二年目

 新帝国歴1410年4月のこと。

旧暦では春を意味する草花の神々の名が付けられていた季節にマクシミリアンは帝都に戻った。ギュイや国内の大貴族に認められるような業績を上げたいマクシミリアンは新年早々に帝都に戻りたかったが今年は12歳になるので一足早く妖精宮で成人の儀を行い母から妖精の民の技を受け継いだ。


本来は夏に行うものだったが、夏場はもう学院が開いていて戻る暇がない為であった。


「す、少しは背伸びてるよね」

「去年の目印よりは確かに」


リカルドは明らかに成長速度が鈍化しているとは思ったがわざわざ口にしなくてもマクシミリアンにもよくわかっていた。

体自体は大分筋肉もついてきてかなり頑健になっている。


「病気もしたこと無いし、体も丈夫になったし神々には感謝しないと」

「それならマルレーネ様に」

「もちろん、でもそれだけじゃないよ。母上に僕が7歳の時から一度も病気にならなかったのは神々のご加護のお陰だって教わったんだ。学院でも友人達に恵まれた。問題があっても却っていい結果になった事ばかりだ」


マクシミリアンは今年はもう少し怒りを抑えて謙虚になり、大人らしくしようと反省した。

クーシャントの剣も帝都に持って行って失くしたら大変なので再び玉座に戻した。



◇◆◇



 帝都は街道と海からの快速船で大陸中のニュースが最速で集まる。

それによるとハンスが向かった帝国の砦付近での蛮族との戦いはかなり激化しているようだった。


帝都の喫茶店で新聞を読み、マクシミリアンはハンスを心配した。


「なに、結局あちこちから1000人くらい集まって暇な将軍が率いて行ったというから大丈夫でしょう。商人達も資金面で支援してくれたし」


対蛮族戦の義勇兵は白の街道沿いで最大限の支援が受ける事が出来る。兵糧についても帝国の軍団基地で正式に登録を行うと帝国の責任において完全な支援が受けられる。

家族の心配をしなくてもいいように義勇兵の出身地の領主達が不在の間も今までの7割の給与を代理で支払った。

ハンスの場合はマクシミリアン・・・実質的にはマルレーネが保証している。


「そうだね・・・、それにしてもちょっと不在にしてただけなのに、また新しいお店が出来てる」

「潰れたっぽい店もあるけどね。おっと・・・なになに」

「どうかした?」

「この記事、去年の万年祭で出場選手が禁止薬物に手を染めて、娼館で現行犯逮捕されたって」


喫茶店に置いてあった新聞記事を読むと数名が逮捕されていた。

中には騎士もいて法務省が取り調べをしているらしい。

その中にはフリギア家から生活資金や強化費用を受け取っていたという尋問結果があり、記者はフリギア家にまで直接取材をしたという。

フリギア家は全面的に否定したが、証拠が出て言い逃れ出来なくなっているようだ。


「でも芸術家とか人気のある剣闘士とかを支援するのって金持ちの道楽とか、人気取りで皆やってることだっていうけど」

「まあお金出すならお金の使い方も監査しろっていう事なんだろうけど責任問うのはやり過ぎに思えるなあ」


二人の考えとは違って世間でのフリギア家の社会的信用は失墜し始めていた。


アル・ディアーラ社とアル・パブリカ社の記事ではフリギア家の責任をかなり追及している。この二紙は帝都の新聞社で帝国政府よりだと知られている。

法務省の追及も厳しい事から特に政府の意向が反映されているのかもしれない。


他にオットマー社という自由都市連盟発行の新聞では選手は泥酔して気が付いたら娼館で逮捕されていたという発言を載せてまだ事件の全容解明が進んでいないのに事実として話を進めるのは如何なものかと社説を載せていた。


「お酒には気を付けようね、リカルド」

「殿下も12歳になることだし、そろそろ飲んでみます?」

「僕はいいよ。父上も飲まなかったし」

「はは、本当に殿下は陛下を尊敬してらしたんですね」

「勿論だよ」


フリードリヒは自分でマルレーネの為に作った料理に酒は使ったが、飲む事自体は好まなかった。


「ところで、殿下」

「何?」

「今年から少し言葉遣いを変えてみませんか?」

「どうして?」

「もうちょっと威厳が出るよう心掛けてみてはどうかと思うんです。僕もそろそろ殿下の家臣らしく仕えようと思いますし」


リカルドはマクシミリアンの容姿などもあってフランデアンの大貴族達から軽く見られてしまうのは当面避けられないだろうがせめて威厳は身に付けさせたいと思っていた。


「でも、笑われるんじゃないかな。似合ってないって」

「似合うよう努力しましょう。なに、どうせ周りの連中も偉そうな奴ばかり。対等な口調で馬鹿にされるような家柄じゃありませんよ、うちは。いっそ練習台にしてやりましょう」

「う、うん」

「『うむ』です」

「やっぱ不自然だよ」


リカルドは練習あるのみ、そのうち自然になると強調した。


「でもリカルドにはずっと友人でいて欲しいなあ」

「もちろん、生涯の友ですとも。それはそれ、君臣の関係ははっきりさせておかないと将来は私どころか何万の家臣を持つ身なんですから他人の前で贔屓ひいきは出来ませんよ」

「わかってる。でも王宮で一緒に育った仲間達と一緒の時くらいは許して欲しいね」

「了解であります」

「こら」


リカルドはふざけて答えてマクシミリアンも笑って小突いた。


「でもいいのかい?」

「何でしょう?」

「本当はプリシラをさらって何処か外国へ連れ去りたいと思ってるんじゃないのかな」


マクシミリアンは友人をおもんばかった。

それでは自分に仕え続けることは出来ない。


「仕方ない。父上にせめて打診してみてくれないかと頼んだけど、雷を落とされた。帝都で何を学んできたんだ、と。色ボケしてないで殿下に誠心誠意お仕えする事だけを考えろ、と」

「・・・やっぱりそうなるか」

「そう。残念だけど・・・。相応しい地位を手に入れるには時間がかかりすぎる。手に入れた時には彼女はもう何処かへ嫁がされているだろう。彼女を攫って行けばイーネフィール公とフランデアンで戦争だ。間にあるウルゴンヌも巻き込まれる。本心を言えば自分でイーネフィール公の元へいって申し込みたい・・・」


しかしそれは出来ない相談だった。


「せめて彼女が学院にいる残りの三年間平穏に過ごせるよう見守るだけだ。殿下も今はギュイへの怒りを堪えて学業に専念してください。それが一番の近道です」

「うん・・・じゃなかった。うむ・・・より『ああ』の方がいいかな?」

「そうですね」


リカルドも苦笑して応じた。


「さて、じゃあ学院に行こうか」


帝都の学院ではまだ講義は始まっていないが施設は解放されている。

運が良ければ教師もいるし、帰国せずずっと帝都に滞在している学生が図書館を利用していたり、鍛錬を行っているのでそこに交じろうと相談していた。


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2022/2/1
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