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誓約の騎士と霧の女王  作者: OWL
第一部 第二章 妖精王子の留学
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第15話 学業期間

 新帝国歴1409年6月マクシミリアンの学院一年目の生活が始まった。


6月は旧暦でいうと火の月にあたる。

旧帝国歴の暦では一年は太陽、月、木、火、土、金、水の月として大きく7つの季節に分けられていた。

それぞれの季節の名称は要するに主神と5大神の名前、すなわち太陽神モレス、月の女神アナヴィスィーケ達の事である。木の月に関しては旧帝国から新帝国に切り替わった際に由来となる名称が失われていたが、もはや使用されていない名称だった為研究する学者もいなかった。


新帝国時代に入って天文学が信仰と分離されて発達していくと一年を12の月とした方が合理的とされた。当初は最初の月の名前を新帝国の初代皇帝イシュトヴァーンの名前から取ったが、二代目の皇帝は13代目になったら新帝国は滅亡するのかといって皇帝から名前を取るのを止めさせた。


「結局、魔導騎士の過程を取っちゃうなんて・・・父さんになんで止めなかったんだって怒られちゃうよ」


騎士過程といっても魔導騎士にとって必要最低限の技術を学ぶだけで、それで気になれるわけでもない。


「ちゃんと教養科目も他の王子達に負けないくらい頑張るし、体を動かすのにも丁度いいじゃないか。もう諦めてくれ」

「自由時間が減っちゃうよ!」

「遊びに来たんじゃないんだぞ」


マグナウラ院の中までは護衛が付き添えないのでマクシミリアンとリカルドだけが通学している。翠玉館からも近いのでガルノーにもついてくる必要は無いと断った。それでガルノーは日中帝都の神殿参りや翠玉館の補修工事を行っている。


マクシミリアンはフランデアンが技術的に遅れている事を知り、帝国の軍事技術研究所を訪問してみた。蛮族戦線で友軍として戦う事になる同盟国に対しては割と情報開示は許可されている。


フランデアンにも槍に火薬による推進装置をつけた火槍はあったがまだまだ弓矢が主力だった。帝国では真鍮製の大砲や銃器もあったが、銃の場合、結局台座に銃を備え付けて固定し、火縄を押し付けて発砲する為何百丁も並べて逃げ場も無いほど一斉発射しないと役に立たず機械式の連弩に比べて手間がかかり過ぎた。

それでもまだ開発中の銃では携帯式で取り回しの良い銃の試作品もあり、見学の甲斐はあった。



◇◆◇



学院でマクシミリアンは諸外国の王子や姫たちと自己紹介がてら語り合った。


「でもほっとしたよ。みんな10歳になったら即留学するわけじゃないんだね」

「そりゃあね。学力が基準に達していないのに学院に来ても諸国の王子や帝国貴族の前で恥をかくだけだから」

「そういう君は自信があったんだね」

「貴方も」


マクシミリアンと会話をしているのは西方候であるエスペラス王の子ドラブフォルト。ドラブフォルトは10歳になって即入学してきた。


「私の家の場合は初陣を終えないと国外に出して貰えなかっただけですけれども」


ドラブフォルトを冷たい目で睨んでいるのは北方候アヴローラの娘ストレリーナ。

彼女は14歳で入学してきたのでドラブフォルトの言葉を嫌味に受け取った。


「うちも似たようなものです。まあ対象は蛮族ではなく魔獣ですけど」


ストレリーナに同調したのはリーアン連合王国を構成する国のひとつホルドー王ザルトゥの子ウルトゥ。


「そうか。やっぱり地域が違えば随分考え方も違うものなんだね。その年で蛮族や魔獣を狩ったなんて凄いなあ」


マクシミリアンは一通り受講予定の講義を一度受けた後、講義室でよく出会った面々を誘って昼食を共にしている。講師達は教室、或いは施設の説明をした後簡単な学力テストを行った。この日マクシミリアンが各自に結果を聞いてみた所、ドラブフォルトが抜きんでていて次がマクシミリアンだったのでマクシミリアンはほっとした半面一歳下のドラブフォルトに負けた事を悔しく思っていた。


「マクシミリアンとウルトゥは魔導騎士の課程も取るんだね。王にそんなもの不要だろうに。そんなものに時間を使うくらいなら他の学業に使ったらどう?今からでも遅くない」


ドラブフォルトはあからさまに時間の無駄だと言っていたのでマクシミリアン達は少しばかり不快だった。


「ドラブフォルトは間近に蛮族や魔獣の脅威を感じていないからそんな事を言えるんだ。とくにうちは君らと比べて小国なんだ。古代からの力を受け継いだ力あるものが積極的に前に出て行かなきゃいけないんだ。魔導騎士の成り手は多くない」

「ウルトゥ、抑えて」


マクシミリアンがウルトゥを宥めた。彼の父とは面識があり、親しみを感じていた。フリードリヒの葬儀でホルドー王ザルトゥが来訪してマクシミリアンは丁寧なお悔みを貰っていた。


リーアン連合王国は16の小王国からなる。

全て集まってフランデアンと対等なくらいの人口だが、領地はリーアンの方が広大だった。


「そうか。悪かったウルトゥ。私達も先の大戦で魔導騎士の大半を失った。そして君らとは別の道を選んだんだ。私自身もエスペラス王の養子になっただけで、魔導騎士みたいな力を得る素質は無いみたいだから。でも確かに君達の選択を侮辱したかのような発言はすべきじゃなかった。謝る」

「ああ・・・そうだな。西方はそうだった・・・僕も配慮を欠いたみたいだ。済まない」


西方圏は先の市民戦争で人口の多くを失っている。名族もほとんど死に絶えた。


「それで・・・マクシミリアンは?」


ドラブフォルトはマクシミリアンに話を振ってきた。

マクシミリアンはそこで返答に困った。

つい先日闘技場で見た11歳の女の子に感化されたとはいいづらい。

しかりリカルドが口に出してしまった。


「ウチの若様はアレを見たんだ」

「アレ?」


ドラブフォルトのオウム返しの問いにリカルドは指をさして示した。

その指先の向こうにはヴァルカの舞姫スーリヤとシセルギーテが仲良く庭のベンチで昼食を取っていた。彼らは人気者らしく南方圏の王族のみならず帝国貴族も一緒になって食事を共にしている。

マクシミリアン達は港で遭遇した際芸人の一座かと思っていたが実は王侯貴族だった事を闘技場で聞いた。


この学院では食堂で用意された物の中から好きなものを食べる事が出来る。

学費に全て組み込まれているので無料である。

暗殺を恐れたり食中毒を気にする者は自分で持ってきてもいいし、厨房を借りて自分で調理してもいい。食堂のすぐ側の庭には屋外炊事場もあり雨除けの屋根つきベンチ、東屋も用意されている。

食堂用のスペースは全体でかなり広く作られているのが、屋外スペースも使われる事が想定されている為、屋内用のスペースでは全生徒が食事をするには相席しなければ収まらない。

幸い講義の時間はまばらなので分散され、めいめいに過ごしやすい場所に集まるのが通例だ。


「リカルド。アレといっても皆知らないだろう」

「あ、そりゃそうか。じゃあウルトゥに聞くけど、君は魔獣を狩る時一人だった?」

「いや、まさか。狩りに加わって矢を放ち、槍でトドメを刺させては貰ったけどさすがに一人で任せては貰えないよ」

「そうだろうね。でもあのシセルギーテって子は一人で闘技場に出てレオアードを倒しちゃってね。本当は学院で学べるような家柄じゃないらしいけどなんでも近衛騎士に見込まれて特別推薦を貰っているらしい。それも去年にね、結構大柄だけど今年まだ11歳なんだ」


リカルドも呆れたもんだと思っている。


「ふうん、凄いのは分かったけど・・・王子がそんな事で感化されなくてもいいだろう」

「その後さらに連戦で戦象まで倒してた」

「・・・・・・女の子のやることじゃないね」

「そんなの見たら男としては発奮するな。僕も帰ったらちょっとまた狩りに行こうかな・・・」


マクシミリアンはどうやら子供っぽいと馬鹿にされそうな話の流れからそれてきた事に安堵した。そして話をさらにストレリーナに振った。


「ところでストレリーナは?やっぱりスヴェン族の仲間と蛮族と戦闘に?アヴローラ様の魔術は凄いって聞くけど一緒に戦場に出られたの?」

「え、ええ。そうよ。もちろん、そうに決まってるじゃない」


北方圏の部族会議でアブローラが北方の大君主と定められてから長くまだ後継者が決まっていない。彼女の出身一族は母系社会のスヴェン族であり、蛮族の脅威と接している彼らは女性もそれなりの力を見せなくてはならない。ストレリーナは中々長老達が認めてくれない為、勝手に首都のヘリヤヴィーズから抜け出して最前線に行って戦闘に参加し蛮族の首を狩ってきた。


そしてアヴローラと長老達は指示を無視して危険な真似をした彼女に怒って学問を修めてこいと帝都に放り込んだのだった。ストレリーナも年頃で帝都の男達の目を気にするようになってきてしまい、ちょっとここではそんな事情を言い出せなかった。


「ま、とにかくこれから6年間よろしく!」

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2022/2/1
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